裏情報じゃんけん
0時00分、俺とようきは、爆発事故で一変した
学校の体育館に身を隠していた。ステージ裏の
部屋は、夜だというのに、暑かった。制服だからか。
体育館入口を眺めていると、ようきが言った。
「先輩は、こんな真夜中に起きていて、親に
怒られないのですか」
ようきを見ると、目がぎらんぎらんと笑っていた。深夜テンション=「0点男」という関係だと、
今さら気付いた。
「まず 俺には親かいない。過去には、いたが
母は父に殺され、その後、父は行方不明になった。
こんな人間もこの世界で生きているんだよ!」
だから、俺は「由」を消して、「化け物」になりたい。
「しょうがない人間ですね、先輩は」
「なにか 悪いか」
突如、背後のトビラが放たれた。
そこには、ひどい顔をした。 100宿し女がいた。
「どうした・・円々姫」
「私は つるきという生物にあきあきしました!」
・ ・ ・
円々姫は、潜入後、つるきともう一つの影を見た
らしい。しかし、数秒後、爆発に見舞われた。
本当に、円々姫が金属で良かった。
そうじゃなかったら 生きることもなく
つるきもつかまらず、
100億円にも近づけなかったのだから。
つるきは取り調べ室へ、俺らのボス「ひつじ」の
調べが始まったらしいが、
Г早くはいた方が楽になるよ」
くっ、円々姫は人間のところへ帰っていった。
早く帰りたい。なぜなら、こいつは 面倒くさい。
「え 私が 何か?」
話が進まない
・ ・ ・
「まあ、つるきか、それともつるきが言っていた
にせものの「俺」か知らないが、テストの裏の情報
は事実だったな」
俺は体育館の入口に視線を送る。そこから、
ぞろぞろと影が出てきた。
テストの裏側の情報
『今日、0時00分、ここの体育館で天使と
悪魔が秘密会議を行う』
俺らはこの情報のせいで、ここにいる。
こいつらの会話で導き出してみせる、ボスの正体。
俺が考えるボスはレイの愛するやつと、にせものの「俺」だ。
それにしても・・・
「なんだよ、あいつら!どす黒く、バリバリ
のむきむきの鬼の群れは」
「あいつらは、悪魔の特殊攻撃部隊。
通称 KUROです。」
円々姫が、当然のように言う。
正気か。ボスらしき鬼を見てみろよ。あんな
巨体で、巨大なかな棒を持つ、冷酷な黒鬼を。
「先輩!次は、天使の特殊攻撃部隊
通称、SIROが来ましたよ!」
「お前も、正気か。」
次に入ってきたのは まっ白く、バリバリの
むきむきの白鬼の群れたった。ボスはもちろん巨体で、それに似あわず、ハートの弓矢をにぎっていた。
KURO隊とSIRO隊が、対面する形で
きれいに並列する。
それぞれのボスは、列の中心にいた。
上半身・下半身 むきむきの鬼たちがにらみ合う、この異常な現状に、俺はどきどきしていた。
いや、筋肉にどきどきしているわけでは決してない。
俺は、それぞれのボスの数値にどきどきしている。
「どうしたんですか、恋したかのような顔をして」
ーーああ、今、俺は恋をした。
KUROのボスの「数」、1億3000万点
SIROのボスの「数」 、1億2000万点
やっぱり、収入も点数も高い方が良い。
~こいつらは、俺の好みだ。
KUROのボスが、口を開く。
「我らのボスが行方不明になって、数年が経つ。
それでも、我らはお前らをつぶすため、武力を集結してきた。そもそも、テストの点が高かったのは我らのボスが、お前らのボスより優れていることの証拠なのだ!」
武力を集結している。初めての情報だ。
それにしても、言葉は律儀だが、その圧力の声
は、どうにかならないのか。
すると、SIROのボスが、口を開いた。
「それは違うと思うが。きっと、お前のボスは、ずるをして、その結果になったのじゃない。ずると言えば、公平にと、俺らは「左国」の人力を、お前らは「右国」の人力を利用すると決めたはずだが、お前らはもっと人力をと「セ国」に金を送って、協力させようとしたらしいな」
「・・・・え」
どういうことだ。なぜ、「左国」?「右国」?俺らの国「セ国」?
KUROのボスが反論するかの勢いで放つ。
「お前らもそうだろ!神のプリティーおたく!」
「は、なんだと!神の落ちこぼれ!」
会話がヒートアップしたのか、悪魔と天使が
言い競いを始めた。
「全く、分からない」
逆に、円々姫とようきには、分かったらしい。
「神の言う通りだ」
「え、どういうことだ!」
「カンニング様、知らなかったのですか。戦争と宣言された鬼どもは、武力不足だったんですよ。
その解法として、「 人間 」を選んだ。」
人間が鬼の武器。
「SIRO KUROは、決められた国の
人間の脳をコントロールをし、支配下においた」
「なぜ、俺らの国までが」
「残念ですね、先輩。欲に満ちた SIRO
KUROが、我先にと、わいろや脳コントロール
やらで、セ国のうばい取りですよ。」
ーーーばかすぎる。テストの点数だけで
いや、待て、この仕事の意味は
「俺は、戦争のスパイか、テロリストなのか!」
すると、円々姫が俺をにらむ。呆れるような目で
「いえ、あなたは、スパイも、テロリストでも
ありません。ただの平凡です」
「は?」
次の瞬間、SIROのボスが動いた。
「セ国の件を、この拳の3戦勝負で決めよう
じゃないか!」
KUROのボスは、答えた。
「いいだろ」
ボス二人が、右拳を後ろにひく。
これで、この国の運命が決まってしまう。
ボス二人が同時に叫ぶ。拳を振り落とす。
「さいしょはぐー、じゃんけんぽん!」
SIROのボスは拳をにぎりしめ、KUROの
ボスは拳を広げた。
「ぐはははは!我の勝ちだ!」
「3回戦と言ったはずだ! もう一度だ」
俺の頭でプツプツと怒りが込み上げ、そして爆発した。
「俺らの国の運命をじゃんけんで決めるな!」
あんなに点数がばか高いのに、頭は子供か。
俺らの大統領は何をしている!
