△ビンタ
5日目
「ご報告ごくろう、0点男」
ひつじは資料を片付けながら、0点男にそう言った。
0点男は嬉しそうに、にやけていた。
「悪魔のボスを確保できたのは嬉しいです」
「そうか。で、天使のボスは誰か見当がついているのか。
お前たちが戦う一方で、戦争による動きが悪化しているからな」
「見当はついているんですけど、先輩が接触を失敗してしまって」
ひつじはもう一度資料を見て、言う。
「今日はお前たちの学校で文化・体育祭じゃないか。
これに紛れて、天使のボスの証拠をつかんでこい」
「あ、そのことなんですけど、文化・体育祭に破壊神が出るみたいですよ」
「・・・え」
朝日で染まる玄関の前で俺は立っていた。
今日は嬉しぶりの学校。
昨日のユメとのデートは一度忘れて、学校に行くつもりだ。
いつものように制服のポケットには、100円玉が入っている。
でも、今日は一つだけいつもと違う。
背後に家族がいる。
100円玉を拾う前の俺と今の俺は、
何かが変わった気がする。環境も、感情も。
そうか、俺はーー化け物らしくなっているんだ。
俺は父の方に振り返り、一度も言えなかったことを言う。
「いってきます」
「いってらっしゃい」
今日は、楽しい文化・体育祭だ。
教室に着いて思い出した。俺たちのクラス
「1-A」より上の階は、爆発事故でぶっ飛んでからっぽだった。
そして、クラスメイトと呼ぶべき人間たちが俺を変んな目で見てきた。
あきらさまに、クラスメイトの様子がおかしい。それも男子たちが特に変だ。
ーーもしかして、俺が悪の変身ヒーローだとばれた。
そういえば、このクラスにはスパイのレイがいる。
レイが俺の正体を知っていて、皆に教えていてもおかしくない。
俺は助けを求めるため、ようきを探したが、教室にはいなかった。
次に、100円玉に触ったが、返事をしてくれない。
最終手段で、ユメを探したが、いなかった。
ーーー関係って、こんなものか…
一番疑うべき存在のレイが、席から立ち、俺の正面に立つ。レイの顔を見るのが怖い。ただ、見るしか方法がなかったので、見た。
レイの顔は歪んでいた。
そして、こいつの数である♡×100があった。
「作日、お前は俺のユメとどっか行っただろ!」
なんだ、そのことか。
自分の正体がばれてなくて、内心安心した。
レイがいつ、俺とユメが遊園地に行ったことを
知ったのかは知らないが、彼女が他の男といてもいいだろ?
ただ、レイにとってはかなりの問題だったらしい。
「なんでお前なんかが、ユメと・・・」
やっと、レイが言いたいことが分かった。
こいつは、ユメがこんなくそ人間と一緒にいた事実
に納得していないのだ。
おろかな。いや、俺とレイ、どっちがおろかなんだ。
俺は金と自分のためにユメと接しただけなのに。
「ユメはお前とのデートのほうが楽しいと言っていたよ」
間違いを正すつもりで言ってみた。
でもこの言葉は、ユメとデートに行ったことを事実
としてさらけ出していた。
だから、レイの顔が怒り出した。
「このくれ男ーーーッ!」
気付いたら、俺は床に倒れていた。
顔面がじんじんとしている。それに、とても痛い。
俺は人生で初めてレイに殴られたのだ。
レイは倒れている俺を見下だし、拳をつきつけたままだった。
ーーこれが殴られたってことなのか。本当に痛いんだな。
不幸中の幸いか、教室の扉が開かれた。
俺の下からの視線を受け取ったのは
ようきではなく、ユメだった。
「お前たち、何をやってるんだ」
レイはユメが現れた途端に、動揺した。
拳を背中の後ろに隠し、すぐに笑顔をつくった。
ただ、ユメはその動きを見逃すことはなかった。
「私の浮気相手を殴ったでしょ?」
「浮気相手だと!」
言うにしても、言葉が悪い。
というか、俺はいつまで倒れていればいいのか。
ユメはレイと俺の顔を見比べ、すごいことに、
現在の状況を理解したらしい。変な方向に。
「二人とも私が好きすぎて、けんかをしたんだな」
俺は話についていく気力もなくなって、
このまま倒れることを決意した。
そんな俺を置いてユメが提案してきた。
「そうだな、分かった。文化・体育祭のメインイベント
『学校走』に勝った人を私の彼氏にしてあげる」
なんと、レイはその提案に乗り、倒れている
俺にこう言ったのだ。
「お前が負けたら、一生、ユメに手を出すな!」
やっと、自分の出番が来たことを悟り、
俺は立ち上がって、言い返した。
「なら、レイが負けたら、天使のボスの正体を教えてもらおう!」
クラスメイトたちは意味が分からなかったようだが、
レイは覚悟をしたらしい。ユメの顔つきにも変化があった。
俺は、この勝負に勝つ。
ただ一つ、問題があった。
学校走って、なんだ。
教室にいなかったようきは、運動場で視察をしていた。
「破壊神は見つかりませんね」
後になって知ったのだが、文化・体育祭は体育館で文化祭を、
運動場で体育祭を同時に行う祭だ。
体育派と文化派に分かれて、文化・体育祭を盛り上げたら勝ち。
今回はクラスではなく、個人的に体育派か文化派かが決めれるのだ。
「学校走の準備はすごいですね」
学校走は、学校のプールを泳いで、運動場を一周してゴールをする。
リク氏とナイ氏が協力して立ち上げたプロセスであって、かなりの過度な競技だ。プールと学校の間に被服室が設置、運動場で蚊がたくさん飛んでいる。
「そろそろ教室に戻りますかね」
ようきは教室に戻る途中で、うわさ話を聞いたらしい。
「リクとカンニングが、学校走にチャレンジする
みたいだぜ。でも問題は、面接だろうよ。
学校走にふさわしい人材かを確認するための面接なのに、
相手がレイ氏とナイ氏ではな。 何十人の優等生が面接に落ちたか・・」
うわさ通りに、俺たちは面接の真っただ中だった。
俺は人生で初めて緊張していた。
机を挟んで前にいるのは、
筋肉・さわやか男のリク氏と
髪染めソロギター男のナイ氏がいる。
二人とも個性豊かな三年生のボスだ。
そいつらは俺とレイを見ている。
リク氏が口を開く。
「今から面接を始める」