105.帰着、そして次の目的地は。
第三部本編はここまでです。第一部ほど長くはならなんだ。
登場人物回も同時更新。
ランディさんが先頭を行き、その後ろを罪人共を担いで歩くカル君とレン君、そのまた後ろを歩くあたし。
マッサイトに戻ってきたけど、罪人を担いでいる都合上、人目を避ける道行きになってしまったのは仕方がない。
それでも半日くらい余分に時間をかけて、前回最後に野宿した辺りまで来たところ。
どどどどど、と、背後から足音が響く。え?これディーライアが乗ってた大蜥蜴の足音よね?
振り向くと、どた足の大蜥蜴が減速してちょうど止まろうとしているところだった。なお誰も、何も、載せてはいない。
【旦那がたぁ、すいませんがあっしを暫くの間雇っちゃくれませんかぁ】
情けない声が響く。あ、腹ペコだわこの子。良く走って来れたわねえ。
「蜥蜴は要らん……」
嫌そうな顔でランディさんが却下する。
【そんな殺生なぁ、その荷物とか、運ばせて頂きますよぉ、そんなちっちゃい子が運ぶよりは目立ちませんぜえ?!神殿の近場辺りまででいいんで、それまで腹が保つ程度のごはん下さいぃ】
なかなか世間をよく知っている蜥蜴だね、この子。
詳しく聞いたら、ディーライア個人ではなく、神殿と契約している大蜥蜴の幻獣なんだそうで、まあそれなら保護もやぶさかではないな、と、ランディさんが折れた。
実際レン君が大人を軽々担いでる姿は、傍から見てると違和感たっぷりだからね。
その日はそこで泊まって、蜥蜴にもご飯をあげて。罪人にも一応水と重湯くらいはくれてやった。まだ、死なれちゃ困るのです。絶望顔で、それでも重湯すすって完食してた。
事情聴取とかは、特にしていない。当事者が必要ないって言うのだから、あたしが首を突っ込むことでもないからね。
翌日は、蜥蜴さんに罪人二人とあたしを載せて、一気にケンテンの町へ。成程これは早いな。
レンビュールさんがあたしたちの噂を聞いてから、アスガイアで完全に先回りになってたのは、騎獣がいて移動速度が速いせいだったんだな、って実感した。
まああたしたちの方が寄り道でいろいろしてた分もあるはずだけど。
ディーライアの方は、多分神宝の力で神罰の楔を無効化できるまでに時間がかかって、入国がラグったんじゃないかな?
「おう、おかえり!早かったね?」
宿の入り口で、シャルクレーヴさんと、ばったり。というかなんでウェイターの恰好してるんですか、貴方。
「シャル?なんでバイトしてんだよ……滞在費はちゃんと貰ってんだろ?」
カル君が呆れ顔になる。つられてレン君も呆れた顔して、慌てて戻している。
「いやちょっと店の備品壊しちゃって。お金はいいって言うから、労働で弁償中?」
にこやかにそう答えるシャルクレーヴさん。あー、やっぱりやらかしてたのかこのバーサーカー。
「ちょっと、だったろうかねえ。ああ、おかえりなさい。ご無事でよかった」
そこにこれもウェイター姿のレオーネさん。酒場兼宿屋がすっかりイケメンカフェになってないですかね、これ。覗き見える店内、壊れたものは特に見当たらないけど、やたら女性ばかりになってませんか?
「おかえりー!」
リンちゃんまで飛び出してきたけど、エプロンドレスだった。うん、流石にウェイトレスまではいってない。そして、レン君に飛びついたけど、彼の肩越しに大蜥蜴の上の罪人二人を認めるや否や、一気にその表情が憎悪に歪む。
「はいはい、今はまだだめだよ。国元でやろう、な?」
リンちゃんを小声でそう言って宥めるレン君に、はぁい、と小さく答えるリンちゃん。
見た目は可愛らしい子供二人のじゃれあいなのに、交わす言葉の黒いこと黒い事。まあしょうがないんだけども。そもそも子供二人に見えてるのも、見た目だけだ。……見た目だけよね?
