お金売買②
「実は、この戦争の原因がな…」 「おっ」
「それがな・・・」
赤い日が俺ではなく、ほど遠い意識を見ている。
「言う気がないのか!」
もどかしくなり、俺はひつじに叫んだ。
傍聴者が俺とひつじに、
興味と恐怖が入り混じった複雑の目で見る
「・・テストだ」
ひつじの仮面の下から虫でもかみつぶすかのような声が聞こえた。
そして、ひつじはすべての苦痛を飲みこみ発言した。
「学校で、悪魔のテストの点数が天使のテストの点数よりも
高く、天使がそのことに怒り、戦争寸前。以上だ」
「以上だと!」
結果、俺に止めてもらいたい戦争は、ただのテストの争いか。
なにが戦争だ、なにが悪魔と天使だ。
「我らはこの戦争を止めるべき、くそな人間を探した。
そしたら、人間さんを見つけた。
カンニングとテスト、合理しているとは思わないかね。
もし戦争を止めることができたら、成功報酬として、
人間さんの口座に100億円を振り込むことを約束しよう」
うそだろ。
テストの点数争いを止めれば、俺は金持ちになれる!
何もしないで金をもらうのと同じことだ。
俺はそんな興奮を胸に押し込め、冷静を装う。
「いいだろ。このくそ人間が手を組んでやろう。
で、俺は何をすればいいのだ」
「戦争寸前のこの時期、重要人物の天使と悪魔が行方不明に
なった。そいつらを見つけ出し、もう一度、テストを行い、天使の点数を悪魔より高くしろ。 我々も、この世界でそいつらを探す。いいな」
俺は俺の世界~人間界で探せということか。その後は、
カンニングでなんとかなるだろう。
「いいぞ」
俺はひつじにうなずいた。
「取引成立だ」
「うぉ…」
すると、体が宙から切り離され、足が床についた。
だが、激しい目まいに襲われたのは、
それとほぼ同時だった。
「うっ・・」
俺は激しさのあまり、体を屈み込む。
上から天の声のように神々しい声が降る。
「人間さんの意識がたえれなくなっている。
「意識だと」
「ここに人間さんの意識を連れてくるために、
人間の欲の一つ、「金」を使わせてもらった。
これは、人間さんにわたす。」
天から伸ばされた手には、あの100円玉があった。
俺は目まいとの戦いの中、その100円玉を手に取る。
その後、俺は完全にめまいに包まれた。
俺の意識―俺自信が消えてゆく中で、
また神々しい声が降った。
「その途中に、トラックが突っこんできたのは、予想していなかったが、人間さんは死んでいないだろう。
きっと、100円玉が人間さんを守るため、そのトラックをぶっこわしているだろうからね。安心、安心」
目覚めたら、俺は車道に倒れていた。
「なんで、ここに」
俺は、立ち上がろうとした。しかし、俺の目の前に存在する鬼を立ち上がることなく、ただ眺めることしかできなかった。
すべての生命をあざ笑うような漆暴な二つの目、
肉を追い求めるような赤き口、
頭から伸びる命をつき差す鋭い角、
そして、額に描かれた「100」という数字。
シャツが描くボディーライン、そして、肌は人間の女性で、
こいつは、顔の「100」を除けば「角を生やした女性」だ。
その女性は、俺の前に向けてピストルの口を向けていた。
それは一秒前に何かを殺めたように怪しく輝いていた。
俺は、その方向を向く。
---きっと、これまでの時間は
地球の時空にとっては一秒ぐらいの価値しかないと思うが、
これは俺にとって---
その方向には、正面がへこんだ、
破壊したトラックが悲しみのようにぽつんとあった。
トラックの横からは、赤い液体がたれていた。
俺は数年前の―
いや、ほど遠い世界の神々しい声を思い出す。
俺の目の前の女性は、「100円玉」!
---狂いの始まりだった。
100円玉は俺を見下ろし、言った。
「おはようございます、カンニング様」
どこからか、サイレンの音が鳴り響く。
俺はいつの前にか走り出していた。
100円玉を手に、握りしめて。
俺の真夏の夕方に、あほらしい鬼火が上がった。