古物 アンゲルス・ノーヴス
「どう?それ」
どう、というのは紅茶の味について。
この紅茶は、この店の主人である「マスター」お手製のブレンドだ。
今日のブレンド名は「印度の真珠」らしい。そういった名前も、マスターがその時そのときのインスピレーションでつけている。
「とっても美味しいわ。深みがあって」
「僕はこれを飲むと、真っ赤な海に落ちる夕焼けをイメージするんだ」
「だったら真珠ではなく、夕焼けという名前にしたら?」
「いやでも、僕のイメージ的には真珠なんだよね」
独特の感性をもつマスターは、ちょっと変わっている。
いや、ちょっとどころではないかもしれない。かなりの、だ。
しかし、そんな店に通い詰めて、何を買うわけでもなく出された飲み物をのみ、雑談をしている私も変わり者であると自覚している。
「今日は、元気ね」
マスターから視線を外し、店の中を目を細めて見渡す。
すると、なんとなく何かが動いているような気配が見える。見えるというか、分かるというか。
いわゆる目に見えない存在……霊とかお化けとか妖精とか、そういうものを感じ取ることができるのだ。私とマスターは。
「何か知らんけどね。今日は魚型だね」
「たしかに水の気配がするわ」
「どちらかというとうちに来るのは龍型が多いんだけどな。なんか来訪者でもくるのかな」
他人事のように呟きながら、マスターは事務仕事から手を放さない。
そんなマスターの話を聞きながら、その「魚型」がいるあたりをじっと見つめる。
ここ<古物 アンゲルス・ノーヴス>を経営するマスターは、簡単にいうと「魔術師」であり、私はたまにいる「視える、感じる」タイプの人間である。
この店の中で起きることや、会話の内容は、現代の世間での常識とはちょっと、というかかなり……かけ離れたものが多いのだ。