158.直近の今後を相談する。
アルバイト、しましょうか?
同時更新中ですので新着からの方は一つ前からどうぞ。
「それで今後の話なんですけど、どうしましょうね?」
夕食後、ようやっと本格的にお話できる時間が取れたので、単刀直入に聞いてみる。
どうも、フレオネールさんの様子を見ていると、帰りたい系の感情を感じないというか、なんか天職見つけました!みたいになっちゃってるのが、気になるんですよね。いや人の感情は良く判らんのだけど、あたし。
「それなんですよねえ、流石にこの状態で、後の事を引き継ぎもせずほったらかして帰るのは絶対にナシですし、それに、村長代理やってるより楽しいんですよね、ここ……」
極めて正直にそう述べるフレオネールさん。まあ気持ちは判る。あれだけ素直な好意を毎日全力で浴びるの、絶対楽しいもの。ちょっと手伝っただけのあたしでも、楽しかったもん、なんかすっごく疲れたから、あたしがこれを毎日やるのは多分無理だけど。
《カーラは相手の事を見ようとし過ぎるんですよ。年少の子供なんて、そこまで深く考えて行動してないですから、見守るの自体は大事ですけど、あしらいはもうちょっと適当でもいいと思いますよ》
こちらは弟妹の相手をしていて、比較的子供慣れしているシエラさんのご意見。ああ、そうね、あたし、子供の相手の仕方自体が、判ってないわね、確かに。
「ふふ、カーラさんは小さい子達にも真面目に応対しちゃってますから、疲れますよね。年長の子にはそういう応対も大事ですけど、小さい子はそこまで真面目に考えちゃわなくても大丈夫ですよ」
はい、顔に出たらしくて、フレオネールさんにも同じツッコミを戴きました!ですよね!
「自分と同年より下の子といた経験がないんですよね……」
一人っ子だったし、病院暮らしだったし、せいぜい新人看護師さんくらいじゃなかったかな。いや、治験に回ってから新人なんぞ顔も見てないわ!あそこプロジェクトの重要部署だったからベテランしか居なかった!
ここ十年で遭遇した一番年下、難民の子達を除いたら、ヘッセンの末王女殿下かなあ?ハルマナート国ならともかく、他国の王子王女様方を普通の年下扱いする度胸はあたしにはないので、除外でいいよね……?なおハルマナート国の王女様方には、挨拶だけで話はしたことないから、これもノーカンでございます。案外忙しいんだよ、王女様方って。
あ、いや、人間以外なら麒麟くんがいたか!ってあの子も成長が遅いだけで、獣人モードの時は十歳くらいに見えてたけど、実年齢的には、実はあたしより!年上!なんと、大人になるのに百年近くかかるんですってよ、あの種族。陸の聖獣幻獣の類では、最も成長が遅いんだそうだ。
海ですか?岩クジラと海竜と城塞亀が、いずれも百二十年くらいかけて成長するらしいよ。
なお岩クジラがケートスに至るには、そこから更に千年近くかかるらしくて、ケートスは全世界でも数頭いるかどうか、らしい。そんなレアなもんのお肉を我々はもぐもぐしたのか……いや、すっごく美味しかったんだけどさ……
「そう言えばリンちゃんを預かった当初にも、そんな話をしておられましたね。
ともかく、この難民保護園は期間限定で、引受先の準備が整ったら解散ということになるようですし、もういっそ、その段階までここのお手伝いでもいいかな、とは思っています。特に苦にもならないというか、とても楽しいので……」
ふふ、と笑いながらフレオネールさんがそう語る。まあ、それはそれでアリだとは思う。
フレオネールさんにも、あたしにも、特に今は急ぎの案件はない、はずだ。
「そうですね、引受先の準備期間がどのくらいかかるかにもよりますけど、それもアリだとは思います。ただ、流石にちょっとこの人数を狐の方とふたりでは、厳しいんじゃ……?」
確かノーティスさんは、この業務の引継ぎ相手が決まらない理由のひとつに、期間の短さと不定さも上げていた。恐らく、それが主な理由なんだとしたら、恐らく、今後も引継ぎは決まらないものと思った方がいいんじゃないだろうか。
「そうですねえ、男の子の方はノーティスさんが時折手伝ってくれるのですけど、女の子のほうが、確かに手が回り切らなくなっていますね。年長の子達も手伝ってはくれるのですが、まだまだ自分たちが覚えなくちゃいけないことで手いっぱいのようですし」
手が足りない、と正直に述べるフレオネールさん。
「うん、じゃあ、あたしにできることがあるなら、少しやらせてもらっていいですか。あたしだけが帰りを急ぐような案件は今何もないので……」
サンファン王宮組ともちゃんと別れの挨拶はしてきたし、彼らからは誰かへの伝言もこれといって貰ってはいない。ランディさんは何かあったらしいけど、召喚獣で対応済みだという話だったし。そもそもランディさん自身は、子供は苦手だといって、お昼寝終了と共に、裏口から既に退却済みだ。なお帰り支度が完了したら、要請すれば迎えに来てくれる手はずにはなっている。
ええ、実は夜雀ちゃんがあたしの頭の上に隠れています。隠蔽されてるから多分他の人には見えないはずだけど。本来夜行性なので寝る前にパンくずでいいからご飯をあげといて、とだけ言われてるから、寝る前にシルマック君と一緒にご飯でいいかな。
というか発酵させる系のパンって小鳥にあげて大丈夫だっけ?
