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97.第一村人発見。

タイトルは軽いが中身が重い。

 結局カル君の案が受け入れられて、あたしがランディさんに、レン君がカル君に背負われてダッシュで移動になりまして。

 カル君もレン君と一緒だと以前の九割くらいの力が出せるそうなので、結構な速さで進んで、本来の半分くらいの時間で、ランディさんが感知したという人の気配のある村に辿り着いた。


 ほぼ廃村、見た目はそんな感じだけど、確かにこれまでと違って、作物が畑にそれなりに生えている。といっても半分は枯れてしまっていて、もう半分も明らかに育ちが悪い、とかそんなのばっかりだけど。そして、野菜系は何もなくて、麦には中途半端に、未熟なはずの穂が刈られた跡が、少しだけ。

 そして、村の中からは蛋白質が腐った臭気。いや待てこれ伝染病とか対策大丈夫か?


「風魔法でちょっと覆うから、最低限の保護にはなるだろう」

 ランディさんが魔力だけで風を操りだしたので、そのまま村に踏み込む。

 真っすぐ駆け込んだのは、一軒の、さほど大きくない、ここまでの廃村でも一般的だった、ごく普通の家。


 簡単に仕切りで区切られた、推定寝室のベッドの上に、痩せた死体がふたつ、そしてその横に、まだ息のある、レン君と同じくらいの大きさの、これも痩せ細った子供。身体状態は、感染症、重度の飢餓、それに警告レベルの脱水!


「〈治癒〉〈回復〉」

 魔力を可能な限り抑えた初級治癒と、普通より長期持続する回復を連続でかける。上位治癒は感染症があるから今は絶対に使えないし、かといって開幕回復だけだと、もう保たない。賦活は流石に魔力的な意味で色々駄々洩れになるので、一応潜入行動中の今は使うわけにいかないし、データ不足で断言できないけど、上位治癒と同じ問題がある可能性があるらしいので、どのみち選択外だ。


「感染症と脱水は魔法では如何ともしがたいから、意識が戻るようなら水を飲ませてあげて」

 回復魔法の効きを確認しながら、そう誰にともなく告げる。正直、予断を許さない感じなので、治癒師の技能で経過を診てないといけないのよね……

 これも経験になって、治癒師の技能自体を底上げしていく感覚があるってのもあるんだけど。


「厳しいかね」

 ランディさんが平坦な声で問うてくる。


「感染症がどのくらい暴れるかですね……」

 敗血症寸前までいってると、この子の残存体力的に、助からない可能性が高いけど、どうだろう。流石にそこまでの知識はない。あたしはあくまでも前世での医療オタクであって、医者ではないからね。それに、あの世界では、こういった飢餓に直面する人間自体が、殆ど無かったと思う。いや、文献でそういった話を読んだことはあるし、あたしの知らない場所で、人口が異様に密集してたという南大陸方面だと、ないとは言えなかったかもしれないけど、少なくとも、このレベルの衰弱した飢餓者に直接遭遇したことは、ない。

 あたしもICU帰りで一週間くらい絶食とかしょっちゅうだったけど、経管栄養とかあったから、流石にここまで骨と皮ばかりの状態にまでは行ってなかったと思うし。

 うん、間違いない。過去の自分より状態の悪い人間、初めて見たわ……

 尚、カル君の時は、筋肉が落ちるまでいってなかったからノーカンなのだよ。


《それでも医療知識のある程度ある治癒師って、強いですよ。感染症と聞いた瞬間諦める治癒師も結構いますから》

 シエラがそんな風に言ってくれる。そっかなー、そうなのかな。文化スタイルが違い過ぎて、一律に適応できないから、死蔵知識も多いんだよねえ。


「それにしても魔法の選択を一切迷わなかったね。医療の心得がないとできないことだ」

 ランディさんもそこを指摘してきた。


「心得っていうか、知識としてちょっと知ってる、程度の話ですよ」

 この世界には、異世界由来の医療知識の重要さの話も、結構きちんと広まっていて、治癒師ではない医師という純粋な技術職も、多くの国では資格制度や学習機関が整備されている。

