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226.魚人族との共同作戦開始。

 取りあえず魚人族の面々も交えて、今起こっている事案の詳細を話す。アプカルルの領域が近い場所、というところで野郎組が反応してフールーさんに睨まれてたけど、混ぜっ返されたりはしなかったので、まあ、問題ない。


「するってーと何か、その囚われてる仲間の氏族にも協力を仰ぎたい?」

 ブレイザーさんはそれならボクの仕事かなあ、などと言っている。ほう?


「だなあ、俺よりお前の方が向いてるっちゃ向いてるな」

 シュニールさんも同意している。成程、パリピ勢の言う仲間意識は全魚人族に向いている?


「あとは現地に、巻き込まれない程度に偵察に出られればベストか。それは俺がやってみよう。話を聞くに、女は下手に現地に近付けない方が良さそうだ」

 シュニールさんがそう続ける。おう、亡霊の目的までは話してないけど、問題点になんか気が付いちゃってますね?


「なんだい?女だと不都合があるってのかい、あんた?」

 フールーさんが不満げにシュニールさんを睨んでいる。


「だって野郎ばっかりなんだろう?それで十年殺さずに置いてて、更に人を捕えてる、ってんなら、目的は生かさず殺さずというより、むしろできる事なら増やしたい、じゃねえのか?

 だとしたら、女が近付いたら確実に狙われるってもんだろう。まだ様子見の段階でそんなリスクは犯しちゃいけねえぜ」

 すらすらと、あたし達が推測したのと同じ答えを述べるシュニールさん。


「ええ、我々もその点を憂慮していますの。でも万一相手を読み違えていたりなどして、何かあってはいけませんから、ソロで行くのはお勧めできませんわ」

 うっかり読みが外れて囚われました、となると、それを知るのが面倒になりますからね、とカスミさん。確かに連絡は取れた方がいいから、もう一人ふたり、誘っていくよ、とシュニールさんが答えて、当面の動きは決定した。


 というわけで、あたしたちは暫く待機となるのだけど……流石にこの村には泊まれる場所がない。しょうがないので、また二時間かけて一つ前の町、ミシケルに戻ることになった。後の連絡も、ミシケルの方に来てもらえるそうなので、多分三日ほど待機になるんじゃなかろうか。


 まあ戻ってみたらミシケルにも宿はなかったんですがね!幸い定期船の最終便に間に合ったので、タブリサまで戻って例のお宿に連泊をキメるあたしたちであります。連絡に関しては、イルルさんが一旦海に戻って待機することになってしまいました。済まぬ……

 とはいえ、イルルさん的には、化身して人間のお宿に泊まるより、本体で海にいる方がやっぱり快適であるらしい。まだ未熟者でして、と照れていたけれど。


 連絡待ちをしている間も、別に遊んだりはしていない。宿こそ好みで決めたけど。人族漁師への聞き込みは手分けして続けているし、あたしとランディさんで戸別訪問ももう一周してきた。まあ流石に初回の〈治癒〉がちゃんと効いていて、皆さんの健康状態自体は問題なかった。心理的に落ち込みが続いているのは、事案を解決できるか、もっと時間が経過するかでもしないと、だから、こればかりはすぐにはどうにもならないけど。

 あと初日には行けなかった、行方不明者の家族のおうちにもお伺いした。被害に遭った船団は全員雇われ船員さんで、家の場所すらバラバラだけど、全員タブリサ在住の人だそうで。魚人族さんの協力が得られて、本格的に調査がスタートしたから、その報告だ。大半の人は、沈み方を聞いて諦めていると言っていたけれど、調査の結果は是非教えてくれ、という話だった。

 大半ということは、例外もある。一件のおうちからはやかましい、って、挨拶どころか口を開く前に酔っぱらったおじいさんに追い返された。もう一件、新婚の旦那さんが巻き込まれたおうちの奥さんは、自分も調査に参加したいと言い出した。そちらは一旦保留にしてある。何せ、妊婦さんでしたので!


「コルテックさんち、追い返されたでしょう。お母様がすっかり寝込んでしまわれて、お父様がカリカリしちゃってて、近所の人も寄り付けないんですよ。あまりよくないことなのですけれどねえ、かかりつけの治癒師の人も追い返されちゃって」

 参加したいと言い出した妊婦さん、クララさんが追い返されたおうちの内情を教えてくれた。ああうん、感染症ではないけど、微妙に病人の気配あったね……遠隔で〈治癒〉投げちゃえ……


 次の日、無駄かもしれないけどもう一回追い返された家に行ってみた。ら、なんか人だかりができていた。


「なんかあったんですか?」

 結構な人だかりで、入り込むのは難し気だったんで、手近にいた、昨日も見かけたから恐らく近所の人だろうっておじさんに聞いてみる。


「ああ、昨日爺に追い返されてた姉ちゃんかい。あの爺、嫁さんが寝込んだのをいいことに家の金使いこんで酒喰らってやがったそうで、今朝がた急に元気になった嫁にコテンパンにされた挙句に即離婚言い渡されて、トドメに横領と監禁容疑で警邏に突き出されたとこだね」

 あんたは知る権利があるな、と教えてくれた内容が、酷い。というか口も開く前に追い払われたの、やましいところがあったせいとか、完全に想定外だ。


(突然元気に、ってひょっとして君、治癒投げたりした?)