「おう、おかえりなさいお客さん。調査はどうだったんだい?空振りかい?ってその大蜥蜴、なんか前は派手な神官の姉さんが乗ってなかったかい?」
表でわいわい言ってたので、フェリスさんも顔を出した。
「ええ、実は彼女、殉職されましてね。偶然通りかかったんで、神殿に伝言とその蜥蜴を届けに行かなきゃいけないんですよ。調査の方は空振りでしたけど、なんでもあの国の神罰が解けたそうなんで、そのうち縄張りからあぶれた子が向こうに移動しだすんじゃないですかねえ」
さらりとランディさんが虚実入り混ぜた話をする。これは国境を越える前に相談して決めた内容だ。殉職と蜥蜴の話は後付けだけど、まあそこまで間違った話はしていない。
少なくとも、あの女性は自分の職務に従って行動し、そして神宝を稼働させるために、己の存在の全てを捧げきって、力尽きたのだから。まあ神宝を盗んだのはアウトだけどなー。
蜥蜴にも話を聞いたけど、フラマリアから神宝を盗んで、審問官資格を剥奪されて、罪人扱いに変わったんで、その話が伝わる前にマッサイトに逃げ込んで、マッサイトの神殿で審問官として再登録していた、ということらしい。
その頃には神宝に魔力を食われて、元々魔力で黒く染まっていた髪が本来の色に戻っていたせいで、気付かれなかったんだってさ。名前そのままじゃん!気付けよ!となったのは許して欲しい。
「へえ?神罰が?」
びっくりした顔のフェリスさん。
「ええ。ただ、国内はだいぶ酷い有様ですね。生きた人に殆ど会うことがありませんでしたよ」
これもどうせ調査が入るだろうから、と、早めに噂に乗せておくことにした内容だ。
難民が溢れてくることがない、という話は早めに流しておくに限る。余計な緊張は要らない。
「そりゃあ、暫く国政側は放置を決め込みそうだねえ。神殿がどのくらい動くか、かあ」
フェリスさんが遠い目をする。そうねえ、確かに今は、サンファン側への対応が忙しいだろうしね、国は。
この国に昔逃げ込んだ獣人や亜人たちは、大体世代を重ねつつあって、アスガイアへの郷愁とかは、特にないそうだしねえ。いや、そもそも、郷愁とか抱けないから、脱出できたんだったね。
「で、その上の『荷物』も、神殿関係かい?」
荷物の中身に気が付いたようで、フェリスさんが目を眇める。
「いえ、これは別件ですね」
これは嘘だ。ディーライアが追っていたのも、この二人だったのははっきりしている。
比較的最近に、ライゼルに併合された国の、元神官達。どういう理由でか、ライゼルの手先としてサンファンを引っ掻き回し、ついには彼の国に神罰を落とさせる原因となり、アスガイアに逃げ込んでいた、堕ちたる者。
彼らはもう喋ることもできない。生きてはいるけれど。
うん、ちょっと腹に食い物が入って喋れるようになったと思ったら、なんていうか、状況が見えていない、身の程知らずな凄い罵詈雑言が飛んできてね。カル君の威圧で漏らしながら気絶したんだけど、その後起きたら心と身体の連動が切れてた。自分の意思では指一本動かせない状態ですね。なお不随意運動はするので、麻痺しているのとは違う。
多分闇魔法かなあ?という痕跡があったから、レン君が口封じ的な事をしたんだろう。本当なら、見過ごしちゃいけないやり方なんだろうけど、今回に限ってはグッジョブと言わざるを得ない。ほんとに酷かったんだもん。
一晩宿屋でゆっくりして、今度は全員で宿を発つ。フェリスさんと旦那さんと、ドワーフの方の弟さんが、並んで見送ってくれた。
リンちゃんは、滞在中、フェリスさん達にも、お客さん達にも、とってもかわいがってもらえたらしい。良かったね。
シャルクレーヴさん達のバイトは、半分ネタみたいなもので、弁済分はとっくに働いてもらったから、と、翌朝のごはんが無料になった。ラッキー?
ケンテンの町から、クレニエに戻る、そのクレニエの手前の疎林地帯で、シャルクレーヴさんに大蜥蜴さんを託して別れることにした。流石にこの罪人共まで連れて神殿に行くと、こいつらそっちに取られちゃうからね、しょうがないね。もはやモノ扱いに近いけど、正直こいつらに掛ける憐憫も温情も、昨日の罵詈雑言であたしからすら全部消えたからね、しょうがないね。
「ええと、サンファンに近い場所は……ああ、あそこなら大丈夫だろう」
ランディさんが虚空を見るようなそぶりで、何かを確認している。そう、VRゲームなんかで、他人には見えないモニターで地図を表示させているかのような、視線の動き。
そして発動する転移魔法。さて、どんな場所に出るのかな?
次はやっとサンファンだ!(その前に人物紹介と閑話がありますが