(ぼくはこれでも聖獣だからそこは平気さ。出して頂けるなら、鶏肉だって食べるよ?)
おう?初対面時には幻獣って聞いてたぞ?でもそう言えばこの子の羽根の黒、前より濃くなってるな?胸と翼と尾に紺色に輝く角質っぽい質感の斑点が僅かにあって、全身漆黒というわけではないんだけど。
(良く働いて、かしこくなったので!ついに昇格!しました!なんで、実は既に夜行性でもないんだよー。でも隠蔽してるから、ご飯はシル先輩と一緒のほうがよさそうだよね!)
へー、そんなこともあるのね。でも君は昼間だと確定で目立つよねえ、小さいからなんとかなりそうではあるけれど。
「そうして頂けると、とても助かりますね……ただ、慣れるまでは少ししんどいかもしれませんから、そこの調整は頑張ってくださいね?」
取りあえずフレオネールさんからの承諾は得た。あとはノーティスさんか、いや、ここの施設の基本管理者の人に許可を貰わないといけないか。
まあそれは明日で大丈夫だろう、もう大概寝る時間だからねえ。
割り当ててもらった部屋に戻って、シャワーを浴びて、シルマック君に乾かして貰って、シルマック君と夜雀のサイちゃんにご飯をあげる。サイちゃんは体格の割に結構な健啖家だ。シルマック君も最近少し食べる量が増えたけど。まあ体重に反映されてないなら問題ないだろう。
(うっ、体重ッ……)
あたしの思考に反応したサイちゃんが、シルマック君に分けてもらったナッツを咥えたところで固まった。いや君くらいの体重なら別に気にもならないけど……ああでも、確かにこの子、普通の雀より、丸い、かも……今の季節なら、もうちょっとシュッとしてるよね、雀。
(うっ……まるい……)
あ、いかん、撃沈した。でもそうね、ナッツはどれも脂肪分が多いから、程々にしないと太るわよ。実はシルマック君にも、ナッツは余り沢山はあげていない。ペット用の野衾飼育マニュアルにも、ナッツをあげすぎると太って寿命が縮まるって書いてあったからね。ハムスターと一緒らしいよ。
とはいえ、シルマック君はペットとして飼われている子と違って、常日頃、あれこれあたしの為に働いてくれているから、カロリー消費も多いらしいのよね。魔力が増える程度に毎日のように使い切ってるくらいだから、ある程度はしっかり食べて貰わないといけないのだ。
(うう、どうか、サイレンティとお呼びください、ごしゅじんさま……)
心が折れた、と、サイちゃんが名前を差し出してきた。そういや召喚契約って占有じゃないんだったわね、と、有難く貰っておく。ほう、中級!意外と戦闘能力もあるんだねえ。ってあれ、君、男の子か!こりゃ失礼、サイ君、だったかー。
(幻惑が主体だけど、音波系の攻撃もできるからねー、メインの御主人様だけだと、使う事なんてほぼないけど)
まあそうよね、ランディさんが召喚獣を呼んで戦闘する図って、それこそこないだのヴァルキュリアさん達くらいしか、思い浮かばない。しかもあれも訓練ついでっぽかったよねえ……
そして小さいモフが増えた。