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130.王族の端っこの人。

サブタイが酷い。(よくあること

「いや、何もかも、本当に有難うございます。私はグレンマール・アイオニアル。庶生なので母方の母称を名乗っておりますが、王の末子、ということになるようです。現在はこの第一軍の軍団長を拝命しております。只、今ここにいるのは第二団のみですが」


 ランディさんとカル君が、動ける人たちも使って、例の野戦スープを全員に行き渡らせている間に、こちらは軍団長さんとお話し合いだ。相手の衰弱が酷いので、こっそり上位治癒をかける。流石に賦活までは……いや、瘴気の残滓に侵されていた期間が長いな、話し合いの結果が良好なら、賦活も視野にいれておくべきね。

 で、他の人より明らかに弱っているグレン氏には、野戦スープを更にくたくたになるまで煮込んで、裏ごししてからミルク風味にして、更にとろみをつけたものをお出ししておく。じゃないと咽そうで、怖い。

 なんでも指揮ばかりであまり動かないから、と、自分の食事を真っ先に削ったらしくて、この人が一番げっそりしてるんですよ。指揮官は頭を動かすのも仕事なんだから、カロリー、せめて糖分はちゃんと摂るべきですよ?そもそも呪詛から解放されたばかりで、体調も相当悪かったのに、結構な強行軍でここまで来たらしいし。

 でもそういえば、斥候の人たちが一番動きが良かったな。最悪の事態になっても、連絡だけは届くように、そういう配分なのか。

 そして母方の姓、と言わず母称、と言ったので、どうやらお母さんは平民に姓のない所の人?


(彼の母さんは、レガリアーナの宿屋のお姉さんだったらしいよ。どこでどう知り合ったのか、うちの国内じゃ誰も知らないらしいんだけど)

 黒鳥が珍しく念話で教えてくれる。成程?そしてどうも、口ぶりからすると、これはカル君が持っていた情報ね?そして金髪は母親似の予感。


「いえ、お構いなく。こちらも思惑があってのことです」

 すっぱり最初にこちらにも理由があることをばらす。


「思惑、ですか……まあ、そうですよね。カル君、は勿論、貴方も外国の方だ。神罰を受けた我々に、本来なら用などないはずですね」

 穏やかに応じながら、スープをゆっくりと口に運ぶグレン氏。自分の弱り加減をちゃんと把握できているようで、好感度がちょっと上がる。うん、患者はこうあってほしい。カル君とか最初の体調悪い時、無茶しまくろうとしたからなあ!


「ああ、暖かさと滋養が染みわたりますね……」

 にっこりと笑う姿は、ちょっと子供っぽさが微かに見える。白髪と痩せた感じでそうは見えないけど、多分彼、カル君より大分年下なのでは?いや彼はがっつり見た目年齢詐欺だけどもさ。

 なお、我々は穏やかに会話と食事をしているけど、背後の軍団は結構大変なことになっている。いや、混乱はしていないし暴れる人なんて勿論いないんだけど、なんか号泣してる人がそれなりに、ですね。そんなにひもじかったか……昨夜からの匂いテロ、マジすまんかった。


 食事が終わったところで、まずグレン氏にもう一度治癒。あとは、十数人程度ずつにまとまって貰って、マルチロックで雑にばばばっと治癒を端からかけていく。魔力の減りは、いつも通り殆ど減ってない感、だ。ひょっとして、自然回復量の方が多いんじゃないのこれ?

 そして最後に、天幕の二つ張られた場所へ案内された。

 感染症の人が数人、あと別の天幕に、衰弱の酷い人が十数人。前者には〈回復〉、後者には〈上位治癒〉。この二つの魔法はマルチロック非対象なので、一人ずつに、様子を見ながら。


「感染症の人には水と、確か熱さましは使ってないから今の荷物にあったよね、それを。衰弱組は裏ごしスープから食べて貰って大丈夫」

 後ろに待機してた、感染症には縁のない一応聖獣な黒鳥に感染症組を、衰弱だけ組は彼らの同僚さんにそれぞれ世話を任せて、今度はレイクさんの所に戻る。


「麒麟くんー、お待たせ、出番よー」

 待機中は、レイクさんの毛皮にもふっと頭まで埋もれて、耳だけ出していた麒麟くんが、あたしの声掛けでぴょこん!と飛び出す。


【はーい!おひろめー!】

 出番だ!と嬉しそうな麒麟くんが、かわいい。



「なんと……!麒麟様……?!」

 グレン氏が、呆然としている。流石にこれは、誰も想定してなかったようね。

 椅子から転げるように降りると、目線を麒麟くんに合わせてから、平伏するグレン氏。おおうそこまでするか、そうか。軍団勢も一斉に平伏した。

 なんか、思ってたんと、違う。守護聖獣ナメてかかる国民性だって聞いてた気がするんですけど。いや、グレン氏はレガリアーナ育ちらしいから、まあまだ判らなくはないんだけど。でもまあ、こんな動きになるなら、食事が先で正解だったわね。


