214.本格的な冬の前に。
下書きが何故か3行くらい消えてて焦って書き直した。
それから一週間程、子猫の経過観察をしたけれど、現状で猫又などの幻獣になる気配は、ないらしい。
(ほんに可愛らしいですけど、魔力がちいっとあるだけで、ごく普通の子猫でござんすねえ。念話も使えそうにありませんし)
二本の尻尾で子猫をじゃらしてやりながら、ナターリアさんもそう判定している。
なおナターリアさんは、三毛猫なところが何やらケンタロウ氏の気に入ったとかで、正式に神殿住みになることが決まった。ついでにジロちゃんも。ひょんなことから就職できちゃった?ジロちゃんは、今は頑張って鼠取りに励んでいる。
ここの神殿、とにかく敷地が広いんで、人の目の届かない所に鼠が侵入して、ちょいちょい生息してるんだそうだ。神様的にも魔鼠ならいざ知らず、普通の鼠までは判別できないのだそうな。まあそりゃそうか、魔力もない、只の小動物だもんなあ。実は、以前からジロちゃんたち、その鼠目当てにちょいちょい神殿敷地内をうろうろしていたんだそうだけど、それも鼠を取ってくれるならいいか、って大目に見られていたらしいけどね。
なお神殿側一般職員さんも意思疎通が比較的容易な猫又のふたりには助かっているそうな。結果オーライ。
トロット村の方も、全員きちんと健康を回復したという報告が届いていた。舞狐族の村の方も、何らかの被害は受けたものの、その分のリカバリはもうできているらしい。舞狐族にも治癒師はいるんだそうで、派遣までしなくて済んだのは幸いだったそうな。陸からだと、沼の中に一本だけぐにゃぐにゃと通っているだけの、なんかすっごい悪路を行かないとたどり着けないらしいよ。一度イナメさんにご挨拶に行きたいなあと思ってたけど、行ったことある人全員にあの道は無理だって止められたもんね……
「五つ尾になったら絶対見せに行くと息巻いておられましたから、修行の成果をお待ちしてさしあげてくださいな」
カスミさんにもそう言われたので、自重することにしましたハイ。
そんなこんなで、此処に来た用事も、此処に来てから降って湧いた用事も、全部片付いた。
エスティレイドさん達ハルマナート国組はそろそろ書類の山がやばそうだから、と、一足先に帰っていった。うん、カルムスさんが、複数名の字が読めなくて書類決済が滞ってるって手紙を持ってきましてね……実はイードさんは読めるんだけど、彼を国境から動かすのは年末までナシなので……
で、今回の帰りは、海路で向かうことになった。うん、サーシャちゃん達がどうしても西部のお魚が食べたいって騒いだもんですから!
乗合馬車で、アフルミアから西へと向かう。ほぼ真西に真っすぐ通っている街道があるので、ハルマナート側に南下するときより距離は確かに短い。
で、到着したカレントスという港町で、一泊ついでに朝市で魚を買い漁る三人組とランディさん。
「おーホントだ!東と魚種が全然違う!ブリ!ヒラメ!タラ!イカ!カニ!!」
サーシャちゃんが目をキラキラさせて目利きに挑んでます。最初はなんだこの子供?って顔してた市場の小父さん達が、段々真顔になっていくのが大変面白かったです。
「いやあ異世界人なのは格納魔法で判るが、それにしたってこいつぁしてやられたなあ」
いいものをがっつり買いこまれたおじさんがなんだか楽しそうに苦笑している。いやほら観光客価格的なノリで!値切りはあんまりしてないから!おまけは一杯貰ったけど!
なお今回、実はここまでの道中はエレンさんも一緒でした。彼女も高性能収納魔法持ちなもんで、ケンタロウ氏に魚が食べたいから買ってきて、とおつかいを頼まれたんだそうだ。彼女は買いものが終わったらランディさんが転移で送っていく予定。
彼女の目利きもなかなかだったけど、魚市場の小父さん達一番人気はやっぱりサーシャちゃんでした。
エレンさんを送っていったランディさんが戻ってきて、いよいよ久しぶりの船です。
冬の入りからはそれなりに経っているとはいえ、まだ然程海は荒れていないようなんだけど、マッサイトから帰ってきたときの船より大分小さいから、ちょっと心配になるよね。
まあ何事もなかったんですけどね、船旅。ちょっと混んでて、珍しく家族連れとか結構いたなあという印象。そういやそろそろ避寒客のシーズンだったっけ……
ハルマナート国は西の観光地、タブリサに着岸です。ここのお魚も買う気満々のサーシャちゃん達。まあそうね、魚の種類が少し変わるらしいからね。
「おーカンパチ!カワハギ!ってフグいるけど食えるの?」
ちょっとびっくり眼でぷっくりつやつやしたフグを見つめるサーシャちゃん。
「おう、そっちの小さいのは皮剥いで内臓も全部抜かないとだが、でかい方は卵と消化器官以外は食えるぜ、肝和えが絶品さ!」
なんと、大きい方、肝臓に毒がないフグらしい。世界が違うと色々違うな!
