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161.カナデという少年。

異世界人みーつ異世界人(中身だけ)

 エルフっ子たちが言うところのカナデおにいちゃんは、丸一日ほど眠り続けてから、目を覚ましたのだけど。

 今は明確に警戒心を露にして、あたしたちを見ている。まあ警戒を解いてくれそうな子供たちがとっくに寝てしまった時間なので、しょうがないんだけども。


「えーと、おなかは空いてないですか?時間的にはお夜食になっちゃいますけど」

 めんどいので、こういう時は食べ物で釣ります。基本です、基本。

 そして、彼が返事をしようと口を開く前に、きゅるる、とお腹が鳴きました。ハハハ、さもあらん!


「……ここは、どこだ?」

 返事かと思ったら質問が来ましたね!本当に警戒心が高いねえ。


「国名で言えばマッサイト国ですね。大雑把にいえばサンファンの西隣です」

 さらっと答えておく。言葉は通じているし、恐らくエルフっ子達と同程度の地理知識はあるという想定で話してるけど、どうだろう?

 あたしの回答を聞いた推定カナデ君は、そこでやっと警戒を一段階落とした。それでもまだ警戒心自体は残っている。


「ぼ……オレはどこかで行き倒れてたと思うんだが、ここは慈善事業でもやってんのか」

 あー、他国事情は余り御存知でない感じか!うん、それも想定済みだ。エルフっ子達も最初そんなんだったらしいからね!あと僕って言いかけた!見た目通りに若いのかな。


「慈善というか、ここは難民保護施設ですね。もうすぐ役目を一旦終えるというところですが」

 そこまで聞いて、ようやっと警戒心を平常程度に戻した感のある彼は、異世界人にしては随分と慎重なタイプだな、と思う。

 あたしなんて、のっけからハイウィンさんとイードさんの事は全面的に信用してたからなあ。


「役目を、終える?」

 そこでようやっときょとんとした顔のカナデ君。


「ええ、新規の難民が現れなくなったのと、収容者の大体の引き受け先が決まったので。といってもここは子供ばかりでしたけどね」

 もう二か所あった保護施設も、此処同様、このひと月ほどは子供ばっかりだったらしいけどね。

 大人は、神罰直後に、以前軍と行動してる時に出会った、お花を育ててたおじいちゃんの所のように、自主的に開放した人のところから脱出してきた者がいただけらしい。

 ただ、そういった、いわば穏便な脱出者も、結構な人数が奴隷商人などに再び捕まってしまった、という話も聞いている。再度捕らえられた彼らは、ほぼ全てが王都に送られた、という話だから、恐らくは蛇に喰われてしまったはずだ。


 ……まあ、現状のサンファンから、新たに難民が発生することは、今の所ないだろう。

 実際、あたしがここを手伝い始めて以降、新規の難民は出現していない。まあ今目の前にいるこの子がラストワン、といえなくはないけれど。


「そうか……済まないけど、水を少し、貰えないか」

 食事じゃなくまず水なんだ。ああでもそうね、ちょっと脱水傾向はあったわね。


 水差しから柑橘を少し絞った水を注ぐ。ほんのりと、爽やかな香りが漂う。そこに蜂蜜を少し落としてかき混ぜる。経口補水液、とまではいかないけど、多少は足しになるだろう。


「はい、どうぞ。慌てないで、ゆっくり飲むのよ?」

 渡されたカップから勢いよく水を飲もうとしたカナデ君の手が止まる。咽せると後がめんどいからね!警告は!だいじ!


「……気を付けます」

 お、言葉遣いが変わった。よしよし、この調子。


 お水を飲んだ後は、軽く問診して、麦のお粥を出す。三日くらいの絶食状態だったようだけど、重湯じゃなくても、多分大丈夫だろう。


「おねーさんって、お医者さん?」

 カナデ君が食べ終わった食器を片づけるために受け取ったら、そんな風に聞かれた。


「いいえ?あたしは治癒師よ。お医者さんとは別の職業ね」

 まあ本業は巫女さんの予定なんだけどね!まだそんな話までする程、距離感は近くない。そもそも、彼の事は名前と年齢と、エルフの隠れ里に何故か住んでいた、あとはそうね、現在の体調くらいしか、知らないからね。


 彼はタキマシコ・カナデ、と名乗った。カナデ、のほうが名前だそうだから、この世界の基本法則ではカナデ・タキマシコ、となる。年齢は十七歳。この世界では成年ともそうでないともいえるくらい、かな。国によって微妙に違うんだよね。


