カンニング
私はあなたの先生としてずっとそばにいたかった。
なのに、あなたは
「つるきは国民と一緒に地下シェルターへと逃げろ」
なんて、力強いまなざしで言われた断れませんよ。
地下シェルターは明りがあるものの、
人でいっぱいだった。
オレンジ色の明りが悲しそうに点滅している。
「ねえ、この国には大丈夫なの」
この言葉は、たまたま視界に入った、
母にしがみつく
保育園児ぐらいの女の子のものだった。
「ねえ、大丈夫なの」
「きっと、大丈夫。このお国には強いのよ」
この光景を見て言ってやりたいと思った。
セ国には最高の問題児がいるから大丈夫と。
円々姫の姿をしたユメは姿勢を低くする。
俺は挙を前に出して言う。
「テストしないか」
「戦わないのか」
「そうだよ」
『テストを行い、天使の点数を悪魔よりも高くしろ』
それがこの戦争の終わり方だから。
「分かった。でも、」
ユメは俺の眼前まで近づいてきた。
「覚悟しろよ。問題は私が出す。」
俺の意識が、あざ笑う目に囚われそうになった。
真上にある縦長白惰円型天使の輪にも。
ユメは一瞬だけ笑い、俺から離れてゆく。その
一瞬の間に、テストは俺の前でぷかぷかと浮いていた。
「制限時間は10分。1問でも間違えたらセ国を崩す。」
「なんだって!」
「文句は言わない。はい、始め!」
計算外だ。天使の点数は悪魔の点数より
高いことを実感してもらうために、
ばかな解答をしようと思ったのに、
間違えたらセ国を崩すだって。
セ国か、終戦か。和平か、平和か。
これはもう、問題の内容による!
俺は隣にあった鉛筆を持ち、問題を読む。
問題は一つしかなかった。
なぜ、カンニングを始めた。
この問題なら、さっき予習した。
『なぜ、普通の君はカンニングをするのかな』
俺は答えを書く。この答えなら、
和平も、平和を実現できる。
「ユメ、出来たぞ」
手に持ったテストをユメに渡す。
―次の瞬間、俺は教室の中にいた。
「え」
俺の視線の先には、
小一ぐらいの男の子と女の子がいた。
「さいしょはぐー、ちょ」
男の子が言う。
「いいよ」
女の子が答える。
『さいしょはぐー、じゃんけんぽん!』
女の子はパー、
男の子はわごむてっぽうの時の手を出す。
「なに、その手ー。」
「これは、ジューだ。
ハハから、教えてもらったんだ。無敵の手だ!」
「なに、それ〜」
この皮肉の男の子は、子供の頃の俺だ。
じゃあ、この女の子は、ユメなのか。
こんな記憶すっかり忘れていた。
なら、この記憶はユメのものだ。
ユメの語りが始まった。
私はユメ。天使だってことを隠して、
人間が生きる世界で生きている。
こんな私には、能力がある。
相手の価値が数として見えるのだ。
すごいだろ!
「もう、一回戦ちよ」
今度は負けない!
「だって、この子の数は-15。マイナスは悪魔って証拠。
鏡ごしで見たけど私の数は、100。私の方が価値が高いはず!」
「いいえ」
でも、男の子は顔を横に振った。
「なんで」
「今度はテストの点で勝負だ。次の足し算、引き算で」
十・一・・あ、算数のことか。
「君をぼこぼこにしてあげる」
算数の授業、テスト中。
私は呆然としていた。
男の子が堂々と人のテストをカンニングしていたからだ。
私は何も言わなかった。
こんな人の点数なんて、低いからだ。
・・・と、思っていた。
「なんで」
男の子は、私に100点のテストを見せてきた。
「じゃーん、すごいだろ」
私のテストは80点。負けた,
でも、変だ。あいつはずるをしたんだぞ。
それに、価値は私の方が高い。
なのに、ずるで負けた。
「すごいじゃん!」「100点!」「頭いいな!」
「そうだろ」
人間たちが男の子のテストをほめる。
変だ、変だ、変だ、変だ。
あいつは、犯罪者なんだぞ。劣等者なんだぞ。
頭がごちゃごちゃになった途端に、
みんなの数が変化した。
「・・・あ」
0。闇みたいな0。
私が夜に何をやったのかはあまり覚えていない。
ただ、男の子の家族の一人を射殺していた。
数日後の私は、部屋の中で現実から逃げる
ようにうずくまっていた。
そんなユメの背中を俺は見ていた。
ユメの数が100から 0に変わっていた。
0はその人の闇を表すのか。
「もう、私は誰からも愛されない。
こんな、社会は嫌いだ。」
分かった。
分かってしまった。
俺が本当に倒すべき存在。
ユメをここまで苦しめた、
俺をこんな風にしたやつがいる。
ユメの能力を俺に与えたやつがいる。
こんなことになったのは、きっと偶然だ。
偶然だったから、ユメに言えた。
「俺が少し愛してやるよ」
「え」
子供のユメが振り向いた時には、俺はいなかった。
目覚めたら、ユメが泣いていた。
俺の解答用紙を持っている。
「私を愛してくれるの」
俺はテストにこう答えた。
ーーお前を守りたいと思ったから。
「ユメ、この戦争をやめよう!
