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101.神の力が届かぬ国。

思ってたんと違う。とかいうあれ。

 アスガイアの王都は、アースレンというそうだ。

 そのアースレンに向かう道が、封鎖されている。石材と木で作られたバリケードらしきものには、赤いペンキか何かで、大きくバツ印が付けられているけど、特に魔法とかはかかっていない。

 道の上に標識として置かれている、の方が正しいのかもしれない。横に逸れたら通れちゃうような状態なので。

 とはいえ、此処には流石に警備の軍人さんっぽい人が二人ほど立っている。


「王都への道は現状通行止めだ。神殿はまだ解放されておる故、そちらに回るが良い」

 親切に、軍人さんが思いのほか穏やかな様子で声をかけてくれる。


「何かあったんですかい」

 レンビュールさんが、なにかの袋を軍人さんに手渡しながら聞いている。


「む、ああ、済まない、助かる。王都でちと伝染病が発生してな、薬が足りぬ。かといって、これ以上拡げるわけにはいかぬ、と陛下が門を閉ざしてしまわれたのだ。故に、実は、我らも戻れん。食料の援助、痛み入る」

 袋の中身をチラ見してから、嬉しそうな顔で答えてくれる軍人さん。

 ああ、この国に入ってからここまで、生きてる人に会ったの自体が僅かだけれど、悪い人って会ってないなあ。悪い人のやらかしたっぽい何か、には遭遇してるから、油断は禁物だけど。


 そして、小一時間ほど更に歩いて、神殿が見える場所まで来たのだけれど、ここまで来てなお、神力どころか、神の存在の気配すら、感じない。

 そこにあるのは、とても薄いけど、どっちかというとあれ瘴気だよね?広い道と広場を挟んで隣にある、古代の物だという墳墓のほうがまだ清浄な気がする。まあ瘴気と言っても、生活の中で溜まる澱のような、僅かなもので、変なものがいるとかじゃなさそうなんだけどね。


「まずいねえ、ひょっとして、あっちが先じゃないかい?」

 ランディさんが顔をしかめて居る。多分あたしと同じモノに、気が付いているんだろう。


「神殿?なんでまた」

 カル君が首を傾げる。


「神様の存在が感じられない、で、瘴気がふわっと。一般の生活レベルだけど、神殿ってのがだめかな」

 端的に説明だけしておく。堕ちてんだろうなあこれ。いやそれにしちゃ薄すぎるか。


「え、まさか、堕ちた?」

 レン君が端的に結論を述べて、物凄く嫌そうな顔になる。いやいや、流石にそこまでじゃないよ、と首を横に振っておく。


「へ?この世界の神様って、堕ちるんですか?」

 レンビュールさんが目をぱちくりさせている。ああ、そういや異世界勢だったっけ。


「過去に一度だけ、討伐例があるんだよ。まあお前の世界の魔王ほど厄介な存在ではないから、気にするな」

 ランディさんが酷いことを言う。ってレンビュールさんの世界、魔王いるんだ?


「いやあ、うちの世界の魔王って確かに不滅ではありますけど、たまに地上にお互いのレクリエーション代わりにちょっかい掛けて来るだけですからね?おとなしいもんですよ?」

 いやまってそれ魔王としてどうなの?魔王って言う只のジョブっぽいですよ?いやでも不滅かあ。

 後で聞いたら、レンビュールさんの元の世界は、魔王と神が対立していないどころか、揃って人間のやらかしを監視する側なんだそうだ。で、人のやらかしが積みあがると魔王がちょっかいかけて文明を後退させ、その後勇者が出現して、人類を纏めて対人戦争の圧を下げたり文明を再度加速させたりしてると。茶番か!

 そしてそういうカラクリが数百年続いた結果、人類側にも茶番としてすっかり知れ渡ってしまっていて、今は平和な世界で時々レクリエーション代わりに魔王がちょっかいをかけたり、あるいは神様がちょっかいをかけたり、みたいな、ある意味大変ゆるい世界なんだそうだ。

 人類がほぼ限界まで魔法を発達させてしまって、対抗手段もなんぼでもある、ってのも理由だそうだけど。


 転じてこの世界はというと、創世神も含めて、神は堕ちる。その結果?世界の瘴気は増大しているわけだけど、それ以外の不都合って、なんだ?まあ神力に頼りすぎた状態で神が堕ちた、もしくは不在になった結果は、今まさにこの国で繰り広げられている惨事なわけだけど、神に頼ることのない発展も、また可能なのはハルマナート国が示しているわけで。


