163.少年と二角兎。
少年が兎を気に入ったようです。
感動しそこねた感じの再会から一日経った。
そういえばランディさん今回遅いな。いつもだと半日もせずにやってくるのに。
と思っていたら、ひょろひょろと夜雀が飛んできました。真っ昼間だと目立つね、サイ君。
(ごしゅじんさますいません!大御主人様がちょっと御実家方面から呼び出しを喰らったとかで、暫く戻れないそうでしてー)
あらあ?ランディさんの実家って、龍の島?というか君どこから飛んできたの?
(そうですそうです!なんかごっついペリカンの旦那が使者としておいでになってて!近くまで戻りついでに送ってもらいましたー)
へー、ペリカンなんているんだ。とその時は軽く聞き流していたんだけど、後から目撃者に聞いたら、この世界のペリカンってびっくりするくらいでっかい上に派手な鳥だった……赤とオレンジのグラデーションだってよ!サイズは大人ひとりべろんごっくんできそうなくらい!ちょっと待ってその表現はどうなの!いやまあ普通サイズらしきペリカンがアヒル呑み込んだ画像とか、どこかで見た気はするけど!
カナデ君はというと、ジャッキーを呼び出したまま手元に置いてたら、すっかり仲良くなっている。
ただ、彼はどうも召喚系の才能絶無らしくて、念話が受信すらできない。ので現在はジャッキーの幻獣式発話の練習台になっている。
【あーあーあー、えー*と、こうか?)
ちょっとまだ配分がおかしくて、途中から念話に切り替わっちゃったりするのよね。
「えー、までしか聞こえないよー」
カナデ君は熱も下がったので、お風呂に突っ込んでから、エルフっ子達との接触も許可した。
流石に行き倒れ状態のままだと、清拭はして貰ったとはいえ、大分あれでそれだったので。
なんか隠れ里が襲われた時に、抵抗して大怪我をして倒れていたら、他の瀕死の人たちに庇われて、死体の下でギリギリ生き残ったんだとか。
で、食料も家畜も生き残りも全て連れ去られた隠れ里から、辛うじて脱出したものの、白狼さんの森を過ぎたところから食べる物がなくて、かといって人家には絶対近づけないし、と、こそこそ進んだ結果、国境を越えるかどうか位のところで行き倒れた、という話だった。
あの辺の人家に残ってた人たちは旅人や放浪者に悪さするような人たちじゃなかったけどね、隠れ里にいたなら、そんなこと知る由もないよね。
【割とむずか*しいな_?*ええい、またか】
今度は途中だけ念話になった。一周回って器用な事してるわね、この子。
(コントロールが上手くいかないんだよー!コツみたいなのないの?!)
今度はあたしに向かって悲鳴を上げるジャッキー。かなり手こずってるわねえ。
でも念話は正直あたしは受け取り一方だから、誰か他の子に聞かないとじゃないかしら。
(ぼくもまだ発話はできないからなあ、先輩と一緒に練習すっかー)
頭の上でそう言うと、サイ君も二人の所に飛んで行った。
「わあ小鳥?黒いねえ。あ、羽根に星が散ってる。かわいいねーかっこいいねー」
カナデ君は新たに増えた生き物に目をキラキラさせている。
【あーえー、ぼくは夜雀というしゅぞく。*うお難しいなこれ)
難しいと言いつつ、サイ君のほうはしょっぱなから種族名を言う辺りまではちゃんと発話できているし、どうやら念話には能動的に切り替えた様子。流石聖獣クラス、というところかしら。
「夜雀?ああ、成程、黒いのは夜行性だから?」
カナデ君は早速そう連想する。
【いや、種族としては星のほうの色。黒は魔力*が染まった、*いかん噛んだ】
成程、長文だとまだ噛む。要練習なのは確かなようね。というか、本来の夜雀、紺色なんだ。
【おーさすが聖獣、話すの*うまいなー)
やっぱりジャッキーは語尾が念話に戻りがちね。
【先輩は知性は充分だけど、能力に比べて魔力*がちょっと足りないから、今は簡単な練習を繰り返すのがいい*と思うよー】
サイ君はジャッキーをそう判定した。そうね、ジャッキーは元人間の転生者でもあるから、知性は兎じゃなくて、人間と同等だものね。
(へえ、そんなこともあるんだ。人間なんて人間にしか転生しないもんだと思ってたなあ)
サイ君が念話で不思議そうにそう話す。
(あー、おれは自分で兎……ジャッカロープになりたいって選んだからなー。諸事情で人は選ばせて貰えなかったし)
なにそれ初耳なんですけど?人を選べなかった?
