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216.年末年始は王城で。

正月といえば初日の出(掲載時期考えてものを言いなさい)

 翌朝は大嵐だった。うん、昨日の夜くらいに城塞のランディさんから連絡があった通りではあるのですが。年始はともかく、年末に嵐が来ること自体は、さほど珍しいわけではないらしく、皆割と平然としているけど。ただ、カスミさんが登城できなくなってしまった。合流してから聞いたけど、宿から出るのを全力で止められたそうだ。そりゃそうだよ!変化は勿論、本体の狐でもきっと吹き飛ぶよ!?

 あと、そろそろ呼んでおくか、とジャッキーを呼び出したら、なんかずぶ濡れ兎になって出てきて、慌ててタオルを持ってくる羽目になった。どうもアルミラージ達の住処の一部の屋根が吹っ飛んで浸水したらしい。ただ、濡れただけで、一応避難も済んでいるから特に怪我した子などはいないそうだ。あ、ミモザは家族と過ごすので今回は呼ばないよ。


 ジャッキーが割と酷いことになっていたので、鶏たちも雨になる前にカナデ君の部屋に避難させて、掃き出し窓は全部鎧戸を閉めたうえで、更に外側から土嚢をいくつか積んである。雨はさほどでもないけれど、風が割と本気でヤバイのが冬の嵐だそうだ。

 まあ冬といっても、ハルマナート国の場合は他国なら春だろって気温ではあるのだけどね。これがサンファン辺りだと、地域によっては大雪になるそうだし。


 そんな訳で、今日は一日王城内部でじっとしている感じになってしまった。久し振りに買い物行きたかったんだけどなあ。

 代わりに予定を変更して、お昼ごはんがお魚祭りになることが決まった。サーシャちゃんだけだとそう何十人分も作れないけど、王城の料理人さん達、生魚の扱いもできる人がちゃんとそれなりの人数いたのです。氷属性持ちが水ごとがっつり凍らせてから運んで来るシステムで、王都にもたまに鮮魚が届くっちゃ届くんだそうだ。希少魔法を使うのと、氷の重量のせいで手間賃と運送費がかなりかかるそうで、かなりの高級品だけど。


「私が運ぶって手もあるんだけどねえ、流石にホウ君とリューラちゃん位しか好んで食べないとなるとねえ?」

 最近氷属性がランクアップして、初級の〈アイスバレット〉も使えるようになったサクシュカさんがそんな事を言っている。そうよね、凍らせてから化身して持ってくれば半日かからないですよね、貴方?


 今回出したお魚は、主に先日タブリサの方で買った白身魚たちだ。うん、そっちは今度ランディさんの都合がいい時に一緒に買い付けにいくから放出するぜ!ってことらしいんだわ。むう、すっかりランディさんの転移魔法をアテにしておるな……?


「ほうほう!流石ですね、市場直送状態じゃないですか!目利きも素晴らしい」

 もともと港町出身で、魚の目利きには自信があるという料理人さんが目を輝かせている。王都だとなかなか鮮度のいい魚には出会わないので、是非に、と立候補してきた人たちだからね、情熱凄いよー。


「じゃあ今回は人数も多いから、焼き魚は特に希望する人だけにして、あとは揚げ物と、タラ辺りは鍋にしていくよー」

 刺身は人を選ぶから、また今度ねー、とサーシャちゃんが取り出した魚を次々に料理人さん達に割り振っていく。所謂鍋物は、異世界人から伝来したので、この王城にも結構な数の土鍋が所蔵されている。しゃぶしゃぶとか豚鍋とか冬によく食べるそうだ。

 忙しくなりそうなので、無事にお魚の引き渡しが終わったら、サーシャちゃん以外は一旦調理場からは退散だ。


「あんなちっちゃいのに、大した腕らしいわねえ、あの子」

 サクシュカさんが、サーシャちゃんをそう評している。


「サーシャって割となんでもできるよね」

「キャンプの時は敢えて後方腕組してましたけどねえ」

 キャンプの時はねえ……俺が全部やっちゃったら練習にならねえだろ、と正論で撃破されたからねえ、あたしたち……


 お昼ごはんは魚尽くしにも関わらず、ダンスィずにも大変評判が良かった。まあ骨の心配のない魚種が多かったからだとは思うけど。唐揚げとか普通に骨まで全部イケたし。


「ヘッセンのお料理とはまた違った感じで、これもいいわねえ」

 サクシュカさんも満足そうにぱくついていた。これでたまには魚もいいね、ってなったらカルホウンさん大勝利だろうか?いや、普段だとやっぱり輸送がネックになるから、今後もそこまでは変わらないかも知れないね。



 嵐は夜半くらいまで続くとのことで、日が暮れたであろう外では、まだ暴風が唸りを上げている。ああ、微妙に属性力が載ってるなあ、そりゃあ荒れるよね。

 そんな中での晩御飯は、前日とはうって変わって、外国の賓客もお迎えするときの正餐会スタイルだ。久々にシエラさんのマナー技能を借りましたハイ……

 三人組にも一応基本だけ教えてあったけど、三人とも意外とそれなりに様になっていた。


「「「……だめだ、兄ちゃん達が前日と同一人物に見えない」」」

 三人揃って同じことを言い出したのには笑いそうになりましたが!正餐なんで出来たらそういう笑いを持ってくるのはやめていただけませんかねえ!?