「……神が堕ちた場合、何になるんだ?」

 カル君のもっともな疑問。あたしも、その正確な答えは知らない。


「うーん、なんて表現すればいいかな、名状しがたきもの?」

 いや待ってランディさん、それ、なんか、違う。いやもしかして、まさか、違わないの?そうだ、この人はその一例を見てる可能性があるんだった。


「見たこと、あるんですね?」

 聞きたくないけど、聞かないと話が進まない気がして、尋ねてみる。


「あるといえばあるし、ないといえばないな。ちゃんと見る前に滅ぼしちゃったし」

 わあ、神殺しだったよこの真龍。いや、彼らは神と対立するために存在している種族なんだそうだから、想定内、よね。


「しかし、この世界って国神が国を規定してるんですよね?その国神が堕ちた場合、んで滅ぼされた場合、国ってどうなるんです?師の師は滅ぼしたと仰いますが、創世以来、ライゼル周辺以外の国家に変動はないのでしょう?」

 ライゼルに関しては、国神と王を降伏させて編入しているから、堕ちた云々は一応ノーカンだ。まあ大元があれでそれなわけだけど、これはまだ公開していい情報じゃないらしい。

 ああ、でも確かにアレが実質堕ちてるのに、世界全体はそこまで酷くなってない、よね?瘴気の総量が増えてるっていうから、魔物被害、ひいてはスタンピードは増えそうではあるんだけど。


「その時は、新たな神が立ったのさ。国の名はそのままに、王家と神が新しくなって、そのまま現代に続いているんだ」

 どこの、とは言わないけれど、それ以外は明快な回答のランディさん。


「だが、今回はそうもいかないだろうねえ。成り代われる者が居ないからなあ」

 そりゃあそうだ、そう簡単に神様候補がごろごろしてたら、それはそれで凄い世界だよね。


「その場合はどうなるんだ?堕ちた者って戻せないんだろう?」

 レン君が渋い顔でランディさんに尋ねている。まあ下手すると、明日は我が身になりかねないもんね、気になるよね。


「それが判らないんだよねえ。言ったろう?討伐例は一例だ、と。他の例がないんだよ。今回が、一応二件目になるんじゃないかな」

 なので、相対し、結果が出てからじゃないと、何とも言えないのだと。

 しかし、それでも守護聖獣を求めるのか。何の為に?


 その時だ。神殿から、大音響、轟音が響き渡る。思わず見たその先には、崩れていく建造物。


「うわ、ディーライア、やりやがった?!」

 レンビュールさんが慌てた声。まさか、神宝?


「いや、起動はしたようだが、発動まではしておらん。発動させる相手が居らんのでは、どうしようもない故な」

 ランディさんは余裕の表情。……つまりあれか、神に対して発動し、作用する何か、ということなのね?で、堕ちた者は既に神ではない?

 いや、むしろ、そこに神だったものすらいない、とかじゃないだろうな?


《可能性はないとは言えません。ただ、おかしなことがもう一つ。神罰を受けている以上、メリエン様の御力が通っていないとおかしいのですが、それすら感知できないのです》

 そ れ な ?

 そうなのよ。アスガイアに入ってから、メリエン様の力をほんとに全然感じないの。この世界でメリエンカーラ神にお会いしてから、多分初めてじゃないかな、この状況。

 神罰って、あくまでも国境を閉ざし国神を縛り召喚を禁じ、結果として魔法力が半減する、以外の効果は持ってない、よね?そしてそれらを実行するのは、メリエンカーラ神、だよね?


《はい、それで間違いありません。サンファンに神罰が下った折に、メリエン様御自身に確認していますから》

 つまりこれは、完全に、異常事態、ね?


《そうですね、正常な状態だとは思えません。そもそも神罰は、ここまで一般の国民に対してまで苛烈なものではない、はずです。まあ、思想が変わらないと衰退に進まざるを得ないようになってはいますが……それでも前の冬に入った神殿系の支援者の記録にも、飢饉の前兆は記録されていましたけれど、複数の村が逃散あるいは全滅するほどに酷い要素はなかったと思います。ここまでの異常であれば、わたしの家には伝わってくるはずですから》

 シエラの家は下級貴族と言いつつ、神殿に入る人が多いので、その種の情報にはもともと強いのだそうだ。


 ここにきて見過ごしてきた違和感を、そのままにしておいちゃいけなかった疑惑が。

 メリエン様に、神罰当てといてそのままほったらかし、なんて雑なイメージは、微塵もないのに。そういうのはズボラ創世神のほうでしょ、確か。

流石に気付くのが遅い疑惑。理由はあるんだけど。

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