149.新たなる守護神?
但し、それは国を護るものではなく。
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おおおおおおおん!と、勝利を告げるように遠吠えするレイクさん。
その身体が急激に光を帯びる。なんだこれ、魔力、じゃないぞ?神力?!
銀の毛皮が、更に白銀に近い色に光を集めて輝いていく。その色合いに薄っすらと陰を落としていた属性力の影響が、急激に薄れていく。神様は魔力や属性力じゃなく、神力だけですべてを成すのだと、誰かの話で聞いたことはあったのだけれど、これは。
神ならざるものから神へ、って、こんな風に、変化するんだ。
《新たなる神の誕生、だというのですか》
シエラもそんな話、記録に存在しない、と呆然としている。
いやでも、かつて堕ちて討滅された神の後釜も、新しい神だった、と、ランディさんが言っていたわよ。その時も、誰かが神の座を、新たに得たのでは?
……あれ?それだとすると、此処までの話を総合すると、それって……
一つの考えに至ろうとしたところで、ひときわ大きく光が輝いて、そちらに意識が半ば強制的に向けられる。
でも視線を向けた時には、もう光は落ち着いていて、レイクさんが、元神の在った場所で、すっくりと立っているのが見えた。
色合いこそ明るく、明らかに神々しく変わったけれど、それ以外は、大きさも、毛皮のサラサラ感も、それまでのレイクさんと特に変化はない。眼は青いけど、確かそれは初対面の時からそうだったはず。
と、思ったら、ひょい、と上の床に上がったレイクさんの身体が、するすると縮む。
普通の狼より二回りくらい大きな銀狼となったところで、サイズ変更は終わりのようだ。なお神々しさは変わらないものとする。
〈ほう、サイズ変更を取り戻せたか。面白いことになるものだ〉
そして語る言葉の響きが、質が変わった。やはり、神の座に辿り着いているのが良く判る。
「……よもや、新たなる神の誕生に立ち会うことになろうとは」
その言葉を受けて、ようやっと我に返った、という様子でグレンマール王太子が呟く。
〈正直に白状すると、いくつかある可能性のひとつに過ぎなかったのだがね、幸か不幸か、引き当ててしまったようだ。
ただまあ、我は成り上がったばかりで、現状ではこの世界に認められた神ではない故、この国自体を守護することはできぬ。そうさな、我が甥と、次代の王、そなたを守護するのがせいぜいであろうよ〉
何せ成りたてで、色々足りぬしな、と、笑うレイクさん。
「面白いものだ、この世界の神には我らは基本対立姿勢なのだが、君に対して敵対心が沸かないねえ。いや、前例自体はあるのだが、今回もそうなるとは、思っておらなんだ」
ランディさんが感慨深げにそう言う。そういや真龍の神への反感って本能なんだっけ?
〈そこはそれ、元よりの友誼というものがある故もあろうよ〉
にやりと笑うレイクさん。
「問題は、どちらかと言えば既存の神々のほうだろうね。食われて成り代わられたとか、ここの連中なら激怒しそうだ」
ちらりとあたしを見やりながら、ランディさん。確かに、あのズボラ創世神とか、どちゃくそ怒りそう。
《メリエン様は面白がっておいでですねえ。あと一回モフってみたいそうです》
レイクさんはモフり難易度高いんですよ、というか基本触らせてくれないんですよこの方!
「創世神とか絶対怒るでしょうねえ。ただ、創世神の影響力って今は凄く低いんで、他の神様はそれぞれ自分で判断されるんじゃないかしら」
取りあえず創世神に関してだけは断言して、あとはぼやかしておく。ただまあ、どう見たって今のレイクさんのほうが有能そうなんで、案外反感は来ないんじゃなかろうか。
ついでに、創世神の影響力なんて、現世界に対しては微々たるもんだと宣言しておく。裁定者の技能か何かが宣言しとけと言うのです。なんでかは知らない。なので敢えて敬称は付けなかったんだけど、予想以上に誰も反応しなかった。あれえ?
