番外編 学校に行こう!
今部で全然出番のなかったエルフっ子達編、三人称。
2回更新2話目ですので、新着からの方は一つ前からどうぞ。
シェミルナージェとティスレカータのふたりは、夏真っ盛りの頃に、生まれた土地を離れ、ハルマナート国へとやってきた。
新しい生活に慣れる為、という理由で、秋までは二人を引き取ってくれたカーラお姉さんや、異世界人のカナデにいちゃんとその仲間だという二人とかと、一緒になってあっちこっち遊びまわったりしていたけれど、秋も深まってきた頃、自分達も同世代の子供たちともっと交流するべきでは?ならばまずは村の学校に通ってみよう、と考えた。
まずは話だけでも、と、村の人達に相談してみたら、諸手を挙げて歓迎された。同じ年代の子達との集団生活を経験しておくのは、大事だよ、と言われてやっぱそうかー、と改めて決意する子供たち。
でも、学校に本格的に通うとなると、流石に城塞から毎日通うのは、ちょっと無理だ。召喚師なら、騎獣にお願いして乗せてもらうこともできるだろうが、生憎エルフ族は種族全体の傾向として、召喚術の素養が、あんまりない。この国に来た最初の日にお世話になったフェアネスシュリーク様はエルフで超級召喚師だけど、あの人はどう控えめに見積もっても、例外中の例外だ。
その辺はどうしよう、と聞いたら、フレオネールさんちに空き部屋がまだあるから、学校のある日はこちらで過ごせばいいよ、という話になった。村長さんちは、代々子供が多くて、子供部屋は空きが充分あるし、というのだ。世間ではこういうのを下宿する、というらしい。
そこまで話を纏めてから、城塞に戻って、カーラお姉さんたちに話をしてみる。
「学校?そうね、行けるならそれもいいわね。ただ、教科によっては、君たちからもお友達に教えてあげてね、みたいになっちゃうかもだけど」
カーラお姉さんは肯定しつつ、ちょっとカナデ君達と同時だったから、勉強を結構詰め込んじゃったからねえ、などと付け加える。そんな詰め込み式の勉強なんてした気がしないけど、と首を傾げるふたり。
「えー、村から通うの?あんまり会えないのは寂しいなあ」
カナデにいちゃんは、案の定ちょっとへたれた事を言う。どうも時々自分達より子供っぽいというか、寂しがりなところがあるなあ、と苦笑するふたり。
「いやいや、ずっと会えない訳じゃないし。そもそもにいちゃんも春には村に行くんでしょ?」
「そうそう、それに、学校が休みの週末はちゃんと帰ってくるよ?」
その時はそんな風に説得する羽目になったりもしたのだけど。
結局二人の提案は許可されて、秋の収穫期が終わったところで、ベネレイト村にある初級学校に通う事になった。週末だけ両親が村に帰るベッケンスさんちとは逆に、週末だけ城塞に帰る形だ。
登校初日は、殆ど挨拶だけで終わった。結構な人数がいたから、それぞれ自己紹介してたら、結構な時間になってしまったので。あれ、この学校思いのほか緩いな、というのが初日のふたりの感想になった。
決まった時間割というものも一応あるのだが、ちょいちょい変更が加わって、体育の時間が近所の丘までピクニック、になったりすることすらある。カリキュラム自体に相当余裕を持たせてあるらしく、それでもちゃんと授業の内容自体は予定通りに進んでいるんだそうだ。
そして案の定、書き取りと計算と地理の授業は、ふたりは完全に教える側になった。魔法の授業は皆と同じで初級だけど、何せ開拓村には今までエルフ族は全然いなかったから、ティスレカータの使う植物属性は、残念ながら学校にも教えられる先生がいなかった。王都まで出れば普通にエルフ族の先生もいっぱいいるんですけどねえ、と、小柄なコボルト族の先生がしょんぼりしたので、二人で慰めた。ふわふわの毛が触り心地が良く、いやいや、カーラお姉さんじゃあるまいし、自重自重。
季節はもう冬の入り口だ。
半月ばかりですっかり学校という物に馴染んで、遊び友達も順調に増えたふたりではあるが、春に災害でだめになった村から来たという、数人の子供たちとだけは、どうにもうまくいっていない。
サンファンから来た、というのが気に入らない、ようなのだが。はっきり口にしないまま、話しかけても無視したり、ちょっと足を引っかけようとしたりするのは子供としてもいかがなものか、と呆れるだけのふたりだ。というか、彼ら、元々の村の子達とも、あんまり仲良くしているところを見かけない。
