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98.死の街道。

重い話が続くけど、舞台のせいなので……

 少年が目を覚ました翌日、やっと少しだけ彼から話を聞けた。

 やっぱり、前年の秋からの飢饉が主な原因で、村の半数の人は、動けなくなった人たちを見捨てて、残っていた僅かな食料を全て持って、去っていったのだそうだ。

 ただ、彼らは無理にそれを奪ったわけではない。残った人々は、自分たちの生存を諦め、村にいた薬師に眠り薬だけを処方して貰って、置いて行ってもらったのだそうだ。

 この少年は、両親と共に最期を迎えたい、と、まだ動けるにも拘わらず村に残って、自力で薬を飲めなくなった人に薬を与え、未熟な麦を刈って辛うじて腹に納め飢えをぎりぎりでしのぎ、ほぼ全員をなんとか看取ったところで、自分も発熱で力尽きたのだという。


「だって、ここを出たところで、他に行ける場所なんて、ないし」

 ぽつんとそう言う少年。人買いに買い叩かれて奴隷暮らしが出来ればまだいい方だ、という。

 大概は、そこまで辿り着けもしないのだと。

 こんな田舎の子供にしちゃ妙な事を知っているな、と思ったら、この子、鳥限定の意思疎通技能を持っているらしい、と、レン君が教えてくれた。新たに国境を越える鳥はいないけど、鴉の類なんかがちょっとくらい居付いていて、そういう鳥から情報を得ているらしい。


「俺の正体ばれそうだから、ちょっと離れたとこにいよう……」

 そう言って村を少し離れた場所に移動していったレン君。聖獣でも鳥の括りには入るのか、ってそうだ、あたしのスキルも通用するんだったわ。


《スキルではなく技能の方なので、多分聖獣には通用しないと思うのですけど、彼の存在の方が揺らいでいるので、警戒はした方が良いでしょうね》

 シエラもそう言うし、検知できてる時点で多少の反応はしてるってことだから、まあその判断でいいんだろうね。


 結局、少年は助からなかった。翌日、目を覚まさないなと思ったら、もう魂が去ったあとだったので、どうにもできなかった。魔力は、治癒の能力は、万能ではないのだと、思い知る。

 そして、〈回復〉の魔法は、まさかの、死んだ人にも残留する仕様だったので、慌てて解除しました。


「あの状態からこの日数持ちこたえさせただけでも、大したものだがね」

 ランディさんはそう評する。


「連れて歩くわけにもいかなかったんだし、どっちみち詰んでたんだよ、この子はさ」

 村人と同じ場所に埋葬しながら、レン君がうそぶく。でも君さっきから涙目だよ、この泣き虫め。


「しかしこの規模の飢饉すら放置とは、この国の行政府、どうなってるんだ」

 カル君はそっちが気になるか。まあ元々為政側の人間だったんだから、そうよね、気にするよね。

 むしろ国の守護やってたはずのレン君にその類の認識が薄すぎる、いやこれも子供返りの影響だっけか?


「放置ならいいが、手を回す余裕がない、という可能性の方が高いだろうな」

 ランディさんが嫌な事を言う。まあでもあたしもそんな気はしている。


 全部片付けて、一旦コテージで全身洗って洗濯もして、清潔な服装に着替え直す。まあこの国に入ってからは、上に着るものはマッサイトで買った普通の古着だけど。下着と肌着だけ防御性能を期待して、蜘蛛絹だったりする。

 男子勢はこの村初日に死体に触れまくったので、その日に着ていたものは全部処分したそうだ。まあ感染症の正体が不明なままだから、それはしょうがないね。


 無人になった村を出発して、再び歩く旅だ。

 成程、段々と、鴉の姿がぽつぽつと見えるようになってきた。そして、彼らの『食料』も。


「うええ……」

 真っ先に、まさかのレン君が音を上げた。おい待てポンコツ聖獣、それメンバー的にはあたしのポジションなんでは!?


《そういうツッコミを口にしないだけの分別があって何よりです》

 ああん、シエラが冷たい。先に音を上げられたんでタイミングを見失っただけよ!