 ランディさんから確認の念話がきたので、やりましたねえ、と素直に答える。経過はさておき、弱り果てるまで監禁される案件にならずに済んだのでヨシ!

 で、警邏の人の各人の主張と室内の確認の後、これはダメだねえ、と爺さんがしょっぴかれていって、野次馬も解散してから、改めて奥さんの方にもお会いした。爺さんよりは少し若そうだけど、結構いいお年のおばあちゃまだ。


「あのろくでなし、昨日くらいからは食べ物もろくに寄越さなかったからすっかり腹ペコよ!だからちょっとご飯買ってきてからでもいいかねえ?」

 うわあ、ごはん抜かれっぱなしだったのか!?ランディさんが何処からともなくすっと卵フィリングのサンドイッチを取り出したので、買い物は中止してもらって、そのまま食べて頂く。


「あらあこれ美味しいわねえ!こんな美味しい卵、初めて食うよ。空腹は最大の調味料ってホントなんだねえ」

 あ、すみません、ランディさんがあ、って顔したから、それ、ロロさんかココさんの卵ですね……デフォで激ウマな奴ですわ……

 そんな訳で、ランディさんの手持ちからいくらか食べて頂いて、落ち着いたところでお話だ。といっても、年末に行方不明になった船を今魚人族と共同で捜索中だという話をするだけなのだけど。


「海で事故ればまず生きては帰れないのは覚悟してますからね、流石にそこまでしていただくのは……」

 ここまで訪ねた全ての家で、同じことを言われた。流石に覚悟決まってるなあ、とは思う。


「いえそれが、実は海難事故じゃなく、拉致事件の可能性が高いんです。特殊な魔法かトラップによる拉致であり、船は判りませんが、人員の方は生きている可能性が非常に高いのです」

 他の家では言わなかったことを、ここでははっきりと告げておく。なんだろうね、この人には言っておかないといけない気がするのよねえ。

 あたしの言葉に、一瞬目を見張るおばあちゃん。若い頃は結構な美人だったんじゃないかしら、と思える強さのある目が、続いて厳しく細められた。


「お嬢さんはどうやってそれを知ったんだい?十年前のクラシコ、は御存知かい?」

 え、この人クラシコの事案を知ってるの?


「はい。そもそも、あたし達がこの案件に関わったのは、そのクラシコの事件が発端なんです。

 で、現在その件に、魚人族の方と、海の聖獣様方も巻き込まれていて、共同で事に当たっているところで、こちらの船の件を知りまして」

 基本的に正直に伝えておく。ただ、アプカルルも関わっているという話はまだしなくていいかなあ、と思ったので種族名だけは伏せておく。まあ町の噂を拾えばすぐ判っちゃうだろうけど。


「……ああ、ひょっとしてガト坊の知り合いかいお嬢ちゃん達。アタシゃあの子のじいさんの妹なんだよ」

 えー!ガトランドさんの親戚!!想定外!!


「あ、はい。ガトランドさんの所に名指しのボトルレターが届いて発覚したんですよ……」

 ボトルレター、の段階で、うんうんと頷くおばあちゃん。


「実はニ、三年前に、あの子達の船だけが見つかってるんだよ。ガト坊は母親が亡くなってしまってから地元を離れていたし、さっぱり帰ってもこなかったらしいから知らないだろうけどね。

 アタシくらいしか船の中身を知ってる身内が残ってなかったし、タブリサに曳航されてきてたから、確認させてもらったら、網なんかは残ってたのに、生活用品だけが綺麗に消えていてね。

 ああこれは死んだわけじゃないんじゃないか、って思ったのさね。

 それにしたってもうちょっと早く連絡くれりゃあいいものを、ほんとにあの子達ったら、呑気なんだから……」

 うわあ新情報だ!と思ったけど、船は引き継ぐ人もないうえに、何度か樹脂強化されていたとはいえ、かなり老朽化していたので、処分してしまったらしい。まあ置く場所も難しいから、しょうがないよね。

まさかのガトランドさんの親戚登場。

あと前半生を他人の善意で生きて来れた人なせいか、カーラさんって人の悪意にちょいちょい疎い。

あと樹脂強化船は五年前後で再強化しないと劣化しやすくなる。

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