サンファン出身組の一番年上はフレオネールさんちの子になった兎獣人のコルケラだけれど、彼もあの子たちはなあ、と苦い顔をするばかりだ。
まあ全ての人と仲良くできるなんてふうに、世の中はできていないしね、と早々に見切りをつける、そういうところは程々にスレたエルフっ子達である。
ところが、週末を目前にしたとある日。城塞から連絡、というか手紙が来たという。
「えー、お姉さんたちおでかけしちゃったのか」
要約すれば、異世界人への招待状が来たのでフラマリアまで出かける、暫く城塞に戻れないので、週末をどちらで過ごすかは自分達で決めるように。但し城塞に居残ってるのは大人組だけです、との手紙の前半部を見て、しょんぼりするティスレカータ。
「いや、ちゃんと事前についてくるかどうか、確認の連絡来てたわよ?学校あるから行かないって返事しちゃったけど。今長期間休むと、最悪また人付き合いを最初からやり直しになりそうでちょっとタイミング悪いよねって」
まさかの:シェミルナージェの独断。一瞬膨れるティスレカータだったが、実際例の子達のことを考えると、その判断には納得せざるを得ない。
「その代わり年末年始の予定が確定したわ。お城にご招待されちゃったよ、あたしたちも」
年末年始の王城での式典には間に合うように帰るので、王都で合流することになるだろう、という続きを読んで、早速移動手段をどうするか、フレオネールさん辺りに相談しなくちゃね、とニコニコ顔になる、現金な二人である。
ハルマナート国は暖かいので、学校の冬のお休みは非常に期間が短い。ただ、開拓村の場合、新年は、元々の出身地の親戚と祝うために移動する家庭が結構多いので、他所より少し早く休みが来る。
今年はそこにもってきて、西部の海から大きな嵐が来るという予報が出たため、前倒しで休みが始まることになった。移動に関しては、ベッケンスさんちが奥さんの実家で新年を祝う予定だそうで、王都までは一緒に連れて行ってもらえることになった。相変わらず移動に関しては運がいいふたりだ。
王都までは順調に出て、そこからは別行動。といっても、降車場には、秋にキャンプ場で一緒に遊んだ龍のお姉さんが、隣に若緑色の髪のエルフの小柄な、でも大人の人と一緒に既に待ち構えていて、ふたりはベッケンスさん達にお礼を言ったところで、龍のお姉さんに二人一緒に抱き上げられて、ダッシュで王宮に連れ込まれた。それこそ、えっ、と小さい声を上げる暇しかないほどの素早さだった。イードさんの親戚だそうだけど、やっぱり龍の人たち、ちょっと変わってる。と認識してしまうふたり。
王宮に着いたら、もうひとり、大体いつも王宮か学院のどっちかにいる、という分類学者のエルフのおねえさんを紹介された。小柄な人はお針子兼パタンナーという仕事、つまり裁縫屋さんのミケリアツィーシャ、分類学者の金髪の人はユスティーニアというそうだ。
「私は植物属性があったけどとても弱くて、農業は無理だったし、服飾にずっと興味があったからこの仕事を選んだの。自分でもいい選択をしたと思ってるわ」
ミケリアさんは自己紹介の時にそう言っていた。ユスティーニアさんのほうは自己紹介はとても普通だったけど、事前に龍のお姉さんから、城塞の生き物の話はしてはいけない、と念を押されたので、どうやらちょっと癖のある人らしい。どちらかというと、この人が龍の人の一人の奥さんだというほうにびっくりしたけど。
カーラお姉さん達は、フラマリアでも仕事ができちゃって、年末ギリギリの帰国になるというので、それまでの二日ほどは、学院で魔法の勉強をさせてもらえることになったふたり。流石に学院にはエルフ族や、それ以外の種族にもたまにいる、植物魔法の権威レベルの先生がいるので、ユスティーニアさんが手配してくれた。彼女もエルフ族のいない地域に住んでいる同胞の事は気にしているそうだ。とはいっても今開拓村にいる四人のエルフの子供たちで、髪の色に影響が出るほど植物魔法適性があるのはティスレカータだけなので、後の子には適性があっても初級どまりだし、ティスレカータが教えればいいだろう、ということになった。
年末の、本当にギリギリ、翌日はもう大晦日だよ、という日になって、ようやっとカーラお姉さん達が帰ってきた。久しぶりに再会した途端、あら、背が伸びた?と聞かれて、ちょっと嬉しいふたりである。
やっと一部でチラ見せ状態だった王宮のエルフ二人の設定がお出しできたッ……
ユスが割と暴走しても許されてるのはマルローの愛妻だからだったという。
で、次回から第七部です。




