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118.白狼の塒にて。

やっと第一目的地に到達、それでも実は当初予定より早い。

 レイクさんの案内で、山を登る。案内というか、あたしと麒麟くんはレイクさんの背中の上だ。

 いや、割と半端なく道が険しくてですね。


【さらさらしてるー】

 そうね、レイクさんの毛皮はさらさら系ね。アンダーコートはあるんだけど、緻密過ぎてそこには埋まらない。へこみはするけど。あたしはサラサラの上毛に下半身埋まって、クッション状のアンダーコートの上に乗っかっている感じになっている。なお麒麟くんは猫でいうところの香箱座りをしていて、首しか出てない。大変かわいい。


【麒麟というのは、もう少し知性が高い存在だったように記憶しておるが】

 不思議そうなレイクさんの声。


「ちょっと色々あってねえ。本来の代替わりより五十年は早いうえに、術式失敗しちゃってて」

 黒鳥がさらっと最低限の事実だけ述べている。

 身体は小柄だけど、人間じゃないせいか、山道というより崖に近いような場所も、平然と進んでいる。たまに後ろをついてくるカル君を気にしてるから、一応人間が通りやすい場所を選んでくれてはいるようだ。それでもカル君はちょっときつそうな感じ。でも乗せてとは言わないんだよねえ、意地っ張りめ。

 なおランディさんは風を纏って宙に浮いた状態で付いてきている。風魔法の応用というか、龍の王族の人たちが空を飛ぶ時と同じような術式ではあるらしい。人間のあたしには使えそうに……ああ使えないこともないわね?風属性はあまり多いほうじゃないから、あたしがやろうとすると、どっちかというと魔力ごり押しコースになりそうだけど。それだとしたらマグナスレイン様を参考にするほうがいいかなあ。あの方、風属性なくて魔力のゴリ押しだけで飛んでるそうだから。

 ってなんであたし、生身で空を飛ぶ方法の検討なんかしてるんだ。違うそうじゃない。生身で空飛ぶ巫女さんとか、ただでさえシューティングマスターなんて称号持ってるんだから、衣装が赤白固定になりそうでちょっと嫌だ。いやだから何の話よ、そうじゃなくてですね!?


《飛ぶのは無茶ですが、緊急回避的に浮く技術があると、いいかもしれませんねえ》

 シエラがそんな事を言い出した。確かに浮遊できるだけでも、危険回避には結構役に立ちそう、ってのは判る。この世界に呼び出された途端に空から落っこちた身としては、ちょっと気になるわね。


 ぴい?


 シルマック君が浮くとか飛ぶとかいう思考に反応したのか、ポケットから顔だけ出してきたので、頭を軽く撫でてやる。毎日寝る前に遊んでモフってしているけど、いつもかわいいなあ!

 あーでもそろそろミモザにも会いたい。ジャッキーはこないだ足捻った時に来てもらったけど、ミモザは御無沙汰気味だ。少し間が空いたから、そろそろちゃんと召喚陣書いて呼ばないとだめかなあ。子兎って結構早く大きくなるよねえ。


 うん、運ばれてるだけで、ちょっと暇といえば暇なんだよね。

 流石に狼の背中の上で魔法式の改良の検討とかは無理です。意外と背中が広くて、落ちたりする心配はないけど、割と、揺れる。


【人を乗せるように出来ておらぬ故、乗り心地は勘弁してくれよ】

 レイクさんが笑いを含んだ声でそんな風に言ってくれる。


「いえ、ちょっと揺れるくらいなら、全然平気です。寝落ち防止にもなりますし」

 そう返事したら、わはは、と笑われた。そしてその声に、カル君がびっくりした顔になっている。


「フェンリルの旦那、笑うんだ……」

 え、笑ったとこ見たこと……そういえばあまりないな?まあ以前会った時はスタンピードの直後で、笑うどころじゃなかったせいもあるけれど。


【我とて感情のある生き物故な。機嫌が良ければ笑いもするさ、さあ、もう着くぞ……む?】

 カル君に軽い調子で返事をしていたレイクさんの雰囲気が変わる。何か、あった?


【妙だ、気配が薄い】

 すっと警戒の雰囲気を高め、音もなく塒だという山腹の洞穴に近付くレイクさん。

 あれ、周囲に白骨が散らばっている?人間のそれ、らしき頭蓋骨が、三つほど。


「侵入者があったようだが、ただ、まあまあ古いね?」

 さっと検分したランディさんがそう結論を付ける。半年から一年近くは経っているとのこと。


「一年、だと麒麟をやられた時と同じころだし、半年なら……俺に儀式魔法が降ってきたとき、か?」

 眉を寄せて黒鳥が呟く。後者だとすると、白狼は。


【おおかみ、へんだ。いるのに、いないような】

 麒麟くんが首を傾げる。いるのに、いない?


