137.守護の玉と神罰の仮面。
バトル回二回目。ええ、終わらぬ。第二形態なんて誰が考えたの?僕だよ!
なおグロ描写がありますので注意。
同時更新中ですので新着からの方は一つ前からどうぞ。
防御的には、全く問題はない。このクラスの結界なら、それこそ二晩くらいは張っておける。それ以上は眠気に負けるから無理だけど。
王様たちと神官さんたち三人は、簡易の儀式魔法で結界を構築して、耐えていたらしい。ええ、それが正攻法なのです。あたしが例外だって自覚くらいは、あります。
ああそうだ、陛下たちに瘴気対抗かけとこう。これはこの神官さん達は覚えてなさそうだし。
言い忘れましたが、実はランディさんは王宮には来ていない。流石に彼の立場でここまで踏み込むのはだめだそうだ。なので、大多数の軍団兵さんと門前で留守番中。
もう一度、今度は無詠唱でライトレーザーをぶち込む。うん、仮面部分は多分狙っても無駄なので、胴の下の口を狙ったんですが、これもあまり、というか、先ほどより明らかに効果がない。こいつ口に入るものは魔力すら食うんですかね、ひょっとして。
「口に魔法を当てるのは禁止かなこれは」
最初に開けた風穴が、地味に塞がりかけたので、そう判定する。
「あの仮面めいた部分は?」
「あれ神罰の楔だから、多分壊れもしないよ」
カル君と黒鳥が、早口でそういう会話をしている。口に出してるということは、全員に聞かせたいってことよね。そしてやはり仮面は狙っちゃダメ、か。
「しかしこのままだとじり貧なんではないですかね?」
ちらりとあたしの方を見て、グレン氏が言う。その途端に、カル君が首を振る。
「いや、その嬢ちゃん魔力量やべーやつだから、そうすぐにじり貧まではいかないはず」
言い方ァ!まあ確かにそのまんまそうだけど!ライトレーザーだってまだひのふの、一杯撃てるけど!物損覚悟で飽和射撃かけるなら三セットくらいは撃ちますけど!……結界張っても貫通しそうだから、今はそれは言いません。
「まあ継戦能力は眠くなるまで、なんで二日が限界じゃないですかね」
なのでシンプルに答えようと、うっかりそう返事をしたら、全員にガン見された。いかん、口が滑った。まあばらしたものはしょうがない。
「ねえ鳥、蛇の持ってる守護の玉の在りかって、判るの?」
気を取り直して、流石に例の仮名はもう使ってないので、あえてぞんざいに呼ぶ。
「んーっと……うげ、仮面の下だ、どうやってそんなところに?」
詳しく聞いたら、仮面の真裏にくっつくように存在しているらしい。白狼さんの玉の感じを思い出しながら探ってみると、なるほど、額に当たる部分に、それっぽい何かがあるな。
あれを持っているから、完全に反転はしていない、でもあれを持ったまま完全に反転してしまうと、多分守護の玉そのものが、汚染されてしまう。そうなると、蛇が自分のものとして切り離してしまった、北領の地が、瘴気汚染される可能性が高い、と。
なんかこれ、蛇がそこに付けた、じゃなく、守護の玉自体が瘴気汚染を避けてそこに退避してきた、って感じがするわね?蛇が神罰の楔を盾にして自分の弱点になるものを守るって思考を、今の段階で出来る気がしない。いや、玉が動くというのも、変な話ではあるけれど。
【あ、そうか。ちょっとまっててね、なんとかするよ】
それまで黙ってついてくるだけだった麒麟くんが、そう告げると、何やら光を発しだした。
途端に無軌道に暴れ始める蛇。どこかでべり、と何かを剥がしとるような音。
【ぎょくをはがしたから、かんぜんにはんてんするよ、きをつけて】
何時の間にやら、麒麟くんの口に、青緑色のぬるっとした雰囲気の玉が咥えられている。これが、碧蛇の玉か。ぬるっとした感じは、多分水属性が強いせいっぽい。
【オオオオオオオオオオオオオオオオオオアアアアアアアアaaaaaaaaaaa】
蛇の叫びが、聞き取れないものに変じていく。それと同時に、神罰の楔たる仮面が、縦真っ二つに割れて、落ちる。
一応守護するもの、またはサンファンに由来する地を統べる者だったからこそ、神罰の楔が付いたのであって、最早、蛇はただの魔物であり、神罰で縛るようなモノではない、ということらしい。かといって割れた仮面が消えるわけでもないのは、少し、謎。
変化はまだ続いている。白かった、または別の色を持っていた部分が全て塗りつぶされるように、黒く染まる。これは、実際に起こっているのは過剰レベルの瘴気の集積。そう、基本的に魔物が黒く見えるのは、正負の差があれど、あたしの髪や、マグナスレイン様の鱗が魔力に染まって黒くなるのと、同じ現象だ。なので、実は、闇属性の攻撃魔法が仮にあったとしたら、瘴気で染まった魔物には、ちゃんと通用する。まあ人間には闇攻撃魔法なんて、あったとしてもまず使えないんだけどね!
