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148.神喰らいしは銀の巨狼。

これを本当にバトル回と称していいのか?となる今部。

ちょっとヤバい話もありますが、匂わせで留めておきますね。

 ヴァルキュリアさん達が舞い踊るように触手の群れと交戦中。

 本来の交戦相手であるランガンド本体はたまにぷるん、と動くくらいで、殆ど触手ともろもろした塊が働いている。

 二つの間には、間違いなく力の繋がりがあって、本体の力で動いてるのは確か、なんだろうけれど……ちなみにあたしがさっきまで頑張って削ったぶんは、回復は特にしていない様子。なので、本体は最初の半分くらいの大きさだ。特にそこから増えたり減ったりは、していない。

 本体の槍状攻撃は一回あったけど、流石に今度はヴァルキュリアさん達も喰らわなかった。横の連絡報告もできているらしい。システムは謎だけど。


「光るねーちゃんたち楽しそうだなあ」

 黒鳥の素直な感想。ジュースと卵サンド片手に、すっかり戦いに見入っている。


「そうね、凄く楽しいらしいわよ」

 スキルでガンガン駄々洩れしてくる楽しい面白い!いいぞもっと戦おう!という物騒なお嬢さんたちの感想。少しずつ双方ともに動きが変わっているんだけど、ひょっとして、どちらも学習してる?あんまりこの状態続けるの、よくないんでは?

 とはいえ、あたしの状態、まだちょいと、しんどい。物理的に減った分は、ちょっと食べたくらいじゃ戻らんのです……

 ちなみにこの世界、魔力をよく使う魔法師や治癒師は、職業としては、実は女性に全く人気がない。ええ、脂肪分の詰まったある部位、まあありていに言えばお胸とお尻が、減りがちになるんだそうで……マジか、またぺったんは流石にやだぞ、あたし。


《流石にそこまで急には減らない……と思うんですが……》

 そこで口籠るのは止めて頂けませんかシエラさん?!


 外詰めの軍団兵さん達との連絡は、基本的にカル君にやって貰ってる。なんせ、彼が一番、この敵に向いていないので。仮面のおかげで、怠惰の波動を喰らわない、という副次効果があったのには驚いたけれど。まあおかげで気楽に伝令を頼めるわけです。影響を受けない、というのは、ひょっとすると、本人が思ってるより、重要なんですよ?


「外の連中に特に変化はないね。暴れてた連中がようやく大人しくなった程度だ」

 戦況が長期化していることを伝えに行って戻ってきたカル君が、簡潔に外の状況も教えてくれる。え、あいつらまだ抵抗してたの?!


「随分粘ったね。低血糖症でショック死とかしていなければいいが」

 ランディさんが怖いことを言う。低血糖症自体は、この飢えた人びとになら、充分あり得るよねえ?


「それは大丈夫、なんか給水と糖分だけ配給したら復活して暴れてた奴だそうだから……いや急に動くのも危ないんだっけあれ……?」

 魔力切れの次に怖いのは物理的なエネルギー切れなのは、この世界でも常識だそうで、その配分をちゃんと自分で把握できないと、飛ぶことの許可が下りないのがハルマナート国の軍だ、という訳で、カル君もその辺の知識は一応ある、ようだけど、なんか知識が怪しげだな君?


「まあうちの軍もその辺りの知識はあるから、対応はできるよ、治癒師は居ないけどね。だが、そういえば、この神殿には治癒師が数人いたはずだが、誰も姿が見えなかった気がするな?」

 見える限りの、神官たちらしき者の称号は全て確認したはずだが、と、グレンマール王太子が不審げな顔になる。


「それなんだがな。拙い噂が流れている。暴れていた連中は、職と食、そして人としての禁忌を犯したと」

 おいこらそういう重要情報は先に出しなさい!?


