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12.ゲームは下手の横好きでした。

怪獣バトル後半戦。怪獣言うな。

(すげーなー。治癒かー。あっ、こうかな?)

 さっきまで、あたしの懐、というかコートから顔だけ出して、魔物と龍の集団戦をキラキラした目で眺めてカッコイーすげーとか言っていたジャッキーが、唐突に魔力で丸を書いた、と思ったらぐるりと魔法陣を構成した。


「ちょっと違うわね。というか、人間式と聖獣式の中間じゃないかしら、それ」

 あたしに読める部分と、読めない部分が混ざってる。多分だけど、読めないところは聖獣式じゃないかしら。

 ちなみに龍の魔法はあたしが読めるので、人間式。まあ本質は人のほうだそうですからね、この龍の皆さん。

 でも恐らく、真龍と言うカテゴリの皆さんは違う魔法を使うんだろうなって気がしている。それとも聖獣式かしら?


【そうだの、我ら式とヒト式が混ざっておるのう。というか子兎、そなたそれを組めるということは、治癒の才があるのか。

 ヒトでも聖獣でも治癒持ちは少ない故、後できちんとした式を組めるものを紹介してやろう。その魔力は一旦ばらしてしまうがいい、混成魔法陣は事故るぞ】

 振り向いたハイウィンさんにそう言われて、ジャッキーは魔法陣を霧散させる。


(へえ、治癒って才能が要るのか。んでおれは才能が、ある?)

 そうねえ、ジャッカロープのお乳は万能薬になるって説話があったから、それでかしらね。キミは雄だけど。


(じゃあ頑張って覚えようかな!おれ、誰かの役に立ちたいし。癒し系の癒せる兎とかいいじゃんね!)

 あくまでも軽い調子でいうジャッキーだけど、声音に本気が混ざってる。

 ああ、ほんとにジャッキーはいい子だなあ、と、頭を撫でてやったら、ぷう、と満足そうな声が出た。


(えへー、おれ、頑張るね!)


 ジャッキーはご機嫌だけど、戦況はあいにくの一進一退だ。

 水中に攻撃する手段が少なすぎるのが宜しくない。ブレス、海面で結構拡散しちゃうんだねえ……


【雷魔法が使えないのが厳しいの。水にいるものは一網打尽にできるが、真っ当な海産物までだめになる故なあ】

 あー、漁師さんが困るのはだめよねえ。


【だああ!だから海は嫌なんだ!!】

 カルセスト王子の声が割と近くから。見たら、尻尾の先に鮫のような口を持つ、でもそれにしてはぐちゃぐちゃした……なんかナマコみたいなものが二匹、食らいついている。

 ぶん!と尻尾を振って吹き飛ばし、がぶりと纏めてひと噛みしたら、鮫っぽいナマコはぐしゃっと潰れてそのまま霧散した。


 そして再び、海底から飛び上がるボス格。

 まあ今度は読まれていて、大きな被害はなかったけど。


【そうそう同じ手を食うか!】

 一声吼えて、マグナスレイン様がボスに食らいつく。でもずるりと皮が破れただけで、本体には逃げられた。


【……不味い。】

 ぺっ、と皮を吐き出すとそんなことをこぼすマグナスレイン様。そうか、あれ不味いんだ……そうだよね、見るからに、美味しくなさそうだったね……


【うわあ、伯父上、あれ齧るんだ……】

 ドン引きしているカルセスト王子。気持ちは判るけどさっき君が齧った鮫ナマコも大概でしたよ?



