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99.イードさんの兄弟子。

流石に重すぎたのでちょっと明るくしたかった。

 ようやっと、街といえる場所が見えてきた。

 但し、あたしたちはその街には用がないから、その手前で道を外れ、違う街道に入るのだけど。

 流石に街が近い場所になると、死体が転がっている、なんてこともなくなってきたし、鴉も目に見えて減っ……てないな、増えたな、鴉?


 とか思ってたら、やたらでかい鴉が一羽、こちらに飛んできた。あ、これ幻獣だ。この国にも、幻獣、まだいたんだ。


【そこな旅人、街に入る予定はあるか?】

 挨拶もなくそんなことを聞いてくる大鴉。特に悪意もなければ、好意もない感じ。


「いや?その街には用がない。もうちっとばかり王都に近い方が目的地だ」

 ランディさんが特に気にもせず答える。あれそれ行先ばらしていいの?


【そうか、ならいいんだ。街は封鎖中でな。何人たりとも入れてはならんし出してはならんという我が主の命なのだよ。足止めをしてしまって、済まなかったね】

 そう言うと、大鴉はさっさと街に戻っていってしまった。


 この、召喚術を神罰で禁じられた国で、主持ちの幻獣?


「ああ、どこかの異国人が入っているな。我々も召喚術は使えるわけだし」

 ランディさんはあっさりとそう納得する。そういえばそうか。あたしたちは普通に召喚術、使えるものね。

 そうして本来の目的地方面に向かって歩き出して暫くしたあたりで。


「おおーい!旅の方ー!ちょっとだけ、よろしいかー!」

 二本脚ですったか走る、やや駝鳥めいた騎獣に乗った男性がこちらに向かって声を掛けながらすっ飛んできましたよ。糸目っぽいくらいで、割合平凡な顔つきだけど、ピンクに近い赤茶色の髪の色が凄く目立つ。地毛だろうか、染めてるんだろうか。


「げ、あいつは」

 男性の声と顔を確認したランディさんが嫌な顔。


「なんと!師の師ではござらんか!!これは重畳、是非御身にも手伝いを」

「断る!別件で仕事中だ!」

 相手の申し出に被せるようにオコトワリを叫ぶランディさん。この人が叫ぶのはなかなかレアだぞ?


「えええええ、そんなあ。こちらの用が済んだら、そちらを手伝いますから」

 男性はなおも食い下がる。しかし声がでかいな、この人。そして、随分と変わった気配の人だ。どこがどう、とは言えないけど。


「要らん!むしろお前のような喧しい奴に付いてこられるのは邪魔だ、帰れ!」

【えぇーそう言わずにい】

 騎獣までそんな風に説得しようとしだしました。召喚主と仲いいな?!


「まあ冗談はおいておいて、真龍たる師の師がこんな場所に、しかもそんな不思議な連れがいるとは、何事なのですか?」

 突然遮音と魔力の両結界を張ったかと思うと、すっと声を低めて、真顔でそんな風に聞いてくる召喚師のお兄さん。お兄さん、いや、おじさん?丁度その間くらいの、絶妙に微妙な感じの人だ。騎獣さんが何か隠蔽系の魔力を振りまいている。うわ幻獣じゃないぞこの子、聖獣だ!


「だからその事あるごとに騒いでは情報を毟ろうとするのはやめろ、レンビュール。

 そもそもお前こそ、何故此処に居る?フラマリアに居たはずだろう?」

 ランディさんが苦虫を嚙み潰したような顔はそのままに、言葉だけはいつもの調子に戻して言う。

 レンビュールと呼ばれた人は、無言で肩をすくめた。まあランディさんが真龍だと知っている人は、基本的に味方だと思っていいそうなので、この人個人への警戒ランクは下げる。



「本当はこんなところに留まっている予定じゃなかったんですがね。街に悪疫が入っちまってもうだめだってんで、せめてこれ以上広まらないように封鎖してるとこですよ。

 ……ええ、この国の政府はもう全く機能しちゃいません。下手すると、王都も同様の状況かもしれませんね」

 とある人物を追っていたのだというレンビュールさんは、フェアネスシュリーク様の御弟子さんの一人で、イードさんの先輩にあたる人だった。そして、なんと、異世界人だった。

 わあお、自分以外の異世界人初めて見たわ!


