145.激闘横目にお茶をする?
おい待てバトル回じゃなかったんかい?!
あ、同時更新中ですので新着からの方は一つ前からどうぞ。
戦況は、思ったよりも膠着状態だ。
予想通り、何時までも、もろもろと地味に湧きだし続ける、瘴気の塊めいた、神の座から存在ごと堕ちた、名状しがたい何か。
「思うんですけどねえ、これ何処かから瘴気を引き寄せて物質化してないですかね?」
グレンマール王太子がそう眉を寄せる。魔力が心もとないので彼は少し早めに休憩に入って貰っている。
そりゃそうだ、あたしですら、魔力が四分の一くらい減っている。普通の人ならうっかりで枯渇するレベルよね。なお魔法の物量差と光属性三倍消費については考えないものとする。いやほら、あたしは称号効果で三倍消費まではしてないから。
《それでも称号効果は消費半減ですから、他の属性の魔法よりは、使ってますよ?》
そういう追認は、今は要らないですぅ。
《というかですね、今までで、一番減ってますよね。流石堕ちたとはいえ元神、というべきなのでしょうか》
まあ結界堅持とライトレーザー乱打を、思ったより長時間やってますからね。
むしろ、まる二時間過ぎても、まだ四分の一しか減ってない方にびっくりだわよ!
《回復量も常人のそれじゃないですからねえ……》
それなー。自分でもここまでえぐいとは思ってなかったわよ、ええ。
「魔力量がおかしいのは知ってたけど、それにしたってちょっと継戦能力おかしくねえかな、この嬢ちゃん……」
呆れた様子のカル君は、まだ余裕の顔だけど、手持ちの魔法が全然効いてないから手持無沙汰なだけだという罠。
「それでも眠気と腹ペコには勝てませんので?」
そう返事したら、あからさまに嫌そうな顔をしてくれました。うん、平常進行!
「それにしても、瘴気を引き寄せる、までは判るし、それに近い挙動には確かに見えるが、何処から?」
我関せず、とランディさんが首を傾げる。真龍として動くには、ちょっと人目が多すぎるので思案中、であるらしい。
実は今現在、ランディさんが召喚した聖獣さん達数体に、攻防を一時的に任せて全員休憩中です。ええ、おなかが空いたとこぼしたら、そうなりました。おやつのカッサータが大変美味しい。
まあ、ランディさんが呼び出したの、ヴァルキュリアさんたち、なんだけども。どう見ても人型だよね……
光輝く髪と鎧の、顔の見えない推定乙女たちが、勇猛果敢に光を凝縮したような剣や、聖獣式の光魔法で美しくも華やかに、そして気のせいじゃなく、大変楽しそうに戦っている。成程、魔法が聖獣式……かたちも動きも、ほぼ人のようだけど、人ではないのねえ。
手ごたえはともかく、斬っても斬っても湧き出る敵って目新しい!おもしれー!みたいな割とアレな感情が流れて来るし……なかなかのバトルジャンキーですね、このお嬢さんたち?
「ものの本でヴァルキュリアの存在自体は存じておりましたが、本物を見ることができるとは、思わぬ僥倖ですね」
あとで陛下に自慢しよう、と、思いのほかしょうもないことを言い出すグレンマール王太子。まあいきなり庶民ノリからは抜けられないよね。王様もああだし。
「あれって人じゃないんだな、魔法使うまで、とてもそうは思えなかったが」
カル君も初見らしく、紅茶のカップを片手に、不思議そうに彼女たちを眺めている。
「魔法が俺ら式だよね、姉ちゃんの魔法陣も綺麗だけど、聖獣式の光魔法も綺麗だなあ」
黒鳥はそこに気付いて、珍しくあたしの魔法を褒めつつ、これもなんともいえないキラキラお目目で見入っている。なお彼は火魔法がそれなりに効果があったので参戦していた組だ。さっきまで、疲れたなあ、という顔でランディさんに貰ったジュースを飲んでいたのだけど。
「そうだね。どこぞの異世界から持ち込まれた外来種なのだそうだけど、彼女たち自身もその辺の、自分たちの来歴とかは、何故かあまり知らないそうでね。些か好戦的故、大陸に居るとちと問題がありそうなので、普段は龍の島で保護しているんだ。たまに実戦に連れ出すという契約でね」
ランディさんがさらっと告げる。あ、王太子殿下もランディさんの種族は御存知か。そういやさっきからランディさんには敬語だわ。陛下は知らなかったのにね。
兵士さんがたは一旦下げて、入り口方面の警備に回って貰っている。流石に、今回のこの敵は、彼らではどうにもならない。
あたしたちも、攻勢気味ではあるけど、結構攻めあぐねているくらいだしね。
相手の現状の戦い方は、まあここまでほぼ変わらない。もろりもろりと湧き出しては、触手を伸ばし、物理と浸食の両面攻撃をしてくる。光そのもので構成されているようなヴァルキュリアさん達には、浸食は効果がないようで、ことごとく弾き飛ばされているけども。
ただ、とにかくいつまでたっても質量が変わらない。吹き飛ばして消滅させると、いつの間にか同量が補填されているというありさまだ。
これは供給源を見極めて、そのラインを絶たないとどうにもなんないな?
