表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
脇役だって恋したい  作者: 夏のラジオ
第一章 ―奮闘―
11/74

9 ―一人きりのランチタイム―

 それからも俺は、毎日野球部の練習を見学し続けた。しかし藤崎さんと会話するチャンスはなく、そもそも彼女は自分を見つめる俺の存在に、全く気づいてはいない。

 なんだか空しくなってきた。今日はグラウンドへ寄らず真っ直ぐ家に帰ろうか。

 そんなことを考えながら、俺は黙々とじゃりパンを食べていた。

 昼休みの教室。多くの生徒たちはグループを作り、談笑しながら昼食をとっている。一人きりなのは俺の他に二、三人程度しかいない。


 十分ほど前のことだ。俺が購買部でパンを買い、戻ってくると、教室の前に千代田さんと岡本さんが立っていた。

「どうしたの?」

 無視もできないので声をかける。すると二人は俺を見てハッ、とした顔になった。どうやら、俺のことを忘れてはいなかったようだ。

「あのー、金山くんを呼んでくれません?」

 千代田さんが俺に上目づかいで依頼する。距離が近かったので、少しドキッとした。

「えー、どうしようかな?」

 お近づきの印に、ちょっとからかってみよう。

「ちょっと急ぐので……」

 真顔で一蹴された。岡本さんに至っては、冷たい目で俺を睨みつけている。

 俺が何か悪いことをしたか?

 仕方なく、窓際の席で幸田と話し込んでいた金山に、二人の存在を知らせる。三人で何を話していたのかは知らないが、どうやら一緒に昼食をとることになったらしく、金山は弁当を持って、彼女たちとどこかへ消えてしまった。


 おかげで今日は一人のランチタイムだ。こういったことは初めてではなく、改めて金山の無神経さに呆れてしまう。しかし『俺はお前しか友達いないんだから、俺と一緒に昼飯を食え』とは言えず、泣き寝入りするしかない。

 結局、昼食の後の長い昼休みも一人で過ごした。過ごした、といっても自分の席で寝たフリをしていただけなのだが。


 その日の放課後、俺は金山に昼休みのことを尋ねてみた。

「あのな、五組の田中っていう、野球部の奴なんだけどさ。そいつが昨日藤崎にコクったらしいのよ」

「え!?」

 一瞬頭の中が真っ白になる。「そ、それで?」

「いや、撃沈よ撃沈。暗い奴でさー。身の程をわきまえろ、って話。そいつコクった時泣いてたんだってよ。もう藤崎ドン引き! それ聞いてマジで笑ったよ」

 俺も聞きながら笑ってみせたが、どうも素直に楽しめる話じゃなかった。明日の我が身のようにも思えてしまう。

「そういえば