「そうは言うけど、君らも充分、様になっているじゃないか、急遽練習した、という雰囲気でもないし」

 そう真顔で突っ込むのは、エクセリオンさん。エルネストさんとエスティレイドさんの間のお兄さんね。濃いめの緑の髪を、エスティレイドさん同様撫で付けているのだけど、金属めいた質感に見えるのはエルネストさん達と同様だ。最初に生まれた五人兄弟の一人だけ、海で戦死したとかで、今は四人の顔立ちそっくり兄弟だ。ただ、エクセリオンさんだけ、少し体格がいい。龍の姿も、一人だけ紋章学系ドラゴンで、同腹兄弟たちの細い龍と系統が違っている。


「元の世界のマナーと余り変わらないから、何とかなっている感じですね」

 ワカバちゃんが代表して答える。ワカバちゃんとカナデ君は割といいおうちの出だったらしいよ?ケンタロウ氏の方は普通の家だった気がするけどなあ、なんて言っていて、二人に何言ってんだこいつ、みたいな顔されてたけど。

 サーシャちゃんのほうはまあ、色々あるんだよ、とだけ言っていたので、特に詮索はしてません。別に必要な情報でもないしねえ。


「ああ、そうだよねえ。こういうマナーだなんだといったものも、異世界から伝わった物が多いからね。そして世界間の差異が、意外と少ない。まあ収斂進化みたいなものだろうけど」

 うんうん、と納得したように頷くエクセリオンさん。

 龍の王族御一行様も、大分顔と名前と龍の姿が一致するようになってきたなあ……コムサレンさんと、ハラルカールさんの兄弟の人たちだけ、いまだに話す機会自体がなくて、微妙に判らないんだけど……


 正餐の後は、例年だと講堂で集会するらしいんだけど、今年は嵐なので中止になって、食後に女王様の談話を聞いただけで行事は終了。新年の飾りつけも風に飛ばされないよう片付けちゃったから、地味な新年になりそうだ。



 翌朝はなんとも見事な青空だった。初日の出を拝む習慣もどこかから流れてきたとかで、三人組やジャッキーと王城の塔の上から見たよ!

 あと新年飾りは嵐が過ぎたあと、男性陣総出で飾り付けを明け方まで頑張ってやりなおしたそうだ。執念凄いな!


「おー、この眺めはなかなか」

 サーシャちゃんが感心している。ジャッキーとカナデ君とワカバちゃんはすっかり風景に見入っている。あたしも日の出を拝んだあとちょっと下の方を覗いてみたら、嵐の後片付けをしている人や日の出を見る人などで結構ごった返している広場のど真ん中を、見覚えのある狐色の髪が王城に向かってダッシュしてくるのが見えた。カスミさん、今回は化身モード、尻尾なしかー。


「おや、あれは舞狐の……?随分急いでおられますが、何かあったのでしょうか?」

 近くにいたハラルカールさんがそれに気付いて首を傾げている。


「昨日嵐で足止め食ったからだね、待っていればここまで来ると思うよ」

 ふふ、と謎の笑いと共に、フラマリアでの経緯を知っているエスティレイドさんがそう答えている。


「新年おめでとうございますお嬢様、皆さま。本日よりカーラお嬢様付きを務めさせていただくカスミと申します。よろしくお願いいたしますね」

 その言葉通り、数分後には背後の扉が開いて、息切れもしていないお澄まし顔のカスミさん。

 メイド服でも着て来るかと思ったけど、どっちかというとビジネススーツに近いぴしっとした格好だ。まあスカートはマキシ丈なんですがね。


「カスミさん……いや、貴方、五尾(いつつお)のカスミ様ですよね……?カーラ嬢付き……?」

 ハラルカールさんはカスミさんを以前から御存知のようで、挨拶を言い切ってにっこり笑っているカスミさんを見て鳩豆顔になっている。


「ほら春のスタンピードで舞狐の姫をカーラ嬢が助けたろう?その返礼らしいよ」

 簡潔にエスティレイドさんが説明してくれている。

 確かに流れとしては正しいんだけど、正直どうしてこうなった感は、ちょっと、否めない。

ええ、カスミさんも実は偉い狐です。

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