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157.臨時保育園、見学。

臨時保育園状態の施設見学と、異国話が少し。

「まあカーラさん、お久しぶりです!」

 サンファンからの難民の子供たちを保護する施設を訪れたあたしを目ざとく見つけたフレオネールさんが笑顔で挨拶してくれる。うん、元気そうで、何より。健康状態も一切問題ない。子供たちに群がられてるけど。

 子供たちの方も、概ね健康状態に問題はないな、よきかなよきかな。


「お久しぶりですフレオネールさん、話には聞いていましたけど、本当に大人気ですねえ」

 挨拶を返しながら、くるりと周囲を見回す。うん、見覚えのある顔、全部いる、みんな元気。


「あ!治癒師のおねーさんだ!おひさしぶりです!!」

 垂れ耳兎の獣人の子達は、相変わらず四人一緒にいるらしく、揃って挨拶してくれた。


「はいはいお久しぶり!皆元気そうでよかったわ」

 近くまで来てくれたので、全員の頭を撫でてやる。それを見た、これもあたしたちが道中で保護した子供たちが次々に寄ってきたので、当然全員撫でる。

 ああ、子供たちってかわいいな。前の世界でも、この世界でも、小さい子に接する機会って今まで本当になかったからなあ。


《前も、なんですね》

 こちらは年の離れた弟妹がいたというシエラが確認してくる。

 そうよ、病院暮らしだったしね、病気の初期進行が早くて、動けなくなるのも親の時より早くて、院内学級にも殆ど顔出してないから、同年代より下の知り合いゼロだったのよ。

 学習はVRとネットでできたけど、あれはアバターを使うから、ナカノヒトの年齢とか判らないからね……怖くてタメ口とか無理でしたわ……

 だから、あたしが初めて呼び捨てするようになったのは、シエラ、あなたよ?


《私からお願いしましたものね、落ち着くまで結構かかりましたけど》

 そりゃそうよ、それまでそんな習慣どころか、それができる環境自体がなかったんだもの、あたし自身には。今は鳥とかも雑に呼んでるから、結構スレたなって自分では思うわ。


《スレたというより、馴染んだというべきでしょうかねえ》

 ふふふ、とシエラが含み笑い。そうね、そう言うことにしておきましょう。まああたし、呼び捨てが能動的にできない、以外は基本的に口はお上品なほうじゃないんだけどね!



 お昼を子供たちと一緒に摂って、年長さん以外はお昼寝タイム。

 ようやっとそこでフレオネールさんと個別に話をする機会ができた。ほんとに常時子供たちが誰かしらまとわりついていてですね。

 なお、お昼寝しない年長さんたちは、普段は小さい子が占有してる朱虎氏の背中を堪能しにいっている。元気だね!


「この種の施設は初めて見るんですけど、案外普通、というんですかね……」

 難民保護施設とかぶっちゃけ元の世界には現存してなかったと思うし、良く判らんのだけど、ここは、色あいこそ地味だけど、なんか脳内イメージにある普通の保育園か幼稚園、といった趣だ。午前中は勉強の時間もあるらしいけど。年長さんでも基本の読み書きができてない子が多いので、できるだけ今のうちにある程度教える方針だそうだ。


「そうですね、こういった施設も、かつて異世界の方が基本となるテンプレートを制作してくださったそうで、大半の国では共通の構造とシステムになっているそうですよ。なので私も不自由なく過ごせていますね」

 ああ、災害避難システムとかと同じ人だろうな、きっと。


《ええ、自称勇者様の時代より少し後に整備されたものですね。召喚された方ではなく、レンビュールさんのように漂流してこられた方の業績だそうですけど》

 へえ、そんな時代から漂流者もいたのか。


「ん?フレオネールさん、以前にもこの手の施設の経験があるんです?」

 少なくとも今まで立ち寄った村に、そんな施設はなかった気がする。ベネレイト村には行ったことないけど、確かドネッセンと構造はほぼ同じって前にフレオネールさん自身が解説してくれたはず?