2回戦は、SIROのボスがパーを出し、KURO
のボスがグーを出して、SIROが勝った。
SIROのボスポー勝、KUROのボスが一勝。
次のじゃんけんで、この国が終わる!
気付いた時には、俺はこの部屋を出ていた。
「先輩!」「カンニング様!」
叫んだ二人の目には、鬼どもに向かって体育館を
走る俺が映っているはずだ。
月光と鬼どもの赤い目だけが照らす体育館を鬼どもに近づくにつれ、あの度外れな
数の匂いが体を覆う。
SIROとKUROのボスが拳を上げた。
ドキン
今、恐怖を感じた。巨大な手と巨大な数に
初めて恐怖を感じている。俺の鼓動が高まる。
でも、きっと
俺も拳を上げる。
鬼は、人間を見るのは、初めてだろう。
鬼は見た。小さな小さな闇の動物を。
カンニング様が走っている。 早く私もそこに!
「0点男 早くこの窓をあけろ!」
「あ、はい!」
鬼どもは、口を開く。
鬼も口を開く。
「さいしょはーー」
俺が鬼どもの前にじゃんけんの手を出した瞬間
頭上には、100を光らせる100円玉がいた。
「百金」
視界がぼやけた。
百金と言ったおぼえはない。でも、俺はなった。
そうではなければ、鬼があんなに目を見開くわけ
がない。あんなに開く時は、100円玉が顔になって
いる人間を見た時だけだ。
グー、グー、パー。
俺はまず、勝った。
じゃんけん界の最高のずる。さいしょはパー。
普通はグーをしている冒頭で、パーを出す
最低で最級の作戦。
「さすがです、先輩!」
賞賛の声。
「お前は、何者だ」
または脅える声。
俺は重い顔をSIROとKUROのボスに向ける。
「俺はカンニング様、凡人だ」
SIROのボスー勝KUROのボスー勝
飛びいり 参加、カンニング様一勝
「よし、延長戦を始めるぞ!」
俺は拳を構える。
さあ、次はどんな作戦を使おうかな。さっき
の作戦はばれるから、あのグー、チョキ、パーを
すべて含めるミラクルを出そうかな。
いや、だめだ。それでは、完璧のずるになる。
「お前、このじゃんけんの前に、家に帰りな」
そう言ったのは、KUROのボスだった。
「さっきのずる、見なかったことにしてやるから。
だって、お前はずるでしか勝てないのだろ」
円々姫と俺が合成している今、怒りなんて
甘い言葉だ。
あるのは、あって嬉しい「闇」だ。
ーー鬼の手を狩ってやる
ステージは、出来上がった。我に返った下っ端
たちのブーイングと闇に囲まれて。
俺は勝つ。
『さいしょはぐー、じゃんけんぽんッ!』
俺は、小指とくすり指を曲げ、左右逆のLの
形をつくった。なつかしい。わごむてっぽうと同
む手の形だ。
SIROのボスはチョキ、KUROのボスはグー
俺はー「銃」を、出した。
「その手は、なんだ」
「これは、銃だ。グーでも、パーでも、チョキでも
撃ち倒す最後のじゃんけん。もちろん、俺の勝ちだ!」
かけのつもりだった。鬼たちはばかで、
このばかげたじゃんけんを信じてくれる、と。
「お前ばかじゃないのか」
でも、無駄だった。
「そんな、ずる許せるはずがないだろ」
「お前には、このじゃんけんをする価値がない!」
鬼たちが怒り出した。
ーーー俺は、カンニングでしか勝てないんだよ。
しかし、次の瞬間、銃声が響いた。
その場にいた、誰もがそいつを見た。
そこには拳銃を屋上に向けた、0点男がいた。
「先輩のずるを認めろ」
「0点男は、言ってくれた。」
「なぜ、ずるを認めないといけないんだ!」
「お前らも ずるをしているだろ」
鬼の顔が一瞬、引きつった。
0点男の顔は、もはや、いつものように笑っていなかった。
「ずるをしたやつが、ずるを認めない社会があるか?」
「じゃあ、ずるかいいのかよ!」
鬼たちは、あの張りではなく おどおどしていた。
「先輩のずるは、真正直なずるだ」
「・・・!」
「でも、お前らのずるは、隠すずるだ」
やっぱり、0点男は化け物だ。
「さあ、うそつき君から、前に出な。」
0点男は、銃口を鬼に向けた。
・ ・ ・
「本当に殺さなくて良かったんですか、先輩」
「殺す必要がないからな」
出口に立っていた俺たちは、鬼の方を見る。
SIROのボス、KUROのボスを先頭に
鬼たちが並んでいた。
ただ、悪事に反省したのか、鬼たちは
静かに泣いていた。俺たちを見ていた。
きまずいな。でも、これだけは言わないと、ら
俺は、一歩前に出る。
そして、告白する。
「0点男はお前たちを殺す、つまりだった
らしが、やめてもらった」
俺はもう一度 目にする。
ボスの「数」を。
「なぜなら お前らの数が気にいったからだ」
この時の、俺の金属の顔は、熱を帯びていただろう。
SIROのボスが一勝、KUROのボスが一勝
カンニング様が2勝
この「セ国」は、俺のものになった。