この戦争は何も解決しない!」
ユメではなく、「0」に向かって叫ぶ。
ユメを苦しめているのは「0」だ。
だから、「数を見る能力」が本当の敵だ。
「・・・今さら、止められないよ、戦争は」
次の瞬間、セ国から爆発音と黒煙が上がった。
『警告。警告。セ国の右側面に爆弾が突撃されました。』
『こちら、ようき。
先輩、無意識たちが上陸してきました。
どうしましょう!・・・先輩?』
『こちら、レイ。こっちからも、上陸してきたぞ。
どうした、カンニング。黙りぽっなしだぞ』
俺は手を銃に組み変える。銃口を「0」に向ける。
「お前は、私を撃てるのか。」
腕が震える。
これは引き金がない。俺の決意が引き金だ。
だけど、躊躇している。
「撃てよ!撃てよ!撃てないのか。
お前は優しすぎる。」
それを音声で見守っていたようきは無意識たち
を抑えていた。
「先輩」
レイは無意識たちの上陸に呆然としていた。
「カンニング」
ーー俺は、俺は!
「撃ってみろよ!その弾丸を無にしてやる!」
「俺の弾丸は人を傷つけない!」
弾丸を放つ。
弾丸はユメの額の「100」を撃ち抜いた。
「え、なんで、ココ」
ユメは自分の額を指して、唖然としていた。
「0は、うそだ。本当の数はずっと顔にあったんだな、数を見る能力、いや、円々姫」
100がパキンと割れる。
額がただの額に戻ったとき、ユメは立ったまま、寝た。
ユメの能力を俺に与えたのは、円々姫だ。
100円玉で生き物をを作る時、
たまたま能力が移動したんだろう。
そいつが、俺と出会った。
「こちら、カンニング。無意識たちは意識を
取り戻すと思う。」
『人間たちが帰っていきます。艦船も、小型機も』
『こちらもだ』
「それは良かった」
「・・・君はカンニングじゃないよ。」
びっくりした。
寝ていると思ったユメは、起きていた。
でも、この声は
そうか、やっと会えた円々姫。
「君は人間だ」
「・・・」
「化け物の数は私が喰いついてあげる」
円々姫は俺に近づき、そして金属の頭をなでた。
「頑張ったね 由。そして、好きになった」
「俺も」
泣きそうになった。
「あ、そうだ。父の形見は使ったなら、私の形見も
使ってよ」
気付い時には、銃であった手も人間の手に戻っていた。
100円玉だった顔も俺の顔になっていた。
「え、あれ、なんで私、こんなところに」
ユメが目覚めたようだ。今いる状況が飲みこめず
顔をぷいぷい振っている。
ーーーあれ、手の中に何かある。
手の中を広げると100円玉があった。
「あれ 由、どうしたの」
最近の俺、泣き虫になったな。
「なんでもない。そうだ、一緒に飲まない?」
「いいね」
自動販売機で100円を使って、 コーヒーを買う。
ユメも同じく、コーヒーを買う。
購入している頃、俺を呼ぶ声が右側から聞こえた。
「先輩〜!僕も一緒に!」
左側からも。
「ユメの隣にいるなんて、ずるいぞ!由!」
ようきもレイも走ってきたのか、俺の足元
でひざを持って、息切れしていた。
「お前らも一緒にやるか、乾杯」
「やるぞ!」「へい」
二人ともコーヒーにする。
すると、ようきは何かを思いついた。
「そうだ、国民にも伝えなければ」
と、ようきは半分になった机を出す。
レイも出し、何とかして2つを合成する。
それを、俺らが囲み、缶コーヒーを乾杯する。
『平和に、乾杯! 』
それを聞いた国民は、地下シェルターで歓喜の涙を上げた。
マグタブを空け、コーヒーを飲む。
・・・・・にがい
数は見えなくなっていた。
代わりに、朝日が見える。