(なんか人間の身体は用意できないから他の生き物にしてくれっつーからさ。用意されたのが幼体だったのは笑ったけど!まあ今思うと、幼体で丁度良かった気はするね)
なんかランディさん辺りに聞かせたら、かぶりつきで聞き入るような話が出てきたわね。
というかジャッキー、あなたのそれってどこからか召喚された、という事なの?
(んー?どうだっけな?なんか姿の見えねえ兄ちゃんとそんな話をした、ってくらいしか、覚えてないな?)
そうか、まあこの世界に来るときに、そんな話をしたというなら、恐らくそれは……
まあ、今考える話ではないわね。
うん、その件はまだあまり大っぴらに、知る者を増やすのは良くない、そう感じる。
「それにしても角が二つある兎ってなんだろうね。ぶちの場所も変わってるけど」
カナデ君は念話に切り替わったあたしたちの会話には気が付かないので、そのままジャッキーの背中を撫でている。
「ふふ、かわいいでしょう。ぶちの場所がチャームポイントね」
何せこの子の後ろからしか見えないぶち、現地の皆様にはなんかびっくりするくらいウケるんだよねー。
そして少なくとも、カナデ君はジャッカロープの事は知らないようだ。伝承が存在しないのか、純粋に彼が知らないだけなのかは、判らないけど。
そういえば問診慣れの話があったけど、どうも彼も元の世界では病弱で入退院を繰り返しているタイプだったようだ。そしてこの世界式の治癒の才能、持ってた。
異世界人の治癒の才能には医療知識や医療機関との関連付けがあるという説自体は前からある、とランディさんに聞いたことがあったけど、成程?
取りあえず初級の〈治癒)と、中級の〈回復〉は覚えられるようだったので、魔法陣を一応教えてある。覚えるのが難しい、って唸ってたんでまだ実践はできてないけど。
そういや、一回見たら覚えられるのは、あくまでもあたしにかかった魔法の作用、でしたね……
「この世界の魔法って、色々変だなあ」
ぼそり、とカナデ君が呟く。他の人にも色々魔法の事を聞いていたようだし、その疑問は、ゲーム慣れしているなら、尤もだ、と、あたしも思う。
「そうねえ、ゲームの魔法なんかと比べると、整ってない感じはするわね。魔法陣に改良の余地があったりもするし。あ、〈回復〉の方は今は無理して覚えなくてもいいわ。それ、帰国したらもうちょっとブラッシュアップする予定だから」
帰ったら今度こそサクシュカさんとブラッシュアップするんだ……ヘッセンの聖女様とでもいいんだけど、流石に今はあちらが色々まだ忙しい時期だからねえ。
「帰国?おねーさんこの国の人じゃないの?」
あ、そういえばカナデ君には教えてなかったわ!うっかりうっかり。
「そうよ。一応、もっと南にあるハルマナートって国が暫定本拠地ね。最初に拾ってもらったからだけど」
最終的には、メリサイト国所属、になる……気がいまいちしないのは、何故だろう?
《ああ、神殿で正規認証を受けたら、後は境界のある場所でさえあれば、どこに住んでも自由は自由ですね。巫女が必要な儀礼の際には出てきてもらわないとだめなんですけど、ハルマナート国でしたら、移動は融通がききますでしょうし》
いやまてそれ龍の王族をアッシーに使うって話じゃないですかね?!流石に畏れ多いわ!
っていうかドラゴン便怖いんだよ!大体の場合滑るし!
でも、そうか、あの城塞暮らしでも、別にいいんだ。あそこは特にメリエン様の御力が強いし……
《むしろそこのほうが神殿より都合が良いかもしれない、と仰っておられますわ。瘴気対応に迅速に反応できる利点を先日改めて認識したということで》
そうなのね、なら、堂々と帰っていいのか。まあそもそも、正規認証がまだ先の話ですけども。
現状畏れ多い<<<怖いである。滑るんだよとにかく!
……マグナスレイン様なら多分滑らんが(※背中がとにかく広いしごつごつしてるので)