【何にせよ、変事があったことに相違はあるまい、踏み込むが、中がちと狭い。骨のない場所に降りてくれぬか】

 レイクさんがそう言うので、入り口に近い側に降りる。風魔法の気配がふわっと寄ってきて身体を支えてくれたのはランディさんの方からだ。そう言うこともできるのか、流石真龍?

 麒麟くんの方はぴょこん、と事も無げに飛び降りていた。意外と野性味あるな?


【おおかみー、いますかー】

 とことこと麒麟くんが警戒心ゼロで洞穴に入っていくので、皆で追いかける。身体の大きなレイクさんが、どうにか先行して、奥を覗くと、尻尾の先で麒麟くんを止めた。あ、ふさっとしてる。いいな、いやそうじゃない。


 麒麟くんを軽く抱えるようにしてその場に留めながら、レイクさんの尻尾の隙間から、奥を覗き見る。


 そこにあったのは、明らかに命を失った、大きな白い狼の死体。からからに乾いていて、毛皮が骨にへばりついている。そしてその首と、それに腹の辺りには、大きな傷跡。

 だけど、そこには別のものもいた。

 腹の傷跡に埋もれるように、ぴょこりと飛びだした白い耳。痩せてはいるけど、まだ子供の狼。うう、と小さく唸っているのは、威嚇だろうか?


【あれ、おおかみ、ちいさくなっちゃった?】

 麒麟くんは、この小さい方を白狼と認識している様子。


【ああ、麒麟よ、済まない。妾が不甲斐なかったばかりに】

 突然、低い声が響く。成程、女性としてはかなりの低音、でもどう聞いても女性の声よこれ?黒鳥、鳥の癖に耳がポンコツ疑惑発生。


【おおかみー、どしたの?だいじょうぶ?】

 麒麟くんは心配そうに声をかけている。


【正直、大丈夫ではないな。今は運よく生き残った我が子に意識を移して辛うじて存在しているような有様よ。済まぬが、この子に何か食えるものをくれぬか。我が身も喰らい尽くしてしまい、それでもなお自力で狩りをできるところまでは到底育っておらぬ】

 成程、腹側の傷は、子に喰わせた結果、なのか……


 ランディさんが無言で生肉らしきものを取り出すと、子狼の前にどん、と置いた。


「ヒポグリフの肉だから、滋養はあるだろう」

 ヒポグリフってレア魔獣じゃなかったですっけ?と、首を傾げていたら、君たちも試食どうぞ、と、一皿ずつ馬刺しのようなものがふるまわれました。馬じゃないからえっと、ヒポ刺し?

 肉ってこの世界でも生食して大丈夫なもんなのか、と思ったけど、まあランディさんだから食えないものは出さないだろう、と、添えられていたソースをつけて実食。うん、滋味。というか赤身のお肉のくせして、ほんのり甘みがあって美味しいわね?


「ヒポ肉とか食える機会があるとは思わなかった。旨いなこれ」

 割とガチめに真顔のカル君が、あたしよりも先に、躊躇なくもぐもぐしながらそんなことを言っている。


「え、なにこれうめえ」

 黒鳥も食べてびっくり、といった顔だ。といってもこの子味覚も鳥っぽいんだよなあ。


【ほうほう、これはなかなか良いお味だね】

 レイクさんも味見として、あたしたちより大きな肉塊を貰って、満足気だ。


「以前ケンタロウに聞いた、タタキという、まあ肉の刺身のようなものだな。馬刺し馬刺しと煩いので、一番姿の近いヒポグリフで作ったら結構ウケたんだが、君たちの口にも合ったようで何よりだ」

 天馬もまあ馬っぽい姿だけど、あいつらは骨の構造が鳥だから、多分味が違うと思うんだよねえ、と続けるランディさん。真龍、割とグルメだな?いや、多分、だから、天馬は食べたことなさげか。


 子狼は一心不乱に肉にかじりついている。生命力を感じるなあ。

 そうやって食べている時は、白狼さんの気配は殆どなくて、子狼の気の赴くまま、という感じで食べている。食べ方はワイルドだけど、お耳がピコピコしていて、大変可愛らしい。


 麒麟くんは雑食ではあるけど、生肉は苦手だというので、これもランディさんに何か謎の肉を茹でたものを貰っていた。


【おいしー】

「そうか、口にあったならまた次に会った時に分けてやろう。我らのおやつだが、大陸側にはあまりワイバーンは飛んでこないであろうからな」

 まさかのワイバーン肉だった。というかこの世界のワイバーン、真龍のおやつなんだ……

ちょっとまってランディさんそれいつのお肉?(いや真龍の格納は時間経過ないですけど。

茹でてある方は毒抜きしないといけないせいらしい。<ワイバン肉

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