217.新年二日目はおうちにいよう。
割と無茶移動した回。
新年明けて初日ですが、今日は午前中の式典が終わり次第、午後には城塞に戻る手筈だ。イードさんは家族の元に置いておいて、あたしとカスミさん、三人組とエルフっ子達が帰る予定、だったんだけど……
……大鷲ワゴン式で行けないか、と、エスティレイドさんがうっかり提案したせいで、ものすっごく揺れるワゴンで運ばれる羽目になりました。ちなみに運んでくれたのはエクセリオンさんです。言い出しっぺのエスティレイドさんは細い系なのでワゴンサイズを運ぶのにはそもそも向いてなかったっていう。というか、良く掴み手のあるワゴンなんてものが在庫あったなあ。
「我が行こうか?」
さらっとマグナスレイン様がそう言ってくださったんだけど、三人組が遠慮しちゃってねえ。
正直サイズとか飛び方を考えると、マグナスレイン様のほうが揺れなかった可能性が高いんだけどねー……流石に国軍将軍様をアッシーにするのはマズイよねえ……
《王族の方に運ばれてる時点で今更ですわよ……》
まあそれはそうなんですけども……何なら直接乗ったこともありますけども……あれは正直もう勘弁かな……
「うわあ地面が揺れるぅ」
ワゴンからふらふらと降りてそのままへたり込んだのはカナデ君だ。鶏たちの方が余程元気ですハイ。エクセリオンさんは、おろおろしながらも、全員が、荷物共々降りたのを確認するや否や、ワゴンを引っ掴んで帰っていった。いや別に揺れたのを責めるつもりはないですよ?!
まあゆれるのはねー なれているし
あたまをうごかさないのが こつ
そうね、鳥って頭にスタビライザー付いてんのかってレベルで位置保持できるもんね……
なおジャッキーは流石にちょっと危なそうだから先に送還しました。多分正解だったと思う。
あとエルフっ子達は龍の王族に運ばれるのは想定外すぎるからベッケンスさん達と帰る、と逃げました。多分それも、正解だ。
「カナデは鍛え方がまだ足りねえなあ、まあ結構揺れたのも確かだが」
サーシャちゃんとワカバちゃんは割と平気な顔だ。ワカバちゃんはスキルの〈不動〉で何故か揺れも軽減できるらしいよ。謎だなあ外来スキルって。
あたし?滑り落ちそうになるよりは余程マシですからね、なんともないです。抱きかかえた、ふかふかした毛皮を撫でてやりつつ、部屋に戻りますよ。
……ええ、カスミさんがダウンして化身解除状態になってしまいまして。想定外。
どうも前日の嵐で睡眠不足だったのが祟ったみたいなんだけども。
(うう、不覚にございます……)
いや、あれは仕方ないわ。あたし、正直言うと、自分が無事なのが自分でも不思議だもの。あとで〈治癒〉かけるわね。
城塞も、嵐が過ぎ去った後の、森から飛んできたり庭で折れたりした木々の枝や葉なんかが盛大に散らばっていて、草食動物系の皆さんと庭師のガトランドさんが一緒になって片付けているところだったので、カスミさんを寝かせて治癒をかけてやってから手伝った。
どうしてガトランドさんは帰省しないのかしら、と思ったら、実家がもうないんだって。西部の漁師一家で、ガトランドさんだけが庭師の道を選んだんだけど、ある日、お父さんとお兄さんたちを乗せて出航した漁船が帰ってこなかったんだそうだ。船の残骸なども一切見つからないままなので、一応行方不明、という扱いではあるのだけど、もう十年ほど何の手掛かりもないままで、その間にお母さんは亡くなられて、お兄さんたちもまだ独身だったので、残ったのはガトランドさんひとり。実家は一応建物は残してあるけど、今は誰も住んでいないから、帰る意味もないのだという。
まあ、海ではよくあることだね、とガトランドさんは然程気にしていないようなそぶりで話を終えたけれど。そのよくあること、って遭難が、なのかしら。それとも、帰ってこない、の方なのかしら。何故か、そこが気になった。
幸いカスミさんも夕食時間頃には復活して、キャリアウーマン風スタイルから、狐獣人のミニスカメイドさんスタイルになった。おおう、やっぱりコスプレメイドさん風衣装、あるんですかい!
「何故か今着ておかないと、当分着る機会がないような気が致しまして……」
カスミさんはそう言うけど、そもそも貴方は種族的にも地位的にも家の管理に携わるメイドさんじゃなく、あたし個人にだけ関わる侍女さんじゃないですかねえ?