仮面の落ちた後は、黒く虚無が渦巻くのみの、やっぱり無貌の蛇。まあ神罰解除だったら顔は戻ったんだろうけど、これ解除じゃないからなー。仮面、割れたけど消えてないものね。
ぶちぶちと、肉をちぎるような、嫌な音がする。見ると、胴の部分から、無数の人間や獣の、手足。うわあグロい。いや、顔が出てこないだけマ……うえ、口の周囲に人の顔がああああ!
「うっわグロ……」
黒鳥がげっそりした顔で身も蓋もない感想を述べている。
「人食った後の魔物ってだいたいこうなるんだけど、なんでだろうな……」
こちらは、いわば魔物を討伐するプロだったカル君が、極めて平静な調子で感想を述べる。そうか、人食いだとだいたいこうなるんだ……
そういや海のは魚ばっかりで人のいるところに到達してなかったし、転移スタンピードの方は、あたしは雑魚しか見ていない。ヘッセンの場合は、人が『喰われた』被害はなかった。
……うん、初見の魔物だね!と結論付けて、取り合えずグロさへの拒否感、嫌悪感は一旦抑え込む。あれは討伐対象だ、そんなことでひるんじゃいられない。ほら結界追加!魔物化が完全に終わったらパワーアップって、まあ第二形態の方が強いのは、お約束ね!
「君たち、よく平気だね」
グレン氏が、口元を手で押さえつつ、あたしたちを見る。王様たち御一行様は、その場にへたり込んでいる。漏らしてないならまあセーフだろう。
「そりゃ俺はこういうのは成人以降散々対応してたし……」
「怯む前に討伐しないとこっちが死ぬでしょ?死ぬ気はないんで!」
同時に答えたら、全員があたしを見た。待て!いまそう言う場合じゃない!いやまあ結界二枚分くらい強化したから、まだ抜かれる気はしないけど!
「まあちょっと相手に気合が入りすぎてるんで、ちょっと反対側の設備、壊れるようなのぶっぱなしちゃってもいいですか」
何があるかまでは、把握していない。まあ建物か禿山かどっちかだろう。
「あ、ああ、建物の損壊は不問だ。どうせもう、この場所は使わなくなるだろうからね」
何を計画しているものか、国王様がそのように随分あっさりと許可をくれる。
「使わないにしても、歴史的建造物として置いておくの自体はありだとおもうんですよ?〈結界〉/ 2:1」
瘴気汚染とか残すつもりも、あんまりないですし。
とはいえ許可は許可だ。念のためまず結界を再展開する。こちら側に二枚、蛇の背後に一枚。
「では久々に行きます。〈付加:マルチロック〉/〈ライトレーザー〉ターゲット:蛇」
魔法陣が十個ばかり、あたしの前に展開される。なお背後に展開も可能だったりするけど、流石にどこのゲートオブなんとかだ、になるので前です前。まあ出てくるのは光のレーザーラインだけなんですがね!
一斉射されたライトレーザーが、蛇の頭から胴体、尻尾の辺りまでまんべんなく穴を開ける。
なんてこった、これでもまだ吹き飛ばないっていうか生きてるよこいつ!?
うわあ酷い、食った人たちの魂だか存在だかを盾にしやがったのかこいつ!!
そして、更に犠牲者たちの手足や頭が生えてきて、混迷を増す、蛇だったものの姿。
だめだ、これ以上ライトレーザーぶちかますと、魂の儀性が増えすぎて、裁定者の方の何かが暴走する気がする!どうしようこれ?!
ただの第二形態ではなかった。次回でバトル回は流石に終わるよ!