196.続・『自称勇者様の冒険』考?
続いた、んだけどさあ。
基本的にこの作品群、王位に就く辺りで終わってるものが大半だ。まあキリがいいというか、人として昇りつめた、という意味では判りやすい終わり方といえるからね。
ちなみに自称勇者様ことケンタロウ・マツダがフラマリア王になったのは、伝記と史書によれば、結構晩年に近い頃であるらしい。彼の旅の仲間にして愛妻が彼の二代前の王の三女、だったんだそうですよ。歴史書によれば、在位期間は割と短くて、彼の即位時に既に成人して暫く経っていたらしい長男に、早々にその位を譲っている。例のチーレムはだめと返答した三代目の王は、この長男の、これは次男だそうだ。兄はどうしたのかと思ったら、なんと、ハルマナート国に婿に出てたよ……イードさんの手元に、割と古いフラマリア版の文献があったのは、どうやらこの人が持ち込んだものらしい。
ところが、ラノベ各版は、もっと早い、若いといっていい時期に王位に就いて終わるエンディングが、非常に多いのよ。なんでだこれ?おっさんが王位に就いても絵面が悪いとかそういう脚色?でも歴史改変もやめてって初期に自称勇者様の孫である三代王に釘刺されてたよね?
なお、最初に書かれたラノベ古典版の方はというと、例の、堕ちた神の滅びと、それに対して新しい神が座に就いた事の文面で完結している。自称勇者様が討伐者だったのか、観測者だったのか、それすら記述がないのだけど、それでもそれは、彼が王位に就いてからの事だったように書かれている。そして、王位に就いた時期は、伝記の記述に従ったようで、結構遅い。ただ、彼の姿はずっと若かった、とも書いてある。
まあその辺の設定はよくあるし、実際、魔力が極度に多い人間は、身体も余った魔力で強化されるのだとかで、老化が相当遅くなる。寿命の方は老化の遅さほどには伸びないそうだけど、まあそっちも一応、延びる。
……あれ?ってことはあたしも、残り人生五十年とかそんな可愛い数字じゃなくないか?今、身体的には十七歳なわけですし?いやもうすぐ十八だっけ?
《ランディ様が以前仰ってた感じですと、あと百年以上は余裕でありそうですよ?あと誕生日はもうとっくに過ぎました……夏生まれですので……》
前に世界の存亡の話をした時のあれか……そっか、最短百年の話だったのか、そりゃまだカウントもへったくれもないわね……そして誕生日と成人を祝い損ねてた……ごめんね、シエラ、あたしのほうは成人式とかだいぶ前だったから、完全に頭からすっぽ抜けてたわ。
《いえ、私としては既に死んだというか人間辞めた認識ですので、そもそもお祝いされる状況ではない気がしますね?むしろ先日の従兄の件を考慮すると、誕生日としては、全く違う日を設定しておく方が無難だと思います》
あ、それもそうね。あたしは春先の生まれだから、そうね、そちらを誕生日としておきましょうか。年明けの春先、落っこちてから一周年の手前でお祝いができるし。
話を戻す。ラノベ古典版にあった、堕ちたる神とその滅び。これは原典はフラマリアの最古版の伝記だ。ただ、そちらには新たなる神の記述はないんだという。これは流石に原本は手に入らなくて、論文で読んだだけなんだけども。ええ、このジャンル、なんと、ちゃんと論文もいくつか書かれてた。但し、全部ハルマナート国でしか出版されていない。これは多分サーシャちゃんは読んでるだろうなあ。全部ではないけど、一部はイードさんの書庫にあったからね。
結局この辺りの記述は、どれも以前ランディさんが言っていた「堕ちた神が滅びて、新しい神と王家が立った」という発言とは地味に後半が矛盾するんですけどね。まあこの件はサーシャちゃんは知らないから、今は考慮しなくていいのかも知れないけど。
少なくとも、サーシャちゃんは古典版と現流通版は読んだんだろう。そして、伝記と歴史書も複数見ていたと思う。本人が取り寄せを頼んだだけじゃなく、以前あたしが取り寄せたものもあったからね。
あーそうか、古典版以外の記述が、新たなる神のくだりを敢えて回避している、と読み取ったのか?まあ歴史ものとして考えると、そういう結論には、充分なり得る、かな。
でもこれラノベなのよねえ。そりゃあ史実前提だから、ちゃんと考証も資料確認もして書いてるものが大半だけど。割と真面目に考察してしまったけど、娯楽作品よね、これ……?