 負傷者に時々治癒を投げるんだけど、段々魔力の込め方が判ってきたので、後半は普通の治癒が使えるようになってきた。

 魔力枯渇?知らない子ですね……


「うーん、細かい傷が増えてきて、一回ずつ治癒唱えるのがなんか面倒になってきた……」

「流石に治癒のような魔力負荷の高い魔法に範囲化はないぞ?試そうとするなよ?」

 近くに戻ってきたイードさんに釘を刺される。


 いやー、範囲にバラ撒くのが無理なら、マルチロックとかいけませんかねえ……

《えぇ……って何これ?!ちょちょちょ》

〈要請受理:マルチロック構文構成……完了//現在のマルチ化可能項目:治癒/ライトレーザー/ライトブレス/ウィンドカッター〉

 あれ、シエラが何か急に慌てだしてってなんだコレ。


《えぇ……この魔力量で治癒も攻撃魔法も使えるとか、反則じゃないですかね……いや魔力量がハナから反則だったわ……》

 いやシエラちゃん、問題はそこじゃないです。

 ってあたし、攻撃魔法使えるの?と思ったとたんに、頭の中に魔法陣の構文がするっと浮かんだ。なんだこれ。


 まあいいや、使わない手はない。まずはマルチロック構成して、先に治癒かな。


「〈付加:マルチロック〉/〈治癒〉」

 雑に構成した魔法は、雑な魔法陣を一瞬だけ展開して、ぱあんと全体に弾けて飛んだ。

 まあ結果としてはちゃんと全員に治癒がかかったので、問題はない。ないったらない。


【はあ?範囲化だと?治癒を?】


「範囲化じゃないでーす。ターゲットを複数にしただけで魔法本体は単体!」

 屁理屈といわば言え。純粋な範囲化は不可能だって、今ので何故か確信できたから!


「うわあ、なんだその反則技……確かにマルチロックという構成要素はかつて研究されてはいたが……あれ攻撃魔法専用じゃなかったのか」

 イードさんがまたイケメンだいなしな顔でぶつぶつ言ってる。


「では本番行きます。〈付加:マルチロック〉/ターゲット:敵構成体の大型個体/〈ライトレーザー〉」

「は?本番?いやまてなんだそれは、なぜそんなものを知っている?」


 言葉と共に、巨大な魔法陣が構成される。うん、まあまあ魔力を使うね。ミリくらいしか減ってないけど。

 ってしまった、個数上限指定してないな?いやまあ大丈夫、足りてる足りてる。


 キーワードを唱え終わったところで、魔法陣が光を放つ。

 マルチロック指定だからか、ざっと一瞬ばらけた光の筋は、何故か全部一か所に固まって降り注いだ。


「おいそれ構文合って……いやワード構成自体は合っているな……」

 イードさんが狐につままれたような顔。使ったあたしもちょっと首を傾げてる感じですから、まあ他人にはもっと謎だろうな。


 ぼわん、と海が割れて、何かが現れる。

 ぷかりと浮かび上がったのは、例のジャンプ攻撃してきたボスっぽい、あの個体。ジャンプ攻撃の時には早すぎて見えなかったけど、なんか紐みたいなのが下半身っぽいところにたくさん付いてる。紐の先には、雑魚より一回り二回り大きい鮫ナマコ。

 なお、身体のど真ん中に、でっかい風穴が開いておりますが、まだ生きてるねえ。


【……ははあ、あやつ、群体に擬態するタイプか。有線誘導式、というか触手を変化させたものを大量に雑魚に紛れ込ませていたようじゃな】

 なるほど、大型個体狙ったら雑魚を避けて、鮫ナマコに反応した結果、本体狙いになっちゃったのか……


 浮かんでしまえばこっちのものだ、と、龍たちが一斉にブレスをぶちかましたので、ボス格は見事に消し飛びました。

 あとは散り散りになる雑魚を掃除して、おしまい。


 うん、予想以上にばらけたんで、もっかいマルチロックレーザーぶちこんでやりました。反省はしていない。

 ……なんか自分がシューティングゲームの主人公機みたいな気分になってきたけど。


 それにしても、さっきの声はなんだろう。シエラと会う前の、検索さんの無機質な声と同じだった気はするけど。


《ええ、『書庫』がいきなり制御できなくなって、元の魔法で付加された検索システムが動いちゃったみたいです。

 私はメリエン様が境界枠を弄って無理やり番人としてねじ込まれている状態なので、今みたいなことがあると、制御しきれないですね。

 というか、この検索システム、神力の気配があるんですけど……なんで普段、これを制御できてるのかしら……?》

 神力?どなたのかによって考え方が変わる話ね、それは。


 あたしを召喚した国絡みだと、あんまよくないけど、それ以外だったとしたら、取り合えず単に謎が増えるだけ、な気がしますね……。


《ライゼル国のライゼリオン神の神力ではありませんね……あの方とメリエン様くらいしか判別できませんけど、私》

 狂信者の国関連じゃないならまあいいわ。今は、あたしの不利になることはないでしょうから。



 それよりまずは、全員でこっちをじいっと見てる龍の皆さんとお話合い、でしょうかね?

無双したくないとは言ったが、無双しないとは言っていない。

マルチロックが実用化されなかったのは魔力消費量と魔法陣の巨大化がどうにもならんかったから。


あ、ライトブレスは龍のブレス(breath)じゃなくてblessのほう。

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