153.儀式魔法と神罰。
ようやっと解除の話。次回で第四部は終わり!
同時更新中ですので新着からの方は一つ前からどうぞ。
さて、立太子式の前に、黒鳥にかかりっぱなしの儀式魔法をなんとかしなくちゃいけない。
蛇が恐らく足りない自分の力の一部とするために、術式の一部をわざと壊して横取りしていた分が全部戻ってきていればよかったのだけど、流石にそこまで上手い話はなくて、戻ったのは半分ちょっと、といったところ。
しかも、白狼さんや麒麟くんに流れた分もあって、彼らにも同席して貰わないといけない。
いや、本来受け取るべきは麒麟くんなんだけど、全部渡しちゃうと、黒鳥の方が、それこそどうなるか、判らない。いやまああたしが解除時にそれをコントロールできるかどうかも、実のところ、謎なんだけどね。
本当なら、蛇が死んで力の一部が戻った時点で、黒鳥も子供の姿から戻らないといけなかったはずなんだけど、これも神罰の楔の「状態を定める」部分が邪魔をしている、ここまでは判っている。
だけど、良く考えたら、黒鳥が四聖生き残りの中では一番やらかしてるんだから、元に戻るは目指さなくてよくないか?いやだめか、やらかしの償いは、大人としてやるべきだわね。
そんな訳で、麒麟くんの園の、裏山の手前で、全員集合だ。といっても、流石に王様たちはいません。守護聖獣達が纏めて絡んでいる件だけど、あくまでもこれは私事なんで。公的なお仕事とかじゃないのです。
ランディさんも裏山の方から状態を観察してくれている。これもあまり接近すると変な影響が出るかも知れない、と本人が遠慮してその位置取りだ。
まあレイクさんがあたしの背後に白狼さんの子を守るべく立ってるんで、真龍がそこまで遠慮する必要はない気はするんですけどね!
不安そうな顔の黒鳥。仮面を手に、これは付けるべきか仕舞うべきかと考えているらしきカル君。子狼の白狼さんはぺしょん、と草の上に後ろ脚を投げ出す格好で伏せている。その横に麒麟くんが香箱座り。くぅ、動物組かわいいなあ!
「じゃあ、まず術式を読むところから始めるわね。術式そのものも聖獣式だから、完全に読めるかどうかが、少しまだ自信がないんだけど……」
基本の術式は白狼さんに、実際に掛かっている改悪された術式はランディさんに教えてもらったので、把握自体はしている。後はそれを、旨く現状と合致させて認識できるかどうかだ。
まず本来の術式は、新麒麟に、術式が掛かった相手の記憶と経験を一定期間ぶん――以前聞いた話では五百年分――を、双方同意の上で譲渡する、というものだ。術式自体は、意外なほどにシンプルなんですよね、これ。
ところが実際に掛かっている術式は、同意、の部分と、最大五百年分まで、のリミッター部分が削除され、その上で本来一体の譲渡元が複数設定されている。壊れていると最初は認識していたけど、今はそれを蛇が意図的に削除し、書き換えたのがほぼ確定している。贄の文字を書き足して、術式の流れそのものを捻じ曲げたのも、どうやら蛇の仕業だったようだ。恐らくはライゼルの呪術師が入れ知恵したんじゃなかろうか。うん、教えてもらった元の術式に、そんな単語はどこにも入ってなかったんですよ。
これサンファンのガチの秘儀なのに、あたしが教えて貰っていいのかなあ、という気は、いまだにしているけど、あたしがいなけりゃそもそも麒麟くんは助からなかったのだから、問題ない、で押し通されました。そっか。
でもそういえばこれ、聖獣式だから、あたしが覚えたところで使える訳じゃなかったね、確かに問題ないわ、うん。
自分の中でも納得がいったので、読み取りを続ける。巫女の技能は、未熟者のあたしの場合、あたし本人の気分や意識で、結果が結構変わるから、この納得は、作業の一環でもあるのよ。
ああ、納得がいけば、思いのほか、きちんと読める。未熟に凹んでる場合ではないので、続きだ続き。
読み取りは完了した。後はこれを効率よく、かつ安全に解除して、余分に奪われた分を返してやらないといけないのだけど……どうにも、配分が難しい。うん、蛇がふんだくって既に使った分がどうにもならんのですわ……白狼さんが自分には回さなくていいというので、それは麒麟くんに回せるとしてもだ。子に遺さなくていいのかと聞いたら、レイクさんがどうにかしてくれるので問題ない、のだそうだ。まあレイクさん、子煩悩そうだよね、相手は甥だけど。
【ぼくは、またまなべばいいから、そんなにいっぱいはいらないからね】
麒麟くんはそう言うけど、国を支えるという仕事がある以上、ある程度はそちらに回さないと、今度は麒麟くんが過労で倒れたりしかねない。
「俺もうこのサイズでいい気がしてきた……」
黒鳥が麒麟くんの言葉にそんな事を言い出す。まあ気持ちは判らなくもない。やり直しできるなら、というのはね。
「それは多分俺が困る気がするなあ……いや別に困らないのか?それより嬢ちゃん、この仮面、付けると外す、どっちがいいんだ?」
カル君は軽い調子でそんな風に聞いてくる。
「その形状が気に入ってるなら付けてればいいわ、自分で決めて?」
付けてないと、多分新しく別なのが降ってくるんじゃないですかね。あくまでも、多分だけど。付けておけばそれがそのままで、同じ役目をしてくれるはず。そこは間違いない。
返事をしたら、暫く眺めたあと、ぺたりと顔に張り付けた。成程、デザイン的には問題なし、なのね?
