123.いざ、山から出発!
実質フェンリルさん回。
同時更新中ですので新着からの方は一つ前からどうぞ。
そんな話をしていて、寝る時間は遅くなったけど、翌日は予定通りの時間にランディさんに起こされた。ああうん、真龍って、そうそう寝ないんでしたね……
なお今回の寝床は白狼さんの塒で雑魚寝でした。敷物と毛布だけだったんで、ちょっとだけ体が固まってる感がないでもない。いやこれ寝不足か?
「床が固めだったし、ちょっと体操でもしようか」
というランディさんの号令で、なんかよく判らない感じの準備体操的なものを覚えさせられた。
まあ良く判らないと言いつつ、理には適ってる感じの運動だなあ、とは思う。なんだか、小学校とかで習いそうな感じ。うん、なんかランディさんが鼻歌で謎の旋律を歌ってて、それに合わせて習った動きを繰り返す、という感じだったんですけど。聞いたことない旋律だったので、あたしの元世界にはなかった何かだろう。いやあたし小学校も自分や家族の病気であんまり通えてなくて、ほぼ病院内での通信教育だったから、運動系はとんと疎いのですけども。
《あー、ひょっとして、自称勇者様式らじお体操とかいうやつ、では……動きの描写に何となく、心当たりが……》
また自称勇者様式か!まあランディさんだから、さもありなん、だ。
でもらじおってなんだろね。ラジオアイソトープの略、ではなさそうだけど?
「なんかこれ何処かで記憶に引っかかる動きなんだけど、なんだっけな……」
黒鳥も描写自体の記憶はあるようで、首を傾げている。文章で読んだことはあっても、動きの想像まではしてなかった感じなのかな。化身こそ人型だけど、本質は鳥だしね。
ともあれ朝食前の軽い運動としては、悪くない感じではあったので、全員で何となく納得した感じで朝ごはんを食べて、いよいよ出発となりました。
まああたしと麒麟くんとちび白狼さんは山麓までレイクさんに乗せてもらうんだけどね!
ちび白狼さん本狼の意識は、まだごく弱くて、本能に準じた行動しかできないそうで、実体がないなりに、白狼さんが誘導して世話をしていたのだという。ふこふこの子狼、かわいいけど、モフるのは一応自重しているあたしです。モフは昨日ジャッキーで堪能したし……
といってもジャッキーは気持ちよさそうにはするけど、麒麟くんとかミモザみたいに溶けたみたいにはならないのよね。随分と理性が勝っている感じ。性分かなあ。
【うさぎのおにーちゃんすごかったねえ。あんなにきもちいいのにしゃきっとしてて】
おかげですっかり麒麟くんがジャッキーを兄貴分認識してしまっている。守護聖獣のアニキがジャッカロープ幼体とはいえ子兎。これっていいんだろうか?
【全力で降りてやるから、お主らも乗るがいい】
レイクさんがそう言うので、ランディさんとカル君と黒鳥もレイクさんの背の上に。
うん、レイクさん、本当にでっかいよね。
【ああ、ちと待ちやれ。あれを持って行かねば】
白狼さんが動かしたのか、子狼がぴょんとレイクさんの耳元に跳ねてそう言う。
【む、ああ、あれか……名残惜しいが、致し方ない】
そう言うや、レイクさんが前脚を白狼さんの遺体に向けて一閃。その途端、毛皮が張り付いて干からびていた遺体が瞬時に粉々になった。魔力が僅かに動いたのは確かだけど、ちょっと半端ない破壊力じゃないですかね?いや、違うな?元々、そうなるように、できている?
粉々になって小さな山のようになった遺骸に顔を突っ込んで、何かを探し出して咥え取るレイクさん。あまり大きくないもののようだけれど。
ぽい、と器用に舌先で放り上げられたそれは、さっきまで子狼を抱いていたあたしの膝の上にぽてん、と乗っかった。コントロール抜群っすね?