《十七歳成人の国が一番多かったと思いますよ。あとは十六歳の国と十八歳の国がありますね》

 ハルマナート国なんかは、基本十六だけど、龍の王族だけニ十歳成年だったりするしねえ。


「そうなんだ?それにしてはお医者さんみたいな問診の仕方だと思ったけど」

 首を傾げてそう言うカナデ君。そう言われてみると、この子も問診の時の応対は、妙に慣れている感じがしたな。聞かれ慣れてる、と思う。


「問診されるほうは慣れてたから、それでかしらねえ」

 実際にはあたしはただの医療オタクってやつで、前の世界ではひたすら患者しかやってない。当然資格なんぞ、持ってはいない。とはいえこの世界の治癒師は、診断系技能をいくつか内包していて、それが結構正確な判定をしてくれているから、現状だとただのオタ知識持ち、とは言い切れない部分は、ある。


《医療知識があるほうが技能の精度が上がるんですよ。なので貴方には治癒師自体も向いていた、ともいえますね》

 ほほう!そんなことになってたのか。それでちょいちょい医療従事者疑惑が……そういや今称号にもあったっけ……


「え、この世界でも普通に問診とかあるの、いや今されたっけ」

 ぼそ、とカナデ君が呟く。


「普通にあるわよ?技能で診てから問診して自覚症状とすり合わせて診断の目安にする感じね」

 この辺のノウハウも、まあ最初は異世界産だったようだけど、今は大抵の場合、医者も治癒師もそういう手順で患者を診る。あたしもハルマナート国で非常勤治癒師として登録した時に、登録時の必修講習を受けたので、実は余裕があるときは、同じやり方ですハイ。

 アスガイアの時とかは、問診どころじゃなかったから、全面的にすっ飛ばしたけどね。


《あなたの場合知識が技能を底上げして、更に称号の上げ底までありますから、問診が必要ないことも多いですね……》

 称号効果が魔力参照のせいでフレーバーどころじゃないからねえ……


「……俺、異世界人だって言ったら、どういう反応する?前にいた村の人には、あんま驚かれなかったんだけど」

 恐る恐る、という様子で聞いてくるカナデ君。なかなか初々しいですな?


「あらそうなの?奇遇ですね、あたしもよ、と答えておこうかな?」

 まあナカノヒトが、であって外身は現地の人ですけどね、あたしの場合。


「え?」

 カナデ君が、呆気にとられた顔になった。ハハハ、驚いたな!どういう意味で驚いたかは現状判らないけど!


「君は称号から察するに漂流者だそうだから、そういう説明をしてくれる人が居なかったんだと思うけど、この世界に関しては、異世界人は然程珍しくはない、そうよ。まあ最近は減ってるそうだけど」

 取りあえず基本情報をお渡ししておこうねえ。まああたしだって、そんなにこの世界のいろんなことを知っているわけじゃないけどね。


《いやいやいやいや、カーラ、貴方、自分の書庫機能をお忘れじゃないですかねええ?》

 あふん、シエラのツッコミが厳しい。


「うへ、珍しく、ないのかあ……村じゃこんな人見たことないって言われ……そういえば、耳とか、違ったな……?」

 ようやっと、自分がいた環境のほうが特殊だったことに思い至ったらしいカナデ君。まあこの世界のエルフさんは人族と見分けるの割と難しいしねえ。レガリアーナ人辺りだと、ホントに耳か目をしっかり見ないと判んないことあるもんなー。


「ああ、君がいたのはエルフさんの隠れ里だったそうだからねえ……里の子が二人、此処にいるから、明日にでも会うといいわ。今日はもう時間も遅いから、そろそろ休んだ方が良いわね」

 取りあえず里の生存者がいる事だけ伝えたら、カナデ君は目を丸くして、それから、ぽろりと涙を零した。


「ふたり、ですか」

 少し震える声で、そう確認してくるカナデ君。


「ここの施設に居たのは四人で、あとの二人は里親さんが決まったのでもう退所したの。ここ以外にも保護施設はあるのだけど、そちらでどうだったかは、判らないわ」

 ただ、エルフの子達の過半数は隠れ里の子じゃないか、という話だった。ここよりも、海岸寄りの保護施設に多かったそうだし。まあ記録は取ってあるそうだから、後からある程度照会は可能なはずだ。それに意味があるかどうかは、別の話だけれど。


「他にも、いるんだ……明日、是非、会える子に、会わせてください」

 もうちょっと泣くかと思ってたけど、涙はほんとに少しだけで、そう返事をくれたカナデ君。

 まあそうね、涙は再会に取っておくのも、いいんじゃないかしら、ね。

漢字で書くと『瀧益子 奏』です。

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