【えっと、かおは、あげて?ぼくはまだ、ふかんぜんなので、れいをとられるほどでも、ないから】

 戸惑いながらも、麒麟くんがそう応じて、グレン氏が顔を上げ、後ろ手に合図をする。

 軍団の皆は、平伏姿勢から勢いよく、でも静かに立ち上がると、一斉に敬礼して、直立姿勢を取った。うへえ、軍隊とか素人だけど、すごく練度ってやつが高いんじゃないかこの集団?


 当然その後の話し合いは、完全にこちらのペースで進んだ。まあ虎の子ならぬ麒麟くんがこちらにべったりですからね。なお病人介護を申しつけた結果、名乗り損ねた黒鳥は、このまま謎の少年としてバックレる気満々のようです。まあ現状だと、守護を続けるのは難しい可能性の方が高いから、しょうがないかな。


 数日間は、この場所で静養と訓練を行って、一旦体制を整えてから王都に戻る、ということで話はまとまった。流石に限界までへろへろ集団になってたから、このまま進軍したら、落伍者が出まくる。それは避けたい。この軍団、現状この国ではガチの精鋭だから、こちら側にいてくれる以上、減らすわけにはいかない。この国の立て直しを図るなら、彼らは、一人たりとも、欠きたくない。そんな所まで、外国人であるあたしたちは面倒見れないからね!

 何せ滞留長期化を見越して、畑まで作ってたよこの人たち。しかも、割とちゃんとした奴。

 まあ収穫にはまだ至ってないんだけどね。植えてあったのは多分小蕪と、蔓を棒に誘引させた何かの豆、蕪は頭を出し始めたあたり、豆は花が咲き終わる頃で、豆を莢で若どりするのであれば出発時にちょうど両方収穫できるかな、といったところ?あれでも春先からここにいたのか、この人たち?と思ったら、なんかここは元々白狼エリアにあった駐屯地で、ここ在留の部隊が作ってた畑だそうだ。山羊も数頭飼っていたそうだけど、流石に食べるものが無くなった時にスープにされてしまったそうな。元々そういう時の為の山羊だったそうなので、役目を全うしたということのようだ。

 その在留部隊も、王都と連絡が取れなくなった時点で、この軍団に合流しているんだそう。


「それにしてもカル君は、最後に会った時と、随分雰囲気が違うね。十年近く、見た目の変わらない人だと思ってたのに」

 夕食も共にしたグレン氏の、素朴そうな疑問。

 カル君がレガリアーナに行ったときに定宿にしていた宿屋の息子さんとして知り合ったそうなんで、派手な人だなあというのが第一印象だった、という。


「んー?ああ、そういや髪質もちょっと柔くなったからな、伸びただけじゃなく」

 そう言われてみると、以前の記憶にある王子様時代は、髪質にもなんていうか、金属光沢感っていうのか、鱗と同じような、謎のキラキラしさがあったような気はする。今は、ごく普通の金髪って感じ。


「そっちこそ、酷い白髪だな?俺より老けて見えるとか、流石にちょっとえぐい」

 カル君のほうは、元気な頃のグレン氏を知っているせいか、軽い口調で言いながらも、軽く眉を寄せて、そしてちらりとこちらを見る。


「この髪はなんか呪詛でこうなったんだよ。私以外の人はむしろ全体に黒っぽくなっていったのにね」

 不思議そうに首を傾げて、グレン氏が言う。あれでもそういえば、この人、神罰は受けてないわね?レガリアーナ育ちで、サンファン人としての自覚や帰属意識がないのかな、多分。呪詛の方はサンファン国内にいる王家の血筋に遍くかかるタイプだったから、この人も受けてしまったという訳か。庶子であろうと、血筋は血筋、とは厄介な呪詛だったのね。いやほんと、術者死亡で消えるタイプで良かったわね。

 呪詛の影響の、彼の肌のシミはある程度取り除けたけど、完全に消せてないし、やっぱこれは賦活かけるしかないわねえ。

王都にもう一人、最初から認識されてた方の人が生き残ってはいるんだけども。

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