表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
127/628

116.サンファンの闇。

後半明るくない話。

 その後もスローペースで南東に進み続けて、とうとう潮の香りがするエリアまでやってきた。

 マッサイトの国境沿いを行くルートも、とうとうおしまいだ。

 結局あの後も散発的に三回ほど、エルフの子や獣人さんの子をそれぞれ複数名保護した。

 子供がやけに多いなあ、と思ったら、恐らく大人は先日の狐獣人さんのように、再入国して逃げ遅れた子供を助けて回ってるような人か、最早身動きもならないような人しか残ってないんじゃないか、という話を、最後に遭遇したマッサイトの人から聞いた。うん、あたしたちの情報、きっちり周知されてた。

 いやあ、どうせ捗らない系の旅程だし、ちょっとくらい助けの手を伸ばしても、いいかなって思ったのは確かなんだけど、変なところで、知名度が増えてしまった……



「い、いよいよだな」

 一応神罰を受けた状態で、国境の境界を通るという無茶をすることになった黒鳥が、流石に緊張している。首にはずっと、カル君の鱗の御守り。服の下に入れてて、見えはしないけど、付けてるのは、何となく判る。


「そんな緊張しなくても、奴隷商人へのお仕置きはきっちりできてたんだから、問題ないと思うよ?」

 ランディさんが地味に見過ごせない点を指摘している。

 そうよね、奴隷商人らしき汚っさん、あの後も二回くらい昏倒させてたよね、黒鳥。

 ちなみに元とはいえ守護聖獣だったので、実は黒鳥、基本的に人を直接殺すことはできないんだそうだ。朱虎氏もそうだという。盗賊を齧った事自体は、ほんとにあるよあいつ、とは黒鳥の言だけど。軽く流血する程度に齧ったところで、盗賊が音を上げたそうだ。人間のいかついおっさんの肩幅が乗って違和感ないサイズの虎に齧られたわけですから、そりゃそうですよね。

 肩幅乗せるのにつじつま合わせででっかくなってるのかと思ってたら、元からあのサイズだと言われました。最初に会った時、成人男性が普通に立ってると思ったんですよあたし。でかいよ!


「ただ、今思うと、蛇は判らないな……あいつ、たまに血の、というか死の匂いがしてたから」

 黒鳥が眉をひそめてそんなことを言う。いや待って、それだとサンファン、既に守護聖獣誰もいない状態では?いや、今は麒麟はいるけどさ、一応。


 で、あっさり全員、何の感慨もなく国境を踏み越えたわけです。ちょっと心配だったカル君も、黒鳥も、特に異常はないそうだ。


「いやむしろ異常がないほうが異常な気がするんだけど?」

 黒鳥が首を傾げている。神罰の楔は相変わらず儀式魔法と競合したまま、双方不活性状態だ。


「まあ今は考えても判らない事でしょ、進みましょう。この先は更に慎重に行かないといけないんでしょう?むしろ取り急ぎ強行突破の方が良いのかしら?」

 この辺は正直いって、どっちでもいい感がしないでもない。海岸沿いを東に進むだけなんですよね、道程としては。この国の海岸線は、ある程度入り組んでいるから、海は見えたり見えなかったリになるはずだけど。東部山脈までは可能な限りの最短ルートを取る予定だからね。

 例のカウントダウンは、今の所止まっている。多分呪詛者が死んだせいだろう。

 ただ、カウント自体が消えたとは感じられない。カウントダウン再開の可能性はまだ残っている以上、油断は禁物だ。


「流石にこの国は直接入るのは数百年ぶりだなあ」

 ランディさんがそんなことを言っている。入ったこと自体はあるんだ。


「んー?そういやでっかい白い真龍が飛んでるの見たことある、ような?」

 黒鳥が記憶があいまいなとこだな、と言いつつそんな風に言う。なるほど、上空通過か。


「白いなら我だな。他に白い真龍はおらぬし、ハルマナートの子らも、昔から白いものはあまりおらんだろう?」

 へえ、黒が滅多なことではいないのは知ってたけど、白もか。


「ああ、あまり、どころか、白い、と言い切れるのはサク姉が初だと言ってたな。まあ純白じゃなくて、鱗の一部と鬣は水色だけど」

 カル君がそんな情報を漏らす。へえ、そこまでレアなんだ?

