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152.狼神、王都デビュー。

狼にやたら知り合いが多い話。

 荷物を置いて、お風呂で埃を落として、ついでに久々にひっつめ三つ編みはやめにして、と思ったけど、髪型も含め、現状の身の回りは自分でなんとかするしかないので、ゆるい三つ編みに纏めておく。人手がほぼ男性ばかりだからねえ……王妃様も自分でできる範囲の事しかできていない様子だったし、やはり髪は三つ編みで纏めていらしたから、合わせておこう。

 ……会食の時に、その三つ編みは陛下が編んだんだと聞いて、こりゃまたお熱いなあとなったわけですが!なお野宿とかコテージ宿泊モードの頃のあたしのひっつめは主にランディさん作です。あの真龍、何でもできるな?

 服装は道中はアスガイア入りした頃からずっと古着ばっかりで、そもそも蜘蛛絹は城塞に置いてきてたんだけど、そういやハルマナート国内移動中に着てたのが普通の街着だけど、古着ではなかったな、とそれを引っ張り出す。春の服だけど、気候的にサンファンのほうが冷涼なので、丁度いい。無論普通の庶民の街着なので、ごく普通の地味な服だ。ドレスなんぞ、どう考えてもバトルコミコミなのが判ってる旅には持ち歩かんよ……あたし自身に格納魔法があったら、きっと持ってただろうけど、今の状況を見る限り、どうせ使わないってオチだったろうしなあ。


 陛下たちは生活と儀礼に必要な最低限のものを残して、私物も全て売り払う構えのようだ。流石に売れそうにないものもあるとは言っていたけれど。


「そもそも、儀礼といっても、奉じていた神は既に亡いし、麒麟様も大仰な儀式は要らないと仰せだしねえ」

 王様が好々爺の顔で、そんな風に述べる。会食の場は、例によって王宮門前の天幕だ。ランディさんが頑なに王宮の敷地に入らないからね、しょうがないね。


【おおげさなかざりとか、ぼくらにはほんらい、いらないからねえ。なんであんなはでにしてたんだろうね】

 王様の隣でランディさん謹製フルーツサラダをもぐもぐしている麒麟くんがお耳をぴこぴこさせながら首を傾げる。くっ、かわいい!


「そこはそれ、他国への見栄とかね、人間はめんどくさい生き物だからね」

 にこやかに王様が答えている。なんかほんとにおじいちゃんと孫の会話みたいだな。


 この会食の後は、食休みと準備時間を挟んで、正式なグレンマールさんの立太子式、そしてそのまま譲位式に雪崩れ込む構えだそうだ。王は引退して、そのまま魔法師として新王の手伝いをするという。後見、ではないのは、アスガイアの時の前例を鑑みるに、やらかした代の王は最早出しゃばるべきではないだろう、という話だったんだけど。

 正直この王様に、やらかした当事者のイメージが微塵もない。むしろ被害者だよね、この方?


《いえ、それがですね……どうも、何か、やむを得ぬとはいえ、してはならぬことを一つだけしたので、その判断は致し方ない、との談話が》

 どうもメリエン様にしては、はっきりしない物言いのような気がするけれど、まあ、状況としては、なんとなく、察しろという辺りなんだろうか。

 ああでも、前例を鑑みるに、易姓ではないだけ、温情か……?



〈やあ、お邪魔するよ。こちらの王にはお初に……ではないな?なんと、そなた、デール坊ではないか?〉

 食後の歓談、という辺りで、おもむろにひょい、と天幕の入り口から顔を見せたのは、大口真神となったレイクさん。神殿から暫く別行動してたんだけど、こちらに着いたのね。本日のサイズは普通の狼より二回り大きいくらいかな、くらい。そしてやっぱり王様と知り合いだった。

 うん、正直、予想はしてた。


「儂をデール坊なんて呼ぶ狼……ひょっとして、レイク殿かい?随分いいサイズに……いやそもそも、サイズどうこうどころじゃないな、何やら、神威を感じるね……?」

 王様が首を傾げ、それから何やら、驚いた顔になる。そういや討伐はしましたって報告はしたけど、その結果レイクさんが神と化した話はしてないんだっけか?それなりに重要案件な気がするけど。あ、グレンマール王太子があちゃ、って顔したから伝達忘れですね!把握した!


