乗りまかせ
幕開け
特報です。
解放されたと思われた右国と左国で
したが、新たな支配者によって両国とも
支配されました。我が「セ国」も統一する方針です。
髭面の男、大統領は呆然として、テレビを消した。
「おい、息子よ何をした!」
突然、スマホが鳥り響く。
「はい、大統領だ。ああ、つるきか。
なに、俺がやつの父だと、本人にばれただと。
まあ、計画通りだな。
他には? ・・・え、由が子供の死神と
接触しただと。それに、その死神たち
が新たな支配者かもしれないだと」
俺は、ユメとの集合場所である駅で
待っていた。そう、今日は強敵であろう
ユメとのデート(接触)なのだ。
日光がまぶしいと感じ始めた頃、ユメが
現れた。急いだのだろう。汗が出ている。
「ごめん、遅れた」
「大丈夫。お前のことなら、いつまでも待てる」
言葉一つがユメとの交友関係をつくる。
集中しなければ。
このデートに、100億円と俺の人生がかかっている。
「カンニング君、遊園地に行こう!」
ホームに行くユメの背中を俺は追いかける。
「実は俺には他の仕事があった。
でも、円々姫とつるきに任せた。
・・・
ここが政治の中心か、大きいな。
そして、壁が真っ白だな。
私たちはセ国の大統領官邸の前に
いた。カンニング様の父がいる場所。
カンニング様がデートしている間、
私たちは大統領を誘拐する。
でも、そこまで乗り気ではない。
だって、デートに行くカンニング様は
かなり浮かれていたからだ。
「カンニング様は大統領を殺したい
らしいから、生かせたまま持っていくぞ。」
「分かってますって!でも、円々姫、
ふてくされていますね。いや、金だからさびですかね?」
私は小虫を見るような冷酷な目を
0点男に向ける。
「マイナス以下にするぞ」
小さな風が、私たちを叩く。
12時30分、セ国初ビック遊園地
俺たちが初めに乗ったのは
ジェットコースターだった。
「夢の旅にいってらっしゃいーー!!
スタッフのかけ声と同時に、ジェット
コースターが発進する。
ただ、ガタゴトゆれるだけなのに
ユメは興奮している。
ジェットコースターも俺と同じだな。
初めは、わくわくするが 本性を
出すと叫ばれる。
「キャ!」
突然 ジェットコースターが上昇する。
暗い視界が晴れ、無造作な
くねくねの道が現れる。
本性が出る。
次の瞬間、視界が落ちる
「キャャャーーーッ!」
降下の次は一回転。
体が座席から浮く。
「アァァァーーー!」
そして右寄りの上昇カーブ。
「オォォォーーーッ!」
ユメの叫びは、思っていたより
ばかげていた。
たしかに、この腹が苦しくて、
景色が上下左右する状況で
叫びたくなるのは分かる。
でも、俺は
「・・・座われない」
なんで、こんなフカフカな席に
ゆっくりと座わらせてくれないんだよ!
このジェットコースターめか!
回転や降下によって
席が体から離れるのが、どうしても腹立って
不快だった。
「こうなったら…」
俺は尻に全力を加え、どんどん
席に近づかせていく。
尻が席に触れた瞬間、俺の
体は感動に満ちた。
「なんて、フカフカなんだ!」
さあ、クライマックスだ。
直角に限りなく近づけた、
急降下。
「この状態を保ってやる!」
しかし 降下した同時、体は
悲しくも軽々と浮いた。
「なんでだよ!」
そんな声は、隣の叫びできえていった。
「ギャャャャアアアオォォォガァァァーーーッ!」
次に俺たちが乗ったのは、バイキングだった。
船をモデルとしたこの乗り物に
乗ると俺でも、少しわくわくする。
だって、今回はゆっくりと座れるから。
持ち物は自分の足元に置いてください。
「では、船の旅にいってらっしゃい!」
バイキングがゆっくりと上下する。
ユメはまだ、興奮していない。
しかし、本番はここからだ。鉄骨の揺れ
が大きく、大きくなっていく。
船は、あらしに突っ込んでいく。
「ギャ!」
ユメというやつは、どうしても興奮する人間
なんだな。
こんなのブランコの大きいバージョンだ。
そんな船の中、俺の額を白い物体が
通り過ぎる。
「あ、私の帽子か」
一枚の板をへだてた、対面に座る女性が
手を伸ばす。
白い帽子は、上へと飛んでいく。
ーーあの帽子は高級ブランドのか!
俺は席から立ち上がる
「え、カンニング 君」
「帽子をもらいに行ってくる」
俺は帽子の方に体を向け、走る。
「オォォォォォーーー!」
上に上る前の甲板を足全体で感じ
ながら、帽子を追う。船のそりが波
みたいだ。大きな波を足でサーフィンしている。
俺は。
背中に突風が起こる。
「いける!・・化け物だからか」
俺は甲板をけり、跳躍する。
太陽と俺のシルエットが重なる。
白い帽子を優しく抱えこむ。
急降下するバイキングに、俺は着地する。
俺は、帽子を女性に差し出す。
「はい、どうぞ。女性用だから、いらない」
「あ、ありがとう」
感謝される反面、内心、あせっていた。
ーー俺、自分勝手のことしかしてない!
でも、自分勝手の旅は、まだ続いた。
コーヒーカップに乗る時、「コーヒー」という
のだから無料でコーヒーを飲めるのかと信
じていた俺は、真実を知って、さわいでしまった。
メリーゴーランドでは、走る馬に
乗れると思っていたら、ただ回転する
馬の造形に乗るアトラクションだった。
走れ走れと念じて、造形を叩いて
ぶっ壊してしまったのは、反省だ。
一つだけ、くびから上が存在しない馬を
つくってしまったのだから。
気付いた時には、俺はユメのことを
忘れて、遊園地を楽しんでいた。
それに気付いたのは、ユメの一言だった。
「カンニング君とのデートは楽しくないや」
「え」
意外だった。あんなに叩いていたのに。
「だって、君のジェットコースタの感想
は、席がフワフワだったでしょ。バイキング
では、帽子がほしかった、コーヒーカップは
コーヒー飲みたかった、メリーゴーランド
は、馬って怖いんだな。
ーー会話が成立しないんだよ!」
ユメのこと、完璧に忘れていた。
「レイとのデートのほうが楽しいわ」
もしかして、俺はユメに見下されている。
「・・・あ、あ」
見たくないものが、見えてしまった。
ユメの数、「0」。
0は、 俺を飲い込むように大きくなっていく。
今の俺が言えることは、一つだ。
デートって、怖いな。