「ああ、カーラさんは王都と辺地が主な出歩き先で、御存知ないと思うんですけど、フラマリアと旧アスガイアとの三国国境辺りと、フラマリア国境の西岸側に、それぞれこのタイプの施設が建設だけはされていて、開拓村希望者は皆そこで一通り施設の使い方とか、職業訓練とか、そういった基本をそこで学ぶようになってるんですよ」

 うわあ、予想以上に災害とか想定したインフラも運用もできている。これもまた、召喚者や漂流者たちの正の遺産。でもそれも、受け入れた人たちの運用次第なんだよなあ。

 ハルマナート国やマッサイトは、正しく運用できている側、というのがあたしの印象。行ったことはないけど、フラマリアもそうっぽいか。


「成程、ハルマナート国に難民援護設備ができたと聞いたときは、当時のアスガイア側はともかく、西岸側をあの国でどう運用するのだろうと思っていたが、そういう使い方もあるのだね」

 そこまで黙って話を聞いていたランディさんが感心している。しかし、以前から時々思っているんだけど、ランディさんのフラマリアへの信頼が厚すぎる気がする。あの国は絶対に間違いは犯さない、という確固たる信念すら感じるのだけれど。

 なおランディさん、子供が苦手だからと、お昼寝タイムになってからこっそり裏口からやってきました。余程なんか困った目にでも遭ったんですかね?


「西岸の施設については、不要論も相当あったのですけど、結局海難救助施設として活用もしているので、結果としては作ってよかった、ということのようですね。無論研修施設としてだけ使っていられるのが、一番良いのですけども」

 フレオネールさんがそう解説してくれる。おう、ハルマナート国側もフラマリアには一定以上の信頼があるのね?


《そもそもハルマナート国が国として認められているのは、成立当時のフラマリアの後押しがあってこそですから。魔の森の防衛線としての存在意義が確立している今でも、その恩義がいまだに生きているのだと思いますわ。文化的にも影響が強いですしね》

 あー、そうか。国神がいないのに国として成立できた、その根本を助けてくれた恩義か!

 ちなみにアスガイア側にあった施設は侵攻時に破壊されてしまって、その時の反省で、両施設とも、少し内陸寄りに作り直したという話だった。

 あと、実は王都や、人口の多い街には、普通の幼稚園もあるんだって。他国だと神殿が運営している孤児収容施設なんかも、ハルマナート国だと国営だ。どうしても魔物被害はどの国でもそれなりに出るし、都市部でも事故なんかは発生するので、孤児問題は少ないけれど、常に存在しているという。まあこの世界、衛生観念や公共施設が発達している割に、人口が土地に対してあまり多くないから、多くの国では、子供はとても大事にされるのだそうだけどね。


 例外?例によってライゼルですね。あそこは耕作可能地に対する人口が既に過剰だ。まあ創世神が併合地の全てを収奪して、その結果人間は残ってるのに耕作可能地がろくざま残らない、ってのが原因なんだけどね。軍に入れれば下っ端でも死なない程度に食っていけるというので、あの国の軍人人口は、やたら多いのだとか。属国出だと永遠に下っ端だそうだけど、飢え死によりはマシ、なんだろうね。そしてそんなヘロヘロ兵でも、威圧の役くらいには立つし、メリサイト辺りに尖兵として送り込まれるのも、そういう民だとか。基本死兵ってやつだけど、稀に捕虜になる奴がいて、その程度の話は、他国にも知られている。


 あとトゥーレも耕作可能地が少ないというか、穀物が育てられる土地がほぼないそうだけど、あそこはそれにも増して人口が少ないので……蕎麦は多少作ってるというけど、あとは海産物と牧畜だけに絞って、後は交易で賄うほうがマシ、という土地だそうだ。国神おらんしね、あそこ……民が、国となること自体を望んでいないんだともいう。まあ海流というほぼ絶対防御があるからね……

 じゃあどうやって交易してるのかというと、ここで召喚術ですよ。空を飛ぶ召喚獣や、海竜海蛇、あと岩クジラ亜種の小型の鯨類が基本の交通手段なんだって。

 そう、世界に五人、実際には四人しかいないという超級召喚師のもう一人は、トゥーレの総族長様なんだそうだ。国じゃないので、国王って呼ぶと怒られるんだってさ。というか、トゥーレの総族長様はケートスと契約できる人しかなれないんだって。想像以上に大変な土地っぽい。

 なおケートスと契約といっても、個人的な契約であって、トゥーレ全体の守護をしてくれているわけではないそうな。個人的に海路の利便を図る、程度らしい。というかそれが主目的なんだろうなあ。


 お昼寝タイムが終わるので、お話は一旦終わらせて、あたしもちょっとだけお手伝いをすることにした。だって子供の人数に対して、大人が少なすぎるうえに、女性がフレオネールさんだけなんですよ。いくら子供でも、女の子が半分よりちょっと多い状況で、それはない。


 夕飯が終わる頃には、体力切れでへろへろになりました。子供パワー、ぱねえ。

子供ってパワフルだよねー……

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