カッサータをおかわりして、もぐもぐと味わいつつ、視線を、相変わらずもろりもろりと黒い物体が沸きだす辺りに向ける。
魔力視で見えるものは、意外なくらい多くない。まあランディさんが判断しかねてるんだから、そっちで見るものじゃない可能性が高いわね。
神ではなくなってしまったせいか、意思らしきものは、感じない。
……いやでもおかしいな?あの餓鬼のような分体には、ちゃんと意思があったよね?これがホントに本体でいいの?
そう思ったところで、視界に映るものが、何となく変化したような、そんな感覚。何かが、切り替わった?
封印の石棺は消滅したけれど、その台座は、そのままその場に残っている。まあこれは、本来別の用途で元々この神殿にあったものらしいので、それがあること自体は、おかしくない。
だけど、その下にも。何かが、ある?気が付いてしまったら、それはもうはっきりとした存在感に変わった。こいつの本体は、下にいる。そして、ぐーたらしながら、こちらの徒労を、嘲笑っている?もしくは楽しんでいる?いい性格してんなあ?!
どうやら、石棺自体が、その下にあったものを投影していただけ、だったようだ。その投影自体は、恐らくはシンプルな魔法仕掛け。万一の危険防止と、封印に不用意に触れるものが居ないよう、一旦地下に押し込めてから、それらしく上に投影していた、ということらしい。封印自体が消失した余波で、術式も破損しているようだけど、気が付いてしまえば、辛うじて読み取れる。
「あー、本体、下ですね、これ」
取りあえず、カッサータの最後の一切れを口に放り込んでから、全員にそう告げる。
なんだと、という顔でこちらを見るランディさん。王太子殿下のほうは、じっと台座を見てから、ああ成程、という呟き。巫覡の才を持つだけあって、ちゃんと見えている様子。結構才能あるのね?なお同顔男子ふたりは、へー、と気のない返事。
取りあえずあたしの魔力はフルに戻っている。まあ他の人は使った分の半分戻ったかな、くらいだろうけど、流石にこれ以上のんびり観戦しているのは厳しいだろう。
あたしが気付いた、ということは、相手にも気付かれた可能性が、高いのだ。思考内では最大限の隠蔽はしてたけど、さっき喋っちゃったからね。
ガゴン!と大きな音が床から響く。整然とした床のブロック状の石が、崩れ、地下空間へと崩落していく。まあヴァルキュリアさん達は空中に浮遊しながら戦っているので、それ自体に影響はないのだけれど――
真下から突き上げる巨大な黒い槍状の闇に貫かれる乙女たち。致命傷は全員避けたようだけれど、危険レベルの損傷で、召喚状態が解除されてしまったようで、次々に帰還していく。
即死しなければ、基本的に召喚陣の安全制御で、損傷大の時点で自動送還されるのは、超級召喚限定の仕様です。上級より下だと、送還を使うしかない。なおダメージは送還時に多少回復するらしい。全回復まではしないけど。
「え、これ、超級六体同時召喚してたってこと?」
仕様を思い出したらしいカル君がびっくり顔。
「ああ、彼女たちは六人でワンセットだから、あれで一体分換算なんだ。まあ実際には陣六枚必要だから、効率は悪いのだがね」
ランディさんが解説してくれる。なかなか難度の高い召喚対象ですね?
「〈ライトレーザー〉」
取りあえず先制されたなあ、と思いつつ、極太ライトレーザーを一本ぶち込んだけど、あんまり効いてない?いや、地上に湧いてたあのもろもろを盾にしたのか。ほんと防御手段ある奴はめんどくさいなー!
やっと第二形態ならぬ本体が沸いたので、次回こそちゃんとバトル回です。