「そういう衣装も伝来してるのは判りましたけど、流石に冬にミニスカの需要はないので、せめてロングになりませんかね……」
それに、いくらハルマナート国、しかもほぼ南端といっていい場所にあるこの城塞といえど、冬の朝夕はそれなりの温度だ。ミニスカはちょっと寒そうに感じてしまう。
「確かにそうですわね。季節感を失念しておりました。ではこちらで」
ぽん、と煙と共に、今度はホワイトブリムはそのままに、あたしの世界で言うところの極東古典風の直線裁ちの袖の下がる衣装に白いエプロン、足元はショートブーツ、という、これもなかなかマニアックな女給さんスタイルになった。かわいいな?というかこれ服装まで変化なのか。
「本当でしたら衣装自体も用意したい処ではあるのですが、獣人スタイルですと尾の始末に困りまして」
聞いてみたら成程納得な理由が返ってきた。もちろん、獣人用衣料はその辺考慮されたものが市販されているけど、カスミさんの場合、しっぽのあるなしからして、自在に変更可能ですもんね。変化でそこまで作れる以上、市販品である必然性もないし。
その格好で全員に挨拶したら、いい感じにウケは取れた。カナデ君達の世界にもこのスタイルの女給さんという概念はあるそうだ。ランディさんも当然のように知ってた。多分情報源はケンタロウ氏でしょうね、カナデ君達と同郷だもんね。
「カーラねーちゃんとこにも女給さんの歴史はあったのか……」
サーシャちゃんがあたしがそう紹介したことに引っかかっている。
「そうね、あたしの世界でいうと極東って自称してる島国の文化ね。まああたしも三代前くらいまでそこにいた家系ではあるんだけど」
あたしの世界も、丸い惑星の上に住んでいる、というのは当然知られているんだけど、とある事情で、海路で世界一周というのができないのよね、物理的に。いや、空路では一応飛べるけど、確か暗黒大陸は避けて極点通るルートが基本のはず。
あの島国の自称が極東なのは、あそこの東には暗黒大陸しかないからだ。
暗黒大陸というのは、大昔に当時そこにあった二国で絶滅戦争をやらかして滅びて汚染物質まみれになり、生き物は細菌レベルで一切住んでいないし、再開発も諦められている土地ですね。
なので文字通り、人類圏の極東であることを誇る地名なのだと教わっている。
「俺らで言う日本の気配がするな……コメ食ってそう」
「コメは極東発祥で、海向かい、西隣の大陸でも作ってはいたわね。あたしが住んでたのはもう少し西よりの内陸部だったから、そこまでしょっちゅう食べてないけど」
極東から集団移民した町だったから、それなりにコメも作ってたし食べる機会もあったけど、喜んで食べるのは大体おじいちゃん世代までだったのよねえ。
「うわあコメの伝播ルートからして違う!南方原産じゃないのか」
サーシャちゃんがなんだそれって顔してる。南方?熱帯作物からのルートもあるのか?
「なんでサーシャが一番コメに詳しいんだろうな……」
カナデ君が首を傾げている。サーシャちゃんは少なくとも外見的には彼らの言う日本の人ではないらしい。そういや名前も二人やケンタロウ氏とは系統が違うね。
「そういえばこの世界には稲がないのですよねえ。我らの元の世界では我らが伝来したものでありましたのに」
カスミさんがそんな事を言い出す。へえ?ああでもそうだ、イナメさんの姓は水田の女神様ですもんね、コメとは関りが深そうだわ、確かに。
「へー、舞狐っていわばお稲荷さんなのかな?」
サーシャちゃんは今度はそちらに興味がいったようだ。
「ええ、昔はイナリという家系もございましたね、この世界に来る前に絶えてしまいましたけれど。ただ、故地でも我々は信仰までは特にされておりませんでしたから、貴方の仰るようなお稲荷さん、とは似て非なるものでございましょう」
カスミさんの回答ももっともだ。世界が別ですもんね、細かい所は色々違ってるものよね。
その後も、元世界ごとの違いの話で案外と盛り上がった。カスミさんは古い知識もカガホさんに教えられて、相当多いのだといって、ほんとに色んな話をしてくれたし。
そして、どうも文化程度の違いを多少割り引くと、あたしの世界とサーシャちゃん達の世界のちょうど中間位の世界感がカスミさん達の元世界、といった風情だった。
ランディさんはずっとニコニコ顔でメモ取りながらあたしたちの話を只管聞いていた。知識欲も半端なかったね、この人……
なお晩御飯はお魚尽くし再びでした。今回は何故か全部ランディさんの在庫から出たよ!美味しかった!!!
そして何故か翌日のごはんも全部ランディさんの在庫から出た。なんかすっごいご機嫌だな真龍?!
知識欲が満たされると好感度が爆上がる真龍、ランディさん。