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155.再びマッサイト国境へ。

はい、今回から第五部スタートです。地味展開の予定。

 サンファンであたしができることは、全て、やり終えた。

 という訳で、あとは帰るだけ、なのだけれど。


 朱虎氏の守護の玉をどうするか、本人に聞いてこなくちゃいけないんで付き合ってください、と黒鳥に言われた訳ですよ。

 まあ断る理由は特にない。基本彼はフレオネールさんと一緒にいるはずだから、どのみち会って、その辺のお礼も言わないといけないしね。


「いや待って、お礼を言わないといけないの、基本俺らのほうだよね?」

 ようやっと大人サイズ版を見慣れてきた黒鳥が、あたしのお礼発言に首を傾げている。いやでもそれはそれ、これはこれよ?

 副官さんが以前確約した治癒のお礼とか、元国神討滅云々とか、その他諸々あれこれの謝礼金とか報酬に関しては、利息無しの後払いでいいですよ、として、一応書面だけ作ってもらった。流石に今のこの状態のサンファン国から謝礼を毟るとか、ないない。というか、作られた書面の金額が、割とガチめにヤバイ数字だった、これ本当に払えるんですかって感じの。

 でも物納って訳にも行かないしねえ。何せ、動産は全部食料に引き換える勢いの現状ですからね。不動産は貰っても絶対困るだけだし!


「まあ蛇はともかく、元神討滅レベルだと、これが最低ラインだよねえ」

 書面をチェックしたランディさん曰く、これでもかなり少ない方、だそうだ。まあトドメ持ってったのはこの国に留まるレイクさんだしね?そこはね?


〈いや、そなたがあそこまで削っておらねば、食えたものではなかったぞ?〉

 え、そうなの?いやそうだ、初見の段階では腹壊すって言ってたもんね、レイクさん……

 まあなんにしても、この国がきちんと復興しない限り、この書面はただの紙切れだ。生き残りの皆様には、ぜひ頑張って頂きたいですね。

 そういう余裕の心でいられるのも、ハルマナート国とヘッセンでそれなりにいい感じのお金が入ってたお陰ではあるのです。実は基本的に、治癒師も解呪ができる巫女も、結構な高給取りなのだ……お金に困らないって、素敵。


 ランディさんにも結構な額面の謝礼目録が渡されかけたんだけど、食事関連は在庫処分だから、と、受け取りを拒否していた。在庫処分にしたって、量が謝礼無しで済むレベルじゃないですよ、と政府側の担当の方が食い下がっておられたので、

「聞いた範囲だと、五百年以上ものの在庫が結構な量、混ざってたはずですよ」

 と口添えしてあげたら、見事に固まっていた。ハハハ、事実だぞ!自称勇者様の実際の活躍時期、八百年前だそうだからね!魔獣系のお肉はその頃の奴が大半だって前に聞いたもーんね!

 まあ時間経過のない真龍式魔法格納だから、普通に美味しく頂けたんだけどね。



「いやね、本当に過剰在庫もいいところだったから、減らすにはいい機会だったんだよ。本当だよ?」

 そんなこんなの事務や経理の人泣かせな話からはや数日。

 本日もそのランディさん提供の茶菓でお茶タイムなわけですがね。

 あ、場所はサンファンとマッサイトの国境に近いあたり、一応サンファン側。うん、前に一度戦略的撤退した時に出た、あの場所です。代金代わりに食料を携えたマッサイトの商人団が到着して、当面の食料問題に一応の目途がついたので、ようやっと王宮を辞して、朱虎氏に会いに来れたという訳です。

 何故直接マッサイトに転移で出ないかというと、あたしとランディさんだけじゃなくて、黒鳥がいるからだ。というか、そもそも守護の玉絡みは、黒鳥の仕事だからね。


「うん、俺も国に戻してもらえたし、頑張って働いて、何時か全部払えるようにするから」

 小ぶりな、一口サイズのフルーツとクリームチーズのタルトをつまみながら、黒鳥も推定真面目な顔でそんなことを言っている。というか君、カル君の鱗まだ持ってるんだから、国境越えでバイトとかまだできるんじゃないの?カル君も神罰受けちゃったから、無理なのかな?


「そういえばあの鱗はどうしたのだね?あれをまだ持っているなら、案外再度の国境越えもできそうなものだが」

 ランディさんもそれを思い出したようで、そんな問いかけ。


「あ、うん、そのまま持っているけど……下手に外に出て、また戻れないなんてなるのは、ちょっと困るから……」

 流石に試す度胸がない、と告白する黒鳥。まあ無難な判断ではある。これがカル君だと、へー、とか言いながら、普通に国境踏み越えるだろうって容易に想像がつくからねえ!

