139.王と神罰と国神と。
説明回、かなあ。
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一旦、全員で王宮の入り口まで戻ることになった。
まあ内部に食料と呼べるものが何一つないのも、危険なものが潜んでいないことも、確認はできているからね……
現在あたしたちや軍団の皆さんの食を支えてくれているランディさんは、真龍としての制約で、基本的に王宮という場所には足を踏み入れてはならないんだって。神殿は一応オッケーらしいけど、そっちはそっちで、出来たら入りたくはないねえ、などと言っていた。
目的地であり、住まいである聖獣の園に辿り着いた麒麟くんが外に出られるかな?と思ったけど、相変わらず、特に移動の制約はないらしい。流石にサンファンから出るのは、物理的にはいけるけど、心情的に難しいんじゃないかな、ということだったけど。
王宮側の瘴気がすっきりすると、あからさまに王都の外、具体的に言えば神殿辺りのモヤり感がすっごく気になるようになってきたあたしであります。何せ、あんにゃろ、麒麟くんを排除しようとしましたからね。最早、明確に、あそこにいるのは、敵だ。
チラ見してたら、グレン氏、いや新王太子殿下もそちらを見て、あからさまに嫌そうな顔をしたから、彼にもこのモヤり具合は見えているようだ。
「陛下!ご無事で!!」
軍団の副官さんが、目ざとくあたしたちを見つけて、まずそう叫ぶと、全員一斉に敬礼する。
あれ?人数が半減してるな?ランディさんは横で我関せずの顔してるけど。
「ああ、君たちも、よく無事で。グレンマールに預けたのは、やはり正解だったようだねえ」
気さくに、にこやかに応じる王様。
移動中に聞いたのだけど、なんでも、この王様、先代のこれまた末子で、元々王位を継ぐ予定なんて微塵もなく、若い頃はひたすら他国遍歴して魔法師修行してた人なんだそうだ。神罰でランクが下がってしまったけど、本来は上級魔法師だったらしい。
なので、サンファン人としての自覚自体はあるけど、感性は他の王族方や国民、特に王都の民とは、だいぶんと違う、ということらしい。あと、いまだにどうしても偉そうなポーズが取れないんだよねえ、と本人が苦笑していた。
上の兄弟はどうしたのかと思ったら、二人は病死、一人は兄が病気だからと自分に王太子の座を寄越せと強要しようとして先代の不興を買って蟄居ののち変死、だそうだ。正直、上の兄弟の病死も怪しい話ですね、それ……?まあ、そこらへんは遥か以前に終わった話だ。
道理で、この国の王にしては、まともな方だったわけだ。まあ、色々改革を試みたものの、自国民や国神にとことん足を引っ張られていたようだけれど。
それでも、この方がグレン氏に一軍団を預けるという決定をしてくれていたからこそ、あたしたちが、いえ、麒麟くんが、ここまで辿り着くことができたのだから、慧眼ここにあり、というところかしら。
ともあれ、治癒ではどうにもできない腹ペコをなんとかしないといけないので、ランディさんにお願いして、食べるものを出して頂くことにする。
なお軍団が半減してたのは、瘴気の圧が無くなったから、侵入者を警戒することにして、交代で開けた門を警備することになったからだった。副官さんもいい仕事するねえ。
「おやまあ、今の王様って君かい、グランデール」
王様の顔を見たランディさんが、ちょっとびっくりした顔になった。っていうかサンファン王の名を今なう初めて聞いた気がしますね?知り合いだったのか。
「え?あれ?ランディ師?ええ?年、齢??」
王様のほうは、どうやらランディさんの種族までは知らない勢なようで、推定若い頃に会った彼と変わらない姿に、目をぱちくりさせている。
「まあ積もる話があるかどうかは知らないが、まずは腹を満たすべきだね」
口元で指を立てて、ランディさんがそう言う。食事に関しては、丸三日ほど絶食状態だったそうなので、裏ごしミルクスープから、ということになった。
露天でというのも何なので、軍団勢が持って来ていた天幕を張って、晩御飯だ。
御相伴に預かるあたしたちも、今日は王様たちと同じメニューだ。流石に絶食開けの簡易な食事してる人の前で、肉とか食べるのはちょっと人としてダメだと思うんですよ。
まあ食べてみたら、あたしたちの分には、こっそり一口サイズ弱の可愛い肉団子が仕込まれてましたけど。なんか、手間かけさせちゃったな、済まぬ。
なおカル君は多分足りないから、と、グレン氏を引きずって軍団の晩飯の方を食べに行った。そういう選択もアリなんですよね、うん。でもさ、話し合いに必要な人連れてかないで貰えますかね?あたしと黒鳥じゃ、話の間が持たない気がするんですが?
