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135.虚ろなる都。

探索回。


同時更新中ですので新着からの方は一つ前からどうぞ。

「気のせいかな、結構な瘴気が見える気がするのだが」

 王都を見据えたグレン氏が眉を顰める。あれ、この人瘴気とか見えるんだ。ああ、母親が巫女系の才を持ってる可能性があるんだから、子にもあっておかしくはないのか。あれ割と血筋で継がれるらしいし。


「見えますね。下手したら、何かが魔物化しているレベルで」

 正直に通告する。まあなんかいたらダメなものがいるのは、ほぼ確定だしなあ。


「魔物、か……王都になあ……」

 呻くように呟く副官さん。思い入れがあるなしと、現実がこうであることとは、別の話だということだろうか。


「そういえば、蛇って何処にいるんだっけ。自領?王都?」

 ふと思い出したので、丁度いいやと黒鳥に聞いてみる。


「ん?あいつは基本的に王都から動かないから、いるとすれば、そこだと……?」

 あれ、自領シカトか。ああ、そういえば蛇さんって領地は水さえ廻ってりゃいいだろ論者でしたっけね……

 そう思っていたら、答えてくれた黒鳥が、なんか物凄く嫌そうな顔になった。


「マジかよ……あいつ、堕ちてる……?」

 あいつ、とは恐らく、先ほど聞いた蛇の事だろう。で、堕ちてるとは、つまり。

 魔物化したのは、蛇?いや待て、神罰の楔がある状態で、魔物化って可能なの?


《恐らく完全に魔物化するのは不可能です。なので、現在は半魔物化、という割とえぐい状態ですかね?だとしたら、正気を喪っていそうな気がしますわね?》

 シエラから嫌な情報。アスガイアの時と違って、この国は、何処にいても神罰の神力が感じられるから、回答もスムーズだわね。

 あれ、それでもシエラにあたしのしたことが見えなかったって、あの裁定者の力って、何処から来ているの?


《それが謎なんですよ、裁定とか裁判、ついでに正義って、本来なら、古来のライゼリオン神の権能なんですよね。かといって、あの国絡みの神力は感じませんし……》

 ああ、そう言うことか。それならまあ、ってあれ?シエラ、貴方、以前のランディさんの話は、覚えていない?今ライゼル国にいるのが、ライゼリオン神ではなく、彼を乗っ取った、創世神だという話。


《え?あ、ああ!いけません、すっかり忘れていた、というか、衝撃で信じられていなかった、と申しますか……考慮から、抜けていましたわ》

 ああ、そうね、確かにあの内容は、現地に住む民には、ちょっと刺激が強すぎた気はするわね。

 ということはだ。この裁定者の称号を介して、本物のライゼリオン神がどこかから、影響を及ぼしている可能性が、僅かだけど、あるのね。まあ本体を実質喪ってる状態だから、大したことはできないのが現状なのではないかしら。ああ、この情報も一旦秘匿ね……


 どこかから、そうだとも、くやしいねえ、という声が聞こえた気がしないでもないけど、うん、気のせいだ。今は、そういうことに、しておく。


 結局人の気配はないままなので、市壁を無理やり乗り越えて、中から門を開けてもらうことになった。

 自分達は瘴気に耐性があるから、と立候補した黒鳥とカル君のコンビが、思いのほか素早く壁上りを披露している。

 程なくして、あっさりと門が内側から開く。戻ってきた二人にも、特に異常はないので、一安心だ。


 念のため、全員に〈ライトブレス〉と〈瘴気抵抗強化〉を掛けてから、再び走鳥に乗って、門をくぐる。まあ例によって自分には掛けられないんですがね。そうは言っても、あたし自身は属性力の守りがあるんで、瘴気は基本的に平気だから、特に問題はない。流石にこの人数に掛けると、魔力がちょびっと減りますね、抵抗強化。中級だからしょうがないか。

 都の中央を、真っすぐに伸びる、割合広い道路、これが都の中心となる道。真っすぐ進むと、円周状にめぐるお濠に阻まれる。そこから一度左右のどちらかに回り込んで濠を渡ってから、もう一度中央に戻る、それを二度繰り返してようやく城門に辿り着く仕組みだそうだ。

 お濠の手前までは、これも円を描くように配置された道があり、放射線上の道路によって、繋がれている。王宮の後背には山があって、そちら側には、市街地はないのだけど……

 元々森林に覆われていたという山も、王宮の中からも、樹木の姿が、綺麗さっぱり消えていて、王宮はともかく、山は無残な禿山と化している。元の姿を知っているらしい人たちが、一斉にうわあ、という顔になった。

 そもそもなんで木々が喪われたのかと思ったら、生き残ってる獲物が隠れられないように、と全部引っこ抜いた、らしい。何その後先考えない殲滅主義?!食い尽くした後の事、微塵も考えてないっていうの?

