15 ―エスパー少女にイジられて―
「図星みたい。あはは」
女子生徒がころころ、と笑う。髪をうっすら茶色に染めており、肌がとても白い。なんとなく大人っぽい雰囲気の子だ。休み時間に藤崎さんと一緒にいるところを、何度か見かけたことがある。
「やめなよー」
藤崎さんが友人をたしなめる。しかし、彼女も楽しくて仕方のない、といった表情である。
「け、仮病って」
動揺を抑えきれず、声が上擦った。「なんでだよ。本当に咳が止まらなかったんだぞ」
「あはは。うがいしただけでピッタリ止まったじゃん。下手な芝居しないで、始めから『会いに来た』って言えばいいのに」
「あ、会いに……って」
戦慄が走る。俺の藤崎さんに対する恋心まで見抜いているというのか。ひょっとして彼女はエスパーなのだろうか。
「もう! ごめんね、渡辺くん。この子調子に乗りやすくって」
苦笑しながら謝る藤崎さん。いったい彼女はどうゆう心境なのだろう。
「でも、実際元気そうだよね」
もう一人の女子生徒が言う。おかっぱ頭で、赤い縁の眼鏡をかけている。ちなみに、彼女は初見である。
「いや、本当に……」
俺が更に言い訳しようと口を開いた瞬間、デスクから「うるさい!」と怒鳴り声が響いた。口を閉じ、驚いて振り向くと、そこに、鬼のような形相でこちらを睨みつける木下先生の姿があった。騒いでいた三人の女子生徒もピタリと静かになる。
「騒ぐんなら出て行きなさい。特に河岸! くだらないことばっか言ってないで、ちょっとは勉強でもすれば?」
「はーい」
茶髪のエスパー少女、河岸さんが、ふてくされた表情で返事をする。
気まずい沈黙。棚の上のデジタル時計は、まもなく五時を表示しようとしていた。
結局いたたまれなくなった俺たちは、保健室を出て昇降口に向かい始めた。
「あーあ、怒られちゃった」
河岸さんが、片手で髪の毛を整えながら言う。
「悪かったね、渡辺くん。ちょっと調子に乗りすぎたわ」
「え?」
素っ頓狂な声を上げる俺。
「さっきね。先生とそんな話してたの。最近、わざわざ仮病を使って先生に会いに来る男子生徒がいるんだって」
藤崎さんが補足する。
なるほど。『会いに来た』とは、先生に、という意味だったのか。俺の恋心が見抜かれていたわけじゃなかったらしい。良かった。
「私たちみたいに堂々と遊びに行けばいいのにさ。マジ笑えるんだけど」
茶髪のエスパー少女改め、ただの茶髪少女、河岸さんはそう言いながら、またあはは、と笑った。テンションの高い娘だ。
「その、先生に恋焦がれる男子生徒が俺だと思ったわけ?」
「冗談よ、ほんの冗談。だって私たち、それが誰だか知ってるし。ねえ?」
三人の女子生徒たちは、顔を見合わせ同調した。
一体誰なんだろう。
昇降口に着いて、外の様子を眺める。雨はいつの間にか、かなりの土砂降りになっていた。
「うわ、空真っ暗だよ」
眼鏡の少女が傘をパッ、と開きながら言う。彼女は池田さんという名前らしい。俺や藤崎さんたちも、それぞれ傘を広げて昇降口を出た。
「渡辺くんは駅?」
正門の前まで歩いたところで、藤崎さんが上目づかいで尋ねてきた。
うーむ、たまらない表情だ。
「え? ああ、そうだけど」
「そっか」
彼女が残念そうにうつむく。「じゃあ、ここでバイバイだね」
……そんな。