〈ふむ、この術式なら、ちと助力をしてやれそうだ。甥子経由で我の力を少し流してやろう。麒麟の補填に回すが良いよ〉
おお!レイクさんの手助け決定!助かります!!
「有難うございますレイクさん。じゃあ、解除を始めますね」
今回は〈消去〉は使わない。そんな乱暴な消し方したら、反動で主にカル君に余計な被害が飛ぶという予感しかしないので!
という訳で、術式を順番に手繰るように、解いていく。うおう神罰まで絡まってるぞこれえ!まあ神罰自体がメリエン様の力なので、あたし、というかサポートのシエラのお陰で、ある程度は融通が利くから、どうにか進めていける。
あたしから、僅かに光が漏れている。多分術式を取り扱うための防御行動、安全装置的なやつ。実際の作業はこの、光として現出している魔力を操作して実行しているわけですね。
その光が黒鳥とカル君にまずは触れていく。それとは逆方向から、白狼さんの子にレイクさんの力が流れ、麒麟くんに渡り、そこから少しだけ、あたしのほうにも流れて来る。
ゆっくりめではあるけれど、順調に解除は進んでいく。
ああ、黒鳥とカル君の契約の残滓、こんなとこにひっかかってた!これも恐らく、魂の繋がりの原因ね。この繋がりはもう外部から断ち切るのは、無理になってしまっているけど。
ただ、混濁するほど重なってはいない。繋がって一蓮托生状態にはなっているので、この後の神罰の発動には、確定でカル君は巻き込まれる。まあそれでいいと本人は言うのだから、しょうがない、やるしかない。
術式の最後の部分を外す。流れ揺れる力を整え、配分する。なんとか、上手く、やれた。
うっすらと光を放ち、姿を変える黒鳥。あ、カル君と同じくらいの大きさになったな。でもまだ化身のままだ。カル君とほぼ同じ顔。色は黒灰色の髪に赤い眼で、これはちっちゃかった時と変わらない。ちょっと気持ち、カル君より目つきが悪くて細いかな?
そして、一拍置いて、降りかかる、神罰。
「ぐっ……」
「ああ……」
ほぼ同じ顔の二人が、揃って身を捩る。天を見るカル君、俯く黒鳥。カル君の仮面が、少しだけ形を変える。というかより小さくなってないですか。頬の半ばまで、縮んでる。
黒鳥の顔にも、仮面。ただ、朱虎氏や蛇と違って、それが覆っているのは、目元だけだ。デザインは、真っ白で、カル君の仮面と同様、少しだけ鋭角な部分もある、立体的なものだ。
「え、あれ、これで、終わり?」
衝撃をやり過ごした後、きょとんとした、とでもいう感じの声で、黒鳥が首を傾げる。確かに、もうちょっと何かありそうな気がしたけど、ないわね?まあ鳥と姿が混ざると、割と大変な事になる気が、しないではないけど。きっと見た目は大惨事よ?
「うぇ、アテが外れた……鳥、お前まで飛べなくなってないか」
カル君が苦々しい口調でそう指摘している。なんだって?
「え?あ、ホントだ、化身状態から、変化も何も、できなくなってる」
衝撃を受けた様子の黒鳥。ああいや、変化不能は神罰の基本制約だったはずで、仕様だわよ?
「変化関連の制限は神罰の仕様よ?どちらかというと、朱虎氏みたいに本体の姿が混ざらなかったのが謎よ?まあ鳥と混ざると多分大惨事だけど……」
正直に感想を述べたら、男子二人が、あー。と諦め顔になった。
というか、黒鳥本人も、混ざったらヤバいと思ってたのね……まあ、へんないきものだし、しょうがないか……
いや流石に今の本体は、あのへんないきものよりはマシ、な、はず(変化できないから見られないけど