 そういえば、全身真っ白じゃなかったのよね、サクシュカさん。百枚に一枚くらいの感じで、水色の鱗が混ざってるの。乗せてもらった時に初めて知ったんだけど。


「ああ、あの子か。そういえば彼女も妙な契約を持っているねえ。よくあやつを説得できたものだ」

 ん?なんか、ランディさんの知り合いと契約持ってるのか、サクシュカさん。

 あの人もちょいちょい謎なところがないわけではない。鱗のないサーラメイア様はともかく、女王陛下と比べても、親子に見えるレベルで若いのって、いくら龍の王族が老けにくいから、そして女王様が出産を繰り返したり多忙だったりでお疲れだからって、流石にちょっと度を越していないかしら?

 最初に会ってから、本格的に旅に出るまでは、特にそんなこと気にしたこともなかったんだけども。


「……俺は聞きませんよ。サク姉の秘密とか下手に知ったら命にかかわりそうだ」

 カル君が何やらぶーたれた顔でランディさんの話を止めたので、謎は謎のまま残った。



 そんな感じで雑談しつつ、のんびりと歩いていく。飛び越える国境は踏み越えたけど、麒麟の足取りは、相変わらずぴょこぴょこぴょん、だ。見てるだけで癒される。


 サンファン国の海岸線というのは、切り立った崖で構成されている部分が、非常に多く、それは東に進むにつれて、さらに顕著になっていく。そして、そのまま白狼の塒のある東部山脈へと繋がっていく形ですね。

 最初の数日は砂浜や漁村らしきものも見えていたけど、気が付いたら崖と林ばかりの風景になっていた。人とは、そして獣とも、びっくりするくらい遭わない。


「漁村も既に廃村のようだったね。まあ神罰で海に出る事ができないなら、おまんまの食い上げという奴であろうから、致し方ないか」

 ランディさんがそう教えてくれた。真龍であるランディさんが、一番検知範囲が広いのよね。

 恐らく、ここら辺は元々人口があまり多くない場所だったんだろうな、とは思うのだけど、獣や鳥もほぼ見かけないのは、なんか変だなあ。ああでも、アスガイアでも鴉しか見なかったし、あらかた逃げ出したんだろうか。

 地元民的にはどうなんだ、これ?


「え、獣とか鳥?そういや、王都周辺並みに少ないなぁ。白狼んとこは以前から縄張りで結構な数の手下の狼を養ってた気がするから、もうちょっと獲物がいないと、流石に足りないんじゃないかな?それとも白狼がダウンした辺りで離散したんだろうか」

 王都周辺は狩猟圧が強すぎて、大きい動物や鳥は結構前から少ないらしいけど、こんな人の少ない田舎でまでそうなのはおかしい、と黒鳥は首を傾げる。

 そういやここまでの道中も、獣の気配は薄かったような?山の中は普通に小鳥が鳴いてたけど。


「獣自体はこれだけ獣人の脱走による移動があれば、場所替えしちまうやつもいるだろうけど、ここらへんは脱出ルートとしても不適当だしなあ」

 カル君も首を傾げている。


 まあ、その半日後についに遭遇した、第一村人のおばあちゃんに話を聞いたら、王都の方から来た連中が軒並み狩りつくしてった、という嫌な答えが返ってきましたけど。


「船で海に出るどころか、この辺じゃ浅瀬の貝すら拾えないのに、何もかも持って行ってしまってねえ。あたしゃ足がもう弱いから諦めて住んでるけど、他の住民もこの数週間で、あらかた王都の方に出てってしまったよ」

 なんでも、崖の隙間を通って浜辺に降りる道が一応あって、以前はそこで採取とかもできてたそうなんだけど、神罰以降は満ち潮の時の浜辺ラインより奥には進めないのだそうだ。

 この先には、そういった弱っていて移動を諦めた人が少数、ぽつぽつと住んでいるくらいじゃないか、とおばあちゃんは言う。一人で暮らす分には、小さな畑と、林の産物である程度食べていけなくもないんだそうだ。まあ肉や魚は諦めて、畑の豆頼りだけどねえ、と言っていた。


 この国でも、末端の、田舎の人たちは案外普通の人なんだな、と思っていたんだけど、それにしては麒麟くんの御機嫌が、宜しくない。

 理由は辞去の際に家の構造を何となく外から眺めていた時に発覚した。

 なんで窓らしき場所に鉄格子、と思って覗いたそこには、壁から下がる鎖と壁に掛けられた鞭と思しき何か、そして、隅っこに積まれた貝殻。多分、奴隷小屋の、痕跡。流石に中には誰もいなくなって結構経っているっぽかったけど。


 この国は、こんな田舎ですら、当たり前のようにそんなものが、あるのだ。

崖下りは危険なので自分らではやらないとかいうあれ。

そういや朱虎氏、どうやってご飯食べてるんだ?(蛇は設定済みなんだが

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