「いやあ、異世界の、しかも魔法のない世界から来た、にも関わらず、ランディ師に勝るとも劣らぬ魔力の方ですか!お初にお目にかかります、我が名は魔導士レンビュール、貴方のような存在にお会いできて光栄です」

 丁寧に挨拶されました。なんか、どこかずれているけど。

 ……そうだ、これイードさんと最初に会った時と似た感じだ。兄弟子も研究オタクの予感が!


「カーラと申します。まあ魔力辺りは気にしないでくれると有難いです」

 無理だと思うけど、一応。


 レンビュールさんの出身世界は、あたしの居た世界とは似ても似つかない、高度魔法文明世界だったんですって。あたしの出身世界には魔法も魔力もないと聞いて、驚いていた。

 ちなみに、召喚されてきたのではなく、魔法実験の事故に巻き込まれて、世界の壁を突き破り、辛うじてこの世界に漂着して、生き残ったのだそうだ。この世界では、召喚師としては上級、それとは別に魔法師としても上級、護法師として中級、だそうな。多芸だな?属性はなんだろう?混ざり合っているとでもいうんだろうか、良く見えない。シエラによれば、魔法文明系の異世界人にたまにある仕様だそうだけど。恐らく全属性持ちの特殊パターンじゃないかな。混ぜあうことでこの世界特有の属性反発をかいくぐっている、そんな印象だ。

 この世界式の治癒は使えないそうで、賢者に永遠にリーチかかったままなんだよねえ、とは本人談。なお、本人が名乗った魔導士、は、彼の世界での魔法使いの一般的な職名だそうな。


「ところで師の師よ、ディーライアという名の、黒髪の女を知りませんか。今追っているんですが」

 唐突に話を自分の仕事に戻すレンビュールさん。


「何故そんな奴を追っている?ディーライア、どこかで聞いた名だが、黒髪の方に心当たりがないな」

 ランディさんが眉を寄せる。なんか本気でちゃんと覚えてなさそうね。あたしたちが遭遇した人に、確かにそんな名前の人がいたけど、紫っぽい髪だった気がするし、あの人アスガイアには入れないっぽいんじゃなかったかな?


「フラマリアの異端審問官だったんですが、神宝を盗んだ咎で討伐対象になったんですよ。あんなにガチガチに契約に縛られる審問官が盗難の主犯ってのに驚きましてね。魔力でゴリ押ししたんじゃないかという話ではあったんですが」

 そしてレンビュールさんの返答がこれだ。

 え、マッサイトじゃなくてフラマリアの審問官だったの?なんか変だな。


「えぇ……?フラマリアの神宝って、確か碌なモンなかった気がするんだけど」

 そしてそれを聞いたカル君がなんだか酷いことを言い出した。神宝、だよね?


「自称勇者様シリーズじゃありませんよ、流石に。そもそもあれは宝物殿にあるのはレプリカばかりですし、盗られたところでレプリカですら勝手に帰ってくる謎性能ですからね!

 奪われたのは、用途は極秘ですが、初代王の時代から、使用を禁止されている魔道具です。なまじ神宝なので壊せなくて、扱いに困っていたものだそうですが」

 すらすらと答えるレンビュールさん。あの、カル君の意図とは違う意味で、碌なもんじゃない気配がぎゅんぎゅんしますよそれ?!

 あとその自称勇者様シリーズって何ですか。


《自称勇者様の愛用品ですね、着用品ですとか武器ですとか。全て本人以外には使用できない仕様なうえに、盗難にあっても勝手に戻ってくるというのは、まあまあ有名な話なんですが、レプリカまでほぼそのままの仕様なんですね……どうやって作ったんでしょう》

 シエラが解説ついでに疑問を増やす。レプリカも帰還に関しては充分神宝と呼べる性能の予感。


「え、アレか……!だめだ、真龍として流石にそれは捨て置けん……ところで何故お主、アスガイアにそやつがいると踏んだのだ?」

 ランディさんはその魔道具そのものを知っているようで、一気に渋い顔になった。


「アスガイアに向かう旅人に絡んでいたという噂を聞きつけましてね。ただ、噂では髪の色が違う上に、証言者があれはマッサイトの審問官だ、って言い出して、ちょっと良く判らんことになっています。というかこの噂で絡まれてたの、外見情報的に、師の師たちですよね?」

 レンビュールさんの言葉に、なんだよ既にその件知ってるんじゃないか、という顔になるランディさん。判りやすいなあ。

 そして、やっぱり我々は悪目立ち集団だった。うん、知ってた。

兄弟子、イードさんほど対人性能低くないです。(言い方ァ!

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