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脇役だって恋したい  作者: 夏のラジオ
第一章 ―奮闘―
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12 ―彼は大きな武器を手にした―

「ただいま」

 駅からずっと走ってきたため、俺は息を切らしながら、玄関の扉を開いた。

 結局六時過ぎには帰宅することができた。

 雨が弱まったのを知らせてくれたのは、意外にも金山であった。岡本さんの携帯に、彼からメールが届いたのだ。

「雨が弱くなったから校庭十周して帰るんだって」

 二人は同時に窓の外を見る。確かに、天候は小雨程度にまで回復していた。

「本当に練習馬鹿だよね。今まで何してたんだろう」

 教室で筋トレをしていた、という情報をわざわざ彼女に知らせることもないな、と思い、黙っていた。

 それから彼女は、練習馬鹿こと金山の様子を見に、グラウンドへと向かった。それを見て、なんとなく取り残された気分になるも、再び雨が強まらないうちに、俺は急いで帰路についたのだった。


 濡れた制服から、私服に着替えて居間に行くと、母が寝転んでテレビを見ていた。

「遅かったわね。どこかで雨宿りしてたの?」

 俺が傘を忘れたことに気づいていたらしい。

「学校でちょっとね……」

 そう言いながらソファーに座る。「あのさ母さん。俺、携帯欲しいんだけど」

「え?」

 驚いたような顔つきで、俺に目を向ける母。「変なの。今まで、携帯なんて興味なさそうにしてたくせに」

「いや、この先必要かなと思ってさ。ほら友達とかもみんな持ってるし」

 岡本さんにメルアドの交換を提案された時から、ずっと考えていたことだ。当初は、彼女への恋愛相談の為だけに携帯を持つのもどうかと思ったが、よく考えてみれば、藤崎さんにメルアドや携帯番号を聞かれないとも限らないじゃないか。

「まあ、あんたも携帯ぐらいは持っておいて損はしないか。よし、近いうち付き合ってやるわ」

 母の承諾を得て、ひと安心する。なんだか、俺の恋が一歩前進したような気がした。


 それから五日が経過した。一昨日、昨日と晴れたが、今日は一時限目の最中から、細かい雨が降りだした。

「メルアド教えとくわ」

 二時限目終了後。いつもの様に、俺の席へやってきた金山に、メルアドを書いたメモを渡す。

「お? お前もやっと携帯買ったのか? すげえな最新機種じゃん!」

「まあね。まだ上手く使いこなせてないけど」

 昨日ようやく、母に連れられ携帯ショップへ赴き、店員に薦められるがまま、最新のワンセグ携帯を購入したのだ。

「ちょっと待ってろ」

 金山はそう言ってポケットから携帯を取りだし、メモを見ながら、馴れた手つきで文字を打ち始めた。「よし。俺のアドレス届いただろ? 登録しとけよ」

 少し間を置いてピロリーン、と俺の携帯の着信音が鳴る。

「お、鳴った!」

「馬鹿! バイブにしとけよ。先公に見つかったら没収だぞ」

 そうだった。

 俺は、慌てて携帯を開く。

「なあ」

「あん?」

 金山が眉をひそめた。

「どうやったらバイブになるんだ?」


 何はともあれ、俺も携帯を入手することができた。

 差し当たっての目標は、藤崎さんとのメルアド交換だ。その為にも、いい加減彼女に話しかけなければならない。

 昼休み……? いや、昼休み、彼女はいつも教室内で友達と雑談している。そんな中、彼女を呼びだす、などという勇気が俺にあるはずがない。

 放課後だ。放課後しかない。

 今日も野球部の練習は雨天中止だろうし、話しかけるチャンスはきっとあるはずだ。

 キーンコーンカーンコーン。

 三時限目開始を告げるチャイムを聞きながら、俺は密かに燃えていた。

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