〈応。ここの駄神討伐に参加したら、うっかり神化してしまったが、そなたの言うレイクで間違いないとも!あの駆け出し魔法師が、まさか現王だったとはな!〉

 笑いを含んだ声。王様とも結構付き合いの長そうな雰囲気ね。

 話を聞いてみたら、それこそ王様が遊び人枠の駆け出し魔法師だった頃に、レイクさんに出くわして、それから王様が国に帰るくらいまで、断続的に付き合いがあったんですって。結構な古なじみだったわ。そしてフェンリル、予想以上にあっちこっち、顔が広い。


〈我は基本旅暮らし故な、自然と知己は増える。まあ、人の知り合いのあらかたは既に寿命で墓の下だがね。そればかりは、致し方ない〉

 だが旅暮らしも暫くは休憩だね、と含み笑いと共に、あたしの椅子の横に置かれたバスケットの中で、ぽんぽこおなかのへそ天でくうくう寝ている白狼さんの子をぺろりと舐めるレイクさん。


「おや、白狼様の御子と、何ぞ関わりがおありで?」

 その辺の事情もあまり知らない王様は不思議そうだ。


〈うむ、我の弟の子でね、甥という奴だな。よって、我はこの子の後見役と、ついでにグレン坊の守護くらいはしてやろうと、思うておるよ。ついては、時折ここの裏山に降りる権利を、借りたい処であるな〉

 前からそんな気はしてたけど、レイクさんってすごく義理堅いというか、契約的なものを重んじるところがあるよね。降りる権利を借りる、ときたかー。


「堕神討伐に功のあった方だ、当然構わないよ。むしろ山丸ごと神域としてもらっても構わん位だが、何もないからなあ、あの場所は」

 裏山は、麒麟くんの力が及んだせいか、木こそまだないけれど、柔らかな緑にそれなりに覆われていて、最初に来た時の無残な禿山よりは、だいぶんと見やすくなっている。

 ただ、元々これといって何かがある山ではなかったんだそうだ。強いて言えば、我々や麒麟様のお散歩地かねえ?とは、王様の談話。


〈神域は今は定めるつもりはないのだ。時折訪れる際に、驚かれなければ、それでいいさ〉

 レイクさんがそう答えたので、その話はそうまとまった。まあ普通といえば、普通?


《外来種の神化自体が普通じゃないですからね……相対的に普通、とは言えるかもしれません》

 シエラが言葉選びに困りながら、そんなことを呟いている。まあ気持ちは判らなくもない。



(しかし、神化して判ったが、そなた、巫女だったのだな。もし可能なら、他の地の神々の我への想定できる反応を知ることはできんだろうか?)

 レイクさんからそんな念話が届く。流石にその辺は気になるのね、いや、それが当たり前か……


《ライゼル方面は知ったこっちゃありませんが、他の国神様がたは、メリエン様によれば概ね好意的だそうですよ。マッサイトの方とフラマリアの方がお会いしたいと言っているそうですけれど、流石に当分先になりそうですね》

 流石にこのシエラからの情報をそのまま伝えるのはどうかな、と思ったので、今の所、基本的に悪印象はないみたいですよ、ライゼルは知らんけど、と答えておく。


(ほう、即答とは恐れ入る。隣近所には挨拶に向かうなどした方が良いのだろうかねえ)

 なんか引っ越し蕎麦でも持っていきそうな雰囲気になってきたんだけど、気のせいだろうか。

 そこは今は急がなくてもいいんじゃないかな、と答える。神様の時間感覚が人間と同じわけないしなあ、多分だけど。いや、この世界の神様は人間に近い場所にいるから、そうでもないのかなあ?


《流石にあいさつ回りまでは、前例もないし、しなくていいと思う、とメリエン様が。できればこの地の国神の後釜に就いてもらう方がありがたいのだけど、無理にとは言えない、とも仰ってますね》

 シエラが追加情報をくれる。まあレイクさん本人がまだそこまでする気がないようだし、神成りたてで、自分にできる事の把握もある程度しか終わってない感じだから、それはおいおいでいいんじゃないかしら?


 少なくとも、王太子殿下、いえ、今夜以降新国王陛下、を個人として守護する気にはなってくれているのだし、いずれはという期待程度で、今はいいのじゃないかしら。

あとちょっとが終わらぬ。

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