17 ―雨の篭城。そして慕情―
「ああ、そうか。それならいいんだ」
俺はできるだけ平静を装い、言った。
「それにしてもお前ら、そんなに仲良かったっけ?」
金山が、俺と岡本さんの顔を交互に見る。
「今日急ぐって言ってたのも、岡本と会うためだったのか?」
「い、いや……。それは違うけど」
「ま、いいか」
そう言って金山は、坊主頭をポリポリと掻いた。「じゃ、そろそろ帰ろうぜ」
「ん、分かった」
金山に促され、岡本さんが椅子から立ち上がる。
「じゃあ俺らは先に帰るわ。また明日な」
「あ、ああ」
金山がいち早く廊下へ出た後、岡本さんが小声で聞いてきた。
「どうだった? 藤崎さん、いた?」
「あ、ああ。なんとかメルアドゲットできた」
「へー。良かったじゃない。じゃ、またね」
俺に向かって小さく手を振り、岡本さんも金山を追って図書室を出た。ピシャッ、とドアを閉められ一人きりになると、どうしようもない疎外感に襲われた。
俺はすぐに下校することはせず、図書室の一席でぼんやりと考えごとをしていた。
さすがに相合傘はまずいかなと考え、自分の傘を岡本さんに貸すつもりだった。確かに俺が濡れるのは困るが、今日に限ってはそれほど苦ではなかったはずだ。
しかし、彼らはおそらく相合傘で帰るのだろう。二人がどこから学校に通っているのかは知らないが、ひょっとしたら近所同士なのかもしれない。
俺は先ほど藤崎さんに貰った紙切れを鞄から出した。そこに並ぶ英数字を見ながら、彼女の顔を思いだす。
喉から手が出るほど欲しかった彼女のメルアドも、おそらく金山はとっくに入手しているのだろう。しかも至極あっさりと。
結局このメルアドを入手したことで、俺はようやくスタートラインに立てただけなのかもしれない。だが……。
それで構わない、と思った。
今に見てろ。絶対に藤崎さんを振り向かせてやる。
俺は携帯を取りだし、慣れない手つきで彼女のメルアドを打ち込み始めた。
<件名>
渡辺です。
<本文>
今日は凄い土砂降りだったけど、無事に帰れた?
野球部はそろそろ夏の大会に向けての練習を本格化させないといけないだろうから、雨は天敵だね。
藤崎さんもマネージャー業務頑張ってください。
PS
ちゃんと届いたかな?
メルアド面白いね(笑)
家に帰り着いてからも、俺は携帯を肌身離さず持ち、彼女の返信を待った。しかし、一向に携帯が鳴りだす気配はない。もう今日は返ってこないのか、と落胆しかけた午後十時半、ようやく彼女からのメールが届いた。
<件名>
メールありがとう(≧△≦*)/
<本文>
届いたよ~。登録しとくね♪
……。
うん。まあ、こんなものだろう。