 以前看取ったアンナさんの息子さんも、治癒師の才こそなかったけれど、〈診断〉という超レアスキルを持っていたので、王都に出て医師になったのだそうだ。

 あたしの医療関連知識は、結局のところ、一般に開示されているレベルの、雑多に集めた色んな知識の一部でしかないからね。記録保全改め書庫の魔法と、治癒師の技能のお陰で、間違えることなく運用できているってだけだ。



 結局、子供は半日ほどしてから、何とか目は覚ました。症状としては、衰弱、感染症による微熱、飢餓、脱水。取り合えず前世界の知識を頼りに経口補水液だけは作ったので、それをまずはほんの少しだけ、飲ませる。

 なんとかむせずに飲めたので、時間を置いて、少しずつ。

 ああ、点滴が欲しい。流石にそんなもん、各国王都とかにある大規模な病院にしかないけど。むしろあったのにびっくりだわ。流石にこの世界にプラスチックは存在していなくて、代わりに透明な不織布風の物質にも生成できるという蜘蛛絹がこの分野でも大活躍だそうだ。ただ、蜘蛛絹そのもののコストと、他の器具の精度が出しづらいせいで、大病院位にしか置けないというジレンマ。

 そういえばあたしの世界のあの手の製品も、最新式はプラじゃなかったなあ。リサイクルも限界だといって、別の生体生成系高分子ポリマー素材に置き換えが進んでいたはず。


 今はいつものランディさんのコテージではなく、キャンプ用のテントで子供を見守ってる状態。

 いや、衛生上の問題があって、コテージは子供を洗えるようになるまで使用不可って言われましてね。確かに感染症持ってる以上、それはしょうがないのだけど、ランディさん、余りにも準備が良くはないか?というかこのテント、どうみてもこの世界の産物じゃないんですが!あたしのいた世界のものでもないんだけどね、多分あたしにとって未知であるポリマー系複合素材もさることながら、書いてあるロゴ、あたしには未知の文字だったし。

 聞いてみたら、例の自称勇者様に譲ってもらった逸品だそうだ。

 ……なんか、ランディさんの格納庫の中身を、一回見てみたいような、カオスになってそうで、見たくないような……いや、目的のブツがそこそこすっと出てくるんだから、整頓されてなくてぐちゃぐちゃ、なんてことだけはないだろうけども。


 それにしてもこの子供、属性力が少ないなあ。土小と水極小か。魔力はあたしには判らないけど、シエラ曰くこれも人族としてはかなり少ないそうだ。

 べたっとした茶色っぽい髪と、これも茶色じみて見える肌、いやこれ洗ってないだけだな?素はもうちょっと白いかもしれない。眼も茶色だけど、一時的にかどうかは判らないけど、今は見えてないっぽい。まあなんにしても、この大陸の南部には多い感じの、普通の人の子だ。


 村には他にも十数名の人がいたのだけど、全ての人が、そしてほぼ全員が、寝床で死んでいた。まあ例外の一人も、寝床らしきものがない家の床の上だったので、そこが寝床みたいなものだったんだろう、ということだった。それとは別に、家畜小屋で餓死したっぽい家畜も数頭。取り合えず墓地らしき場所があったので、人は死んでた場所と特徴だけ記録を取ってから、纏めてそこに埋めたという。村の半分くらいの家に人が死んでいて、残りはこれまで見たのと同じ、荷物の残っていない空き家だった。

 土魔法持ちがいないから、全部手作業で穴掘って埋めた!とレン君が胸を張っていたけど、そこ多分自慢するところじゃないからね?家畜のほうも別の場所に穴掘って埋めたそうだ。まあ腐っちゃってて、どうにもならなさそうだったものね。


 村人の死因は、直接的にはほぼ餓死だった。感染症自体も、この世界の医療について詳しい人が誰もいなくて断言はできないけど、多分日和見系の、感染力も症状も重くないものっぽい感じだった。恐らく飢饉で体力がなくなっていた所にこの感染症が流行って、弱い人から動けなく、そして目覚めなくなって、そのまま死んでいったのではないか、という怖い結論。

 いや、暴れた、もしくはもがいたりした形跡のある人が全くいなくてね。苦痛より倦怠と意識の喪失のほうが早かったんじゃないかと……


 結局その場所で丸二日ほど、足止めされる羽目になったわけですが、果たしてこの子供から、その時間に値する情報は得られるのかしら?

ランディさんの格納庫、主人公が思ってるよりずっとカオスよ。

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