やっぱりサーシャちゃんが出した結論に、この文面だけで至るのは、難しい気がしてきた。
でもじゃあなんで、あんな結論を出せたんだろう?だめだ、手詰まり。判らん。
「あー、ねーちゃんって文字は翻訳チートじゃなくて自力で読んでるのか」
その話をした途端にサーシャちゃんから返ってきた回答が、これだ。なんだと?
「え、そうだけど……」
この世界の召喚によって付加される翻訳機能は、文字には非対応だ。まあぶっちゃけ今はシエラのお陰もあって、この世界の言語に関しては、読み書きどころか、リスニングや喋るほうも翻訳は介さなくてよくなってるけどね、あたし。
そういえばサーシャちゃんやカナデ君の翻訳は、文字対応でしたっけ……
「俺らの翻訳機能だと、あの作品、どのシリーズも滅茶苦茶読みにくいんだ。訳語がぶれまくって。そう、主人公の記述がね、人だったり神だったり、頻繁に変化して、いろいろ混乱するんだよ」
うわあ、文面がどうこう以前の、根本的なチートの仕様の問題だった!翻訳機能が固有名詞の『現在の状態』も参照してるのか!あたしの考察、全部無駄!!!いや魔力と寿命の件に気付いたっていう副産物的成果はないでもないけど!
〈うっわあ、そのチートはずるいー!〉
突然、脳裡に神様っぽい、だけどすっごく軽い声。ちょっとカナデ君の声にも似ている気がする。っていや待てどちら様?!いや何となく、なんとなく見当は付くけど!ここという場所を考慮すればね!?
〈おっとごめん!巫女ちゃん、悪いけどその子達に口止めだけしてくれないかな!お礼はするので!じゃあまたあとで!〉
そう言い残して、恐らく、そう、フラマリアの国神であろう気配は消えた。……忙しそうだな?
「……どうしたねーちゃん?固まってるけど」
つんつん、とサーシャちゃんがおなかをつつく。腹はやめい!別に出てはいないけど!
「あー、お告げですよ。その件一旦口外無用で、って」
端的にそれだけ述べたら、何故かサーシャちゃんがキョドった。
「え?お告げ?この段階であっちから接触?」
確かに会いに来たけども、それは想定してない、とサーシャちゃん。えー、そこを想定してないの?正直らしくないわねえ?
「いや君ね、ここ既にフラマリアの内地よ?そりゃあ国神様に聞かれてる想定位はするべきよ」
普段、国神様ってのは、自国内の大地に自らの力を遍く行き渡らせている。という事は当然、その上で会ったことは知ることができる。
とはいえ普段はそこまで人のやることなすことを細かく見ちゃいないそうだけど、今回のあたしたちは、その国神神殿に招かれた身だ。そりゃあ監視とまではいかないだろうけど、定期チェックくらいはされてると考える方が自然なんですよねえ!
「あ」
サーシャちゃんが考えてもいなかった、という顔で固まる。まあこの世界の国神ってものに、慣れてないからしょうがない面はあるんだと思うけど。最初に合流したマッサイトでは一切国神様からの接触はなかったし、今までいたハルマナート国には神様自体がいないから、実感する機会すら、とんとなかったはずだ。
「……あー……まあ口止めは了解。で、口止めされたってことは、俺の予測は事実ってことでいいのかな?」
気を取り直して、といった様子でサーシャちゃんが確認してくるので、頷く。
「多分ね?まあそれ以上は実際に会って聞くほうが早い気はするわ、色んな意味で」
あたしの方は確信まではしていなかったから、ちょっと曖昧な表現にとどめておく。いや実際、あたしの方が判断材料は多かったはずなんだけどさあ、なんかこの件を考えてる時に限って、色々絶妙なタイミングで邪魔が入ってた気がするわね……流石に偶然だとは思うけど。
見事に空回る系主人公。
なお神の滅びの記録の件は98話、ランディさんの台詞は101話。