白くて僅かに楕円がかった、丸い物体、重さ的には石だろう。ああ、玉、といえばいいのだろうか。ええと、羊脂玉、だったかしら。あれが、近い。写真でしか見たことないけど。
「あー、守護の玉か。自分の以外を目の当たりにする機会があるなんて、思わなかった」
黒鳥がそう呟く。つまり君も持ってはいるのか。
【襲撃してきた奴ら、どうもこれを狙っていた節がある。それで、慌てて呑み込んでおったのじゃが……そうじゃな、鳥か娘御に持っていてもらいたいが】
子狼さんに最終的には引継ぎたいけど、自我が定まっていない間は持つことができないのだそうだ。
「カル君の収納にしまうんじゃだめかな?」
黒鳥が安易な案を出す。ただ、それ自体は合理的な気もする。
【それだと妾がアクセスできんから駄目じゃ。普通に鞄かポケットに入れておいてくれればよい。そう簡単に壊れるものでもない故な】
なるほど、玉を利用して、意識を保っているのか。そう言われてみると、確かに繋がりを感じられる。格納魔法は遮蔽空間になるらしいから、確かに選択不可ですね。
黒鳥だと本人の玉と干渉して良くない、という感じがしたので、あたしが持つことにした。
シルマック君の巣箱と同じように、アスガイアに入る前に買って装備しているちょっと大きめのウェストバッグに入れる。背の鞄のほうには大事なものはあまり入れてない。あんまり見ないけど、スリとかもいるそうなんで、見えない、咄嗟に手の届かない所に大事なものは入れておかない。シルマック君の巣箱はハルマナートではすぐ手に入る品だけど、他国ではそうじゃないらしくてね、大事な物枠なのよ。
銀の大狼が、急峻な山肌を一気に駆け降りていく。流石に風圧とかやばいので、ランディさんが補助的に魔法を使ってあたしたちを保護してくれている。でないと吹っ飛びそうです、主に黒鳥が。実は鳥なせいか、見た目より大分軽いんだわ、こいつ。
それでも意外なほどに、背は揺れない。どういう走り方をしてるんだろう、これ。
「直接脚を地に付けていないようだが、器用な走り方をするねえ」
ランディさんは状況を観察しているのか、そういう指摘をしている。
【足場をいちいち探すなど、時間が掛かって致し方ないからな。足場は、作るもんさ】
魔力で足場を作りながらすっ飛んでいるらしい。流石神狼、というべきだろうか。
【天狼族は本来空を駆けるというが、その応用なのかえ】
白狼さんが質問している。前半も伝聞形だから、旦那さんに聞いたのかな?
【そうだな、この世界に囚われた折に、その能力自体は失ってしもうた故、今は当時のやりようを、理屈を捏ねながらある程度再現して走っておるが、面倒な事よ】
いささか不機嫌そうなレイクさんの声。囚われた、か。無理やり呼び出されて拉致されたのと、出られないという意味では本質的には変わらないのね。
【まあ、弟が無理やり召喚されるところに割り込んで、召喚者を破滅させてやったから、直接の報復は既に済んでおるがね】
なんとまあ、レイクさんが飛び込んだこと自体が召喚者の破滅、ざまぁ完了済みってか。
でもそれって、レイクさんの人生擲ってまで、することなのかしら。ああ、そうか、それが狼の家族愛?
「直接の、か。間接的にはまだやらかす気があると」
ランディさんが不穏な指摘。まあそういう可能性は、レイクさんの性格的には充分ありそうだけれど。
【当然だとも!こんなアホな世界設計をした馬鹿は、可能ならこの牙で引き裂いてやりたいさ】
わあ、予想以上にガチでお怒りでした。いやまあ、当然か……
フェンリルって、神喰らいの神狼、っていうくらいだし。あれ?つまり、レイクさん、どこかで神喰らい、実行済みだということ?
(小娘、気付いたな?まあ喰ったといっても、やらかしを積み重ねて堕落判定された元神、に近いモノで、ほんの小物さ。我がもとの一族の長ほどの大立ち回りをしたでもなし、そもそも我らは故もなく人や神を喰らうほど獣じみてもおらんから、安心おし)
笑いを含んだ声のレイクさんの念話。なるほど、悪い子がお仕置きで食われた、把握。
そう応えたら、ははは、なるほどそうだな、悪い子か!と楽しそうな返事がきた。
山を下りきったところで、レイクさんとは一旦お別れだ。
森のまだ鬱蒼とした部分で、レイクさんが一時的に張り巡らせた結界よりは、だいぶ内側。
ここから出来るだけ王都に近い方角から、一気に王都を目指す方針です。
(ああそうだ、小娘よ。我が名はシルバーレイクだ。弟の子を救ってくれた礼に、覚えておけ。まあ当分お主が召喚することなどできんだろうがな)
別れ際に、笑い声と共に、レイクさんの本名を聞かされました。フェンリルとか絶対超級じゃないですか!呼べる日、来るんだろうか?
ラジオ放送は多分歴史の教科書にちらっと載ってるくらいではないか<カーラさんの元世界。