「いやあ、染みわたりますなあ……」
王ご夫妻も、神官さんがたも、久々の食事を、じっくり味わう構えのようで、まずは安心。
「だが、最早誰もいない王都の中はともかく、外の民は、さぞかし飢えておろう。何とかできぬものか……」
暖かい食事で落ち着いたところで、早速外の心配をする国王様。
王都の中にいた民は、ほぼ漏れなく、蛇に喰われたのだそうだ。そして、神罰の直前に徴発されたという奴隷たちも。
その頃呪詛に倒れていた王には、蛇を、そして蛇と、それとは別の何者かの言いなりになっていた宰相を止めることはできなかった。まあ、宰相も最終的に、飢餓に狂乱した蛇に喰われたそうだけど。別の何者かは、まあ例によってライゼルの手先とかそんなとこらしい。神罰前にさっさと逃げて行方を晦ませたそうだけど。
それどころか、禿山の直接の原因も蛇だった。すべての木を切り倒させ、生き物を追い出し喰らい尽くし、更には切り倒した木まで食ったんだそうだ。で、食いはしたものの、樹木は流石に消化できなくて、腹が膨れたままになってしまい、王宮から動けなくなっていたのだと。思ってたよりアホだな、蛇?
「まあ、我々が喰われる前に、奴に木を食わせるのはそれなりに苦労したんだがね」
わあ、王様の策略だったよ。ですよね、いくら飢えてても、肉じゃない物を食うって、よっぽどだよね……血と酒を振りかけて、それらしく偽装したら食った、とのことだけど。
王様の呪詛が解けた段階で、生き残っていたのは神官達と王夫妻、それと侍従と侍女がそれなりの人数ずつ、だったそうなんだけど、侍従さんと侍女さん達は、ある日突然様子がおかしくなって、そのまま蛇に喰われたり、逃げ出して行方不明になったりしたんだそうで。それで神官たちが慌てて儀式結界を可能な限り強化して、ここまで耐えていたんだそうな。
「正直、わたくしも、いろいろ怪しかったのですけれど、足元が怪しくて歩けずいたのが、幸いしたのですわ。でなければ、自ら死地に走って行ってしまっていたでしょう」
王妃様はたまたま直前に足を痛めていて、殆ど歩けもしなかったので難を逃れたけれど、やはり仕えていた人たちと同時に、走り出して、蛇の口に飛び込みたくなるような、もしくはひたすら走り回りたくなるような、気持ちの悪い感覚に囚われていたそうだ。
うーん、そのパターンは、蛇の仕業とは、あまり考えにくいな。ランガンド神が、ちょっかい出してた気配がする。地味に王に手が出せてない辺りが、それっぽい。
そして、恐らくは、王都の外の民の狂乱っぷりも、奴が原因の可能性が高いのよね……
そういえば、ランガンド神って、何を司る神なんだろう?
《昔から、特にないと聞いておりますわ。国神としてすら、不十分ですのに、何かを司るのは、無理ではないかと》
シエラのシビアな回答。そうか、司るものもなく、国神としても満足に働けず。それでも、国神としての国民への影響力だけは、持っている、と。
そして恐らくは、その本質自体が、怠惰、そして傲慢、なのかな。推測でしかないけれど。
《あの、あの、なんか、今、ですね、メリエン様から、『そいつ創世神に泣きついてその地を無理やりもぎ取った無能だから、処しちゃっていいわよ』って……》
ちょ?!いきなり軽い口調で何言い出しますかねメリエン様?!いやまあ裁定者的にシメないといけないのは確かなんですが、ってうわあ、ランガンド神討滅が、ミッションになってる気配がする?!
っつかですね、今、国神処したら、この国の今後どうするんですかね??!
あれえここでそのミッション来るの?早くない?