 でも、実際に此処に至るまでに遭遇した人々は、結構そんな雰囲気ではあった、か。理性が致命的に足りていないというか、狂奔、とでも言えばいいのか。

 そして、そんな人々が、何故か近付こうとしない、この王都。

 そういえば、ここの地名は、ファンドゥーサ、だったか。この場所にも、ランガンド神の名は、使われていない。まあこの神がこの地に入ったほうが街ができるより遅かったから、だけど。


 外から検知した通り、路上にも、家々の窓や商店にも、人の姿は全くない。

 数軒の店や家を捜索した者たちも、屋内はもぬけの空で、人はおろか、鼠一匹出てこないという。そして、何処を探しても、恐らくだけれど、ひとかけらの食料も、ないという。

 商店を覗いても、確かに食料を扱っていたらしき場所には、何一つ残されてはいないけれど、それ以外の、日用品や、衣料や、装身具、そういったものの店は、普通に商品が残されたまま、殆ど乱れることもなく放置されて、薄っすらと埃を被っている。


 瘴気の中心は、王宮にある。まあ進むしか、ないようだ。

 今の所は、大丈夫。土超級魔法の主は、この場所には、何故か、居ない。というより、あれ、ランガンド神の差し金なんだよなあ、多分。神力ではないけど、彼らしき思考?を感じたのよね。

 なので、流石に彼自身が放ったのじゃあなかったにしても、恐らく術者がいるのは、王都から少し離れた、神殿のほうじゃないかな。


 王宮の門へは、あっさりと辿り着いた。流石にここからは、走鳥さん達は入っていけない。屋内移動になりますからね。

 それに、軍団の半数以上も、此処に残すことになる。流石に大人数で行く場所ではないし、そもそも王宮の中にも殆ど人の気配がないのよねえ。


 瘴気の中心にほど近い所に、数人まだ居るようではあるのだけど、それ以外は、ここも、空っぽだ。人も、生き物も、食料も、ない。逆にいえば、それ以外のものは、多分だけど、だいたいあるのよね。なんでこんなことになっているんだろう?

 食べる事にだけ、極度に思考が偏るなんて、いくら飢餓に近い状況だったとしても、あるのかしら?いや、長期間絶食の時は確かに食べ物の事を考えがちにはなる、か……

 だとしても、食べ物以外に一切見向きもしない状況は、なんか変だなあ。というより、此処まできれいさっぱり食料になるものが消失してる方が、おかしいんだけど。


「王都の民が消えた状況で、食える物も何も残ってないって変だよなあ」

 カル君が計算が合わなくね?と首を捻っている。


「消える前の住人の状況がどうであったかにもよりますが、流石に他地域から持ち込まれた量と、計算が合いそうにありませんね」

 グレン氏も、そう言って眉を顰める。


「……それなんだがな、どうも、蛇の仕業というか、奴が、人も含めて、あらかた食った、かもしれない」

 黒鳥が、一瞬息を呑むような、そんな気配のあと、そう言いだした。


「蛇が?なんでまた、そんな」

 カル君がそう聞き返す。そう言いつつ、なんかカル君自身も、何かを察知したような顔だ。


「なんかここまで来たら、微妙に伝わってくるんだ。足りない。食事を寄越せ、みたいな感情」

 顔を顰めながら、そう答える黒鳥。蛇が守護聖獣の資格を喪っているにも関わらず、そういったものを感知することはできるのか。ってあ、これか。獣の飢餓感に近い奴が、感じ取れた。あたしとは相性が根本的に悪い感じで、それ以上は判らないけど。


 瘴気の気配を追って、装飾の多い、一見豪奢なのに繊細で、何処か冷ややかな空気の王宮の中を進んでいく。事前に察知していた通り、誰にも、出会わない。

気が付けば、如何にも後宮、と思われるエリアに、近付いていた。守護聖獣の為の園も、すぐそこにある、のだけど。


 瘴気の源、それも、そこにあった。

次回は久々にバトル回だよ!

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― 新着の感想 ―
境界と裁定、どちらも「定める·統める」という性質だから親和性はあるな······?
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