 最初に会った時こそ悪ぶってる感が凄かったけど、黒鳥ってでかくなっても素直だなあ。いやまあ、一応聖獣の枠内なんだから、それが本来の姿のはずなんだけど、多分。

 そう、聖獣という存在そのものがね。彼らは、基本嘘はつかない。見栄を張ったり、隠し事はできるけどね。

 ええ、あくどい様子を見せていた時の黒鳥ですら、嘘は言っていなかったのよ。

 そういう意味では、ケットシーのキャスパリーグ氏のほうが、余程特異だ。彼は冗談と言いつつ、たまに言葉の中に嘘八百を混ぜ込んでくる。あくまでも明らかに嘘だと判りやすい部分に、だけど。そして被害に遭うのは九割がたヒゲの庭師、ガトランドさんだけど。


「まあそういう慎重さは好ましいものではあるがね、実際出稼ぎでもしないと間に合わないんじゃないかねえ?」

 結構な惨状だろう、この国は、と、ランディさんがサンファン側を見やる。

 といっても、この辺は以前麒麟くんが活性化していった場所だから、そこまで植物の様子におかしなところはないんだけどね。


「それも考えてたけど、現状ちょっと難しいんだ。本体に戻れないから前みたいな無茶はもうできないし、そもそも国内の生き残りがまだ混乱状態気味だから、そっちをどうにかするのが先決だよ」

 魔法もちょっと威力落ちちゃったしね、と続ける黒鳥。流石におちびだった頃ほど、アホの子っぽくはなくなってきたな、いいことだわ。


 国内の生き残り勢は、狂奔状態時やそれ以前の犯罪の有無を確認の後、犯罪を犯したものは程度に応じて懲役、そうでない者は取りあえず軍隊式の生活訓練をしてから各自の出身地に一旦戻す方針らしい。

 王都に居たがる人は、今の所ほぼいないらしい。住民全滅の地なんて、縁起が悪いってレベルじゃないもんね……



「あ、いたいた。お久しぶりです」

 お茶をおかわりするかどうか悩んでたら、待ち人、ノーティスさんが現れた。背後に朱虎氏の気配もあるね、予定通りだ。


「お久しぶりです。そちらの様子はどうですか」

 取りあえず席を立って、挨拶。


「難民の総数が思ったよりかなり少ない以外は、特に問題は発生していないですね……いや、引継ぎがまだ目途も立ってないや……」

 引継ぎ?なんの?そういえば、フレオネールさんがいないわね?


「朱虎ー、久しぶりー!あ、そっちの仮面も変わったんだ」

 黒鳥は黒鳥で、朱虎氏に挨拶。言われてそちらを見れば、ほんとだ、朱虎氏の仮面も、左側の、ほぼ、文様のある部分だけになってるわ。右側に改めて晒された顔は、確かに以前聞いた通り、太い眉ともみあげの目立つ、渋いイケオジって感じだ。


「おう、おかげさまで?何があったかは知らんが、ようやっと食事の度に周囲からガン見されなくて済むようになったぜ!」

 にっぱり笑って言う朱虎氏。う、あたしも見まくって、結局判らなかったクチだから、なんか、申し訳ない。でも本当に、どうなっているのか、さっぱり謎だったんですもん!


「それは重畳。しかし結局、全面仮面状態の時は、いったいどうやって喫食していたんだい?」

 同じくガン見勢だったランディさんが直球で質問している。


「いやあそれが、俺にも結局判らんままでなあ。気が付いたら腹に収まってる感じで、いまいち食った気にならなかった、ってのは間違いないんだが」

 まさかの:本人も判ってなかった!流石神器、ぱねえ。


「成程……食った気がしない、というのも罰の一環なのかもしれないね」

 ランディさんの感想に、なるほどな、という顔になる一同。つまり、ここにいる一同だいたい、食べるのが好き、というわけですね?


 という訳で、国境を跨いでセッティングしなおしたテーブル一式で、話し合いついでのお茶会を再開するあたしたちです。お茶会なんてガラじゃねえけどなあ、なんて言ってた朱虎氏も、チーズの盛り合わせとミートパイが出てきたので目の色を変えていた。ハハハ、正直ものめ!

結局仮面状態での喫食は本人にも判ってないというオチでした。ハハハ。

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