「白骨死体なんて、そんなに見慣れてなんかないよ……」

 一応もっともな発言と共に、カル君の後ろに隠れるようにしてへばりつく鳥小僧。


「嬢ちゃんよく平気だな?」

 こちらも軽く顔をしかめたカル君にまで突っ込まれた。


「平気ではないです、先を越されてリアクションしそこねただけで」

 一応そう答えておく。そこの小僧が先に音を上げたうえに、ランディさんが平然と検分しだしたもんですからね?


 道端に、散らばる白骨。すっかり骨だけになったものもあれば、辛うじて何かがへばりついていて、それを鴉がついばんでいるものもある。

 ランディさんが何もないね、と言って検分を終えたので、それらはそのままにして歩き出す。

 うん、もう判ってる。これをいちいち埋めたりしていたら、永久に終わらない。鴉達の配置で判ってしまう。そんなこと知りたくは、なかったけど。

 鴉たちは、普通の速度でてくてく歩いていくあたしたちには、一切無関心だ。

 強いて言えば、スキルが、まずー。とか、はらへったー、とか、流してくるくらい。

 そうか、不味いんだ。そして、足りていない。

 そういえば、あたしたちと鴉以外に、動くものを見ないな、この道。草は枯草から、辛うじて緑が見える程度に青草が見えるようになってきたけど、動物も、虫も、本当に見かけない。


 最早堂々と街道を歩くあたしたち。いやマジで下手に道を逸れると、死体を踏みかねないのよ。

 どうせ、人間になんてそうそう会いそうにもないし。

 ええ、次に辿り着いた村も、生者なんていなかった。やっぱり十数人の死体が居たけど。残念ながら、これももう埋葬とか無理だ。

 というか、此処の村は完全にあんま良くない系の伝染病の痕跡があったので、外から結界張って、村ごと全部焼いた。そこまでしてやる義理なんて、本当はあたしたちにはないけども。


「これ、死体の人数が規模の割に少ないから、伝染病持ったまま他の村に逃げた奴、いるよなあ……」

 カル君が嫌そうに言う。やっぱりそうよね?


「流石にこれは、国としての体を最早成していないのではないかね?縛られているとはいえ、国神がこれを放置というのも流石におかしいだろう。我らが見てきたのは一方向からの光景に過ぎんが、他なら大丈夫、とか言える状況とは思えぬ」

 ランディさんも厳しい顔でそう告げる。


「というかですね、ここまで一切神の力なんて感じてない気がするんですよね」

 巫女さん技能がぴくりともしませんぜ、まあ敵対認定してるせいかもしれないけど。


「奇遇だね、我もだよ。ここの国神は、確かアースガインだったか、本当に、まだ存在しておるのかね?」

 真龍のランディさんは、当然のように国神も呼び捨てだ。そしてその名を聞いたけど、あたしの巫女技能、此処まで一切、反応ナシ。あれえ?流石にこれはおかしいぞ?他国の神様でも、何となく存在を感じたりするんだけどなあ。例えばマッサイトでは微かに見られてる、というか見守られてる感あったし。


《アスガイア国神、アースガインは、既に神格を喪っているのではないでしょうか。単に弱体化しすぎて神格を維持できなくなっただけならいいのですが、最悪堕ちている可能性も考慮すべきかと思います》

 シエラが怖い事を言い出した。神も、堕ちるのか。デーモンとかになるんですかね?


《デーモンならあなたが討滅できるでしょうから、まだいいのですが……記録がほぼないので、詳しいことは判りませんね》

 ほぼ、ということは、ゼロではないのでしょう?


《ええ。ですが、たった一言だけ、『神は堕ち、そして滅びた』としか記録が残っていないのです。ええ、いつもの自称勇者様の、最後の戦いと言われている記録だそうなのですが》

 本当に最近自称勇者様の話が多いわね。ああでもフラマリアとアスガイアも隣同士だから、そこまでおかしなことではないの、かな。

 ところでその滅びた神ってどこの神様だったんだろう。


《そういえば、それも伝わっておりませんわねえ……》

 シエラも首をかしげてしまったので、その話はそこで一旦止まってしまった。


 その日も街道の横にぽい、と出されたコテージで一泊。明日には程々大きな街が見える辺りに来るそうだけど、正直、いい予感なんて、微塵もしないわね。

まずい、激重のまま100話を迎える予感しかしない。

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