 そうなんだよ、やっちゃったんだ、あのこたち


 ん?今のはこれ、誰の思念?念話とも違う、どちらかといえばスキルでの反応に近いけど、スキル〈動物意思疎通〉ではない。


「禁忌……その組み合わせは嫌な予感しかしないんだが?」

 王太子殿下の表情が、不審げから一気に明確な嫌悪感に変わる。奇遇ですね、あたしもその気持ちだわ。


「結論から言うと、治癒師は推定だが全員死亡、だそうだ。骨まで砕き尽くされていて、人数の判定ができないと、捜査と検死にあたった運の悪い奴が吐きそうになってた」

 神罰ってそういう制限はしねえんだな、と、カル君が呟くように付け加える。


「個々人の行動までは縛らないのよ、神罰って。あくまでも自分で考えて反省しなさいってスタンスだから、神様って」

 これはアスガイアの時に確認した話だから、間違ってはいないはず。


「反省、ですか。解除される日も来るのですかね?」

 どうやらアスガイアの件はまだ知らないらしい王太子殿下が怪訝な顔。


「されますよ。罰するべき相手が全ていなくなるか、全ての対象者が悔悟し行いと考えを改めることができれば、だそうですが。ああ、この話は口外無用でお願いしますね?」

 アスガイアは、前者だった。この国にとっては……どうなるでしょうね。現状の神殿のこの様では、そう簡単に、結論は出るまい。

 本当はこの情報は余り広めてはいけないのだけれど、神罰を受けない程に、この国に感慨すら碌に持っていないにも関わらず、今のその地位、そして未来のこの国を支える重責を受け入れたグレンマール王太子には、ヒントくらいあげてもいいと思うのよ。そして、あたしがこれを口に出せたなら、メリエン様もそのくらいは許容してくれている、はず。

 どこかから、そうだね、とまた同意の意思だけが、ふわっと漏れてくる。いや、また、じゃないわ、さっきとは違う誰かだわ。


「……全ての対象者が、ですか。さてもさても、厳しい事ですね」

 まあだからこそ神罰なのでしょうがねえ、と、思いのほか軽い調子で応じる王太子殿下。自らが受けていなくて実感がない、という訳でもないようだし、現状の神殿の惨状を参照したら、そうとでも言わないとやってられない、の方でしょうかね。


【さて、戦乙女どもも、そろそろ充分な運動になったであろう?奴も程よい大きさになったようだしな】

 最初の数撃以来、何故かずっと沈黙を保って、子狼さんを抱えて、背後であたしたちを見守る構えだったレイクさんが、口先に咥えた子狼さんをあたしの膝にぽとりと落とすと立ち上がった。


【義兄殿、腹を壊したりせんでおくれよ?】

 白狼さんの、心配げな声。腹?


【あの状態であれば、なんということもない、安心せい。覚悟も、決まって居るよ】

 ふふ、と含み笑いで返すレイクさん。いや待って、覚悟、とな?


「え、私に名を?超級なんて呼び出せそうにありませんが」

 唐突に、グレンマール王太子の声。あれ、名を預けたんだ。


【それでも、契約は楔となろうよ】

 そう答えて、床の大穴に飛び込むレイクさん。あたしが灯しっぱなしだった〈灯〉に照らされ、銀の毛皮がキラキラと輝いて、とても、美しい。


「確かに、もう充分だね。では〈送還〉」

 ランディさんがヴァルキュリアさん達を撤収する。戦っていた相手に、そして主に一礼してから消えてゆく乙女たち。第一部隊は本当にあらゆる意味で余裕があったなあ。


 触手がぶわりとレイクさんを押し包むように拡がるものの、咆哮一発で吹き散らされる。うわ、レイクさんの、これが本気か!

 そして、触手ともろもろを吹き飛ばしたレイクさんは、おもむろに本体に歩み寄ると、ぱくりとそれを咥えた。慌ててぷるんぷるんしだす本体が、いっそ哀れというか、相変わらず動きが愉快というか……気が、抜ける。


「気の抜ける動きですねえ」

 グレンマール王太子も呆れ顔だ。黒鳥はレイクさんの方に目をくぎ付けに。


 レイクさんが口元で何か呟くような感じ、こちらには何も聞こえないけど、伝わる意思は、まあ今更案ずるな、といったような、不思議なものだ。今更、ってのはまあ判らなくもないわね?



 そうして、その言葉と同時に動きを止めた本体を、ぱくりと一呑みにするレイクさん。

 え、あ、腹がどうこうって、食べちゃう話だったの!?

 ってそうだ、神喰らいの狼だって、前に自分で名乗っていたじゃない、レイクさんは!

 そして、食われた元神は、呑まれた瞬間に、死亡判定になった。即死効果持ちなのか、レイクさんって……

 後から聞いたけど、丸吞み即死判定は、天狼族としての基本スキルだって。丸吞みするまでが大変だ、と笑って返事されたけど、おっそろしいスキルだな?!

という訳でなし崩しにバトル終了です。レイクさんを忘れてた訳ではありません()


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