ただ、流石に免許がないと捌けない魚だそうで、小さいやつを身欠きに、大きい奴は毒のある部分を抜いて貰って買うことになったよ。
「ってあれ、一匹だけアウトなのがいる?」
どれどれ?あ、ほんとだ、一匹だけ全身毒なのがいるわね?見た目は大きい方にそっくりだけど、ちょっと濃いめの紋の色、そしておでこに赤い点が付いていて、そこに気が付けば割と目立つ奴だ。いや、この赤い点は目印として付けられた奴ね?
「え?確かに仕分けて……うわあだめだ、なんでこれがこっちに混ざったんだ?!済まねえ、混入があったんじゃ今日はフグは売れねえ!また次の機会によろしくな!」
大慌てで店じまいして、ダメな一匹を持って市場の管理事務所に走るおじさん。
というわけで、フグは買い損ねました!一匹ダメなのが混ざってると、市場のフグ類全部再検査なんだって。後で聞いたら、幸いその一匹しか混ざってなかったそうだけど。
なんでも、全身毒タイプといっても、一匹丸ごと全部食べでもしない限りは死なないらしいんだけどね。ただまあ解毒は魔法じゃできないので、自重するよね……
ちょっとした騒動はあったけど、今日のお宿には無事到着。今回は国境城塞にはランディさんだけ向かって、あたしたちは王都直行だ。仕事が増えて、予定より大分帰りが遅くなっちゃったからね。なお例の調査は国神様依頼の仕事、というわけであたしたち全員報酬を受け取っております。今回のサーシャちゃんのお魚買い込みの原資ですね。
このお宿のごはんも、お魚たっぷりで大変おいしゅうございました。フグ騒動の話をしたら、この子達は宿でも検査済みですから大丈夫ですよー、と小フグの唐揚げを出してくれた。ぶっちゃけフグは前世もあわせてはじめて食べたけど、大変美味しかったです!なるほどサーシャちゃんが拘るのも判るわこれは。
そしてランディさんがフグのシーズンの間に確保してやろうって約束してた。すっかり趣味の料理人同盟ができあがってるなあ。サーシャちゃん、ランディさんの紹介で醤油と味噌も無事確保してたし、サーシャちゃんが厳選した魚醤も、こんな逸品があったのか、ってランディさん、すっかり気に入ってたし。
翌日からまた乗合馬車を乗り継いで、一泊挟んで、夕方遅くに王都ハリファにたどり着く。
冬だからもう辺りは暗くなっていて、魔法の灯による街灯が盛大に灯っている。新年祭の準備も進んでいるから、いつもより明るいくらいだけれど。
降車場についたら、例によってサクシュカさんと、なんとマグナスレイン様が待ち構えていた。うわあ久し振りに見るけどやっぱりドイケメンだわ!!!
「うわ、なにあの人?でっけえ!」
「ほんとだ、サクシュカお姉さん細いから三倍どころじゃなく差があるように見える」
「でもすっごく綺麗な人」
流石にマグナスレイン様には会ったことがなかった三人組が、口々に感想を囁きながら降りていく。あたしも続く。
「カーラ嬢、久しいな。健勝そうで何よりだ」
開口一番、あたしにそう言うとそっとあたしの手を取ってその甲に口づけするマグナスレイン様。おおっとぉ?!龍の方に王族仕草されるの、めっちゃ効くわね色んな意味で!
……いやほら、普段お付き合いのある兄弟勢とかサクシュカさんとか、そう言うところほんと見せないからさあ……できるのは知ってるけど……
「あっ兄上ずるいっ」
案の定、速攻で雰囲気をぶち壊しに突っ込んでくるサクシュカさんは相変わらずで、思わず苦笑するあたしたち。
あーでも、久しぶりにマグナスレイン様にお会いできて、ちょっと気分はアガるわね、確かに。それに、いつものサクシュカさんを見ると、帰ってきたなー、ってすっごい安心感があるのよねえ。
うん、やっぱりあたしは、このハルマナート国の人になりたいのかも、しれない。
でもそれはもっと先の話、ちゃんと修行して巫女の契約正式にキメてからだけどね!!
というわけでハリファまで戻ってきたので第六部はここまで!人物紹介がいつも通り同時更新だよ!