例のサンファン絡みのカウントダウンは、完全に消失した。もう、最悪の事態にまで至る要素は、ほぼ全て、摘み取れたのだろう。後は、既に起こってしまった事への対処、所謂事後処理って奴ですね。
――そして、それはあたしの仕事では、ない。実は巫女は神に相対するのが基本の仕事で、人に相対するのは、神官の仕事なのよね。実際、一般的な神殿内でも、基本的にそこらへんは分業制だそうだ。呪詛とかの、神官じゃ対応しきれないものや、神の力を借りるでもしないとどうにもならない事に対しては、巫女も対人の仕事をするので、巫女だからといって、神殿奥に引き籠りになるわけでもないそうだけど。
そして、裁定者としての仕事は、今回はレイクさんの種族変化の段階で終わっている、らしい。実は創世神ディスは、何故か巫女の仕事の方ですハイ。
「あれ、姉ちゃん、なんか急に雰囲気変わった気が……さっきまで、凄くおっかなかったのに」
黒鳥がこっちを見て首を傾げる。
「ん?ああ、お仕事完了したからじゃない?」
さらっと告げておく。正直に言うと、今は休息と休暇が欲しい。一仕事どころじゃなかったんだし。
「え、例の術式のあれは」
カル君がびっくりしたようにこっちを見る。
「それは仕事枠じゃないのよ。ん-、まだちょっとしんどいから、もうちょっと後で。王宮に帰ったらで大丈夫よね?」
同顔男子二人にそう確認すると、二人で顔を見合わせてから、うん、とこちらに頷いて見せたので、まあ大丈夫、でいいだろう。
個人依頼、という意味では仕事なのかもしれないけど、上から降ってくる奴じゃないからね。
術式が色々ややこしいことになったままだから、きちんと読み取り直して精査してから解除してやりたいのよ。多分、麒麟くんと白狼さんも混ぜないと、きちんと解けない感じだし。
そして今は、麒麟くんは王宮だし、そもそも、読み解く為の気力が、流石に足りてない。
〈ところで巫女よ、我に号をくれぬかね?名は変わらぬ、変えられぬようなのだが、この世界の場合、特に司るものもない新神の場合、神号があると、安定が良くなるようなのだ〉
それをあたしに振るんですか!いやまあ確かに巫女の仕事っぽさはあるけれど!?
ううん、神号というものに、あまりイメージが沸かない。ええと、資料は……狼の神様だと大口真神とかそういう?
《それでいいんじゃないでしょうか。外来種からの神様ですから、明確に外来の神号の方が良さそうです》
シエラがそういうので、まあこれでいい、のだろう。というか、あたしの知ってる狼絡みの神話で、カッコイイと神聖さを両立してるものが、地味に少ない、ような。
「ええと、では、『大口真神』では如何でしょう。他の世界のどこかの、狼神の称号です」
説明したら、レイクさんが頷き、他の人も成程?という顔になった。
〈うむ。我に相応な号といえるようだ。受け入れよう〉
再び一瞬だけ発光するレイクさん。今度は光った前後で、特に見た目の変化はないけれど、雰囲気が、少し柔らかくなった気がする?
「ところで、座所はどうされます?流石にこの神殿というわけにはいかないでしょうし」
グレンマール王太子殿下がそう尋ねる。確かに、此処はなんていうか、縁起が悪すぎる気がするよね。狼神にも、似合う設備とは言い難いし。
〈取り立てて希望はないがなあ。大きさを変じる事が出来るようになったお陰で、一般的な狼の塒より少し大きい程度で特に構いはせぬし……当面は嫁御の塒を使わせて貰うつもりで居るのだがね、甥の事も、嫁御が保護していた子らの事もある故な〉
何せ我は生まれついての狼だからな、と笑うレイクさん。そういえば、出身種族が元々変化や化身はしないと言っていたっけ。
気が付けば午後も大分回った時間になっていたので、今日はこのままこの縁起の悪い神殿でお泊りせざるを得ないようだ。
個別の部屋も広間も、結構あれこれ衛生面も見た目もやばいことになっていたそうだけど、軍団兵の皆さんが綺麗に掃除してくれたそうな。ありがたやありがたや。
あと窃盗事件が複数あったようで、そこら辺の捜査を何故か近衛連隊の人たちがやっていた。大体取り戻せそう、という話ではあったけど。宝物庫は元々そんなにお宝ため込む、なんて感じじゃなかったらしいし、神宝系危険物も特になかった、そうだけど。
「無能な働き者じゃなかっただけよかったというべきか、仮にも神だったのに、己の神威を示す為の神宝すら作ってなかったのか、というべきか……」
無造作に色んな、祭事に使う品々だけが突っ込まれていた宝物殿を覗いたランディさんが、冗談とも本気ともつかないことを真顔で呟いていたのが印象的だった。
別の可能性としては、変化なし、別種族に特殊進化、腹を壊してちょっとだけパワーダウン、あたりだったようです。
というか本来の天狼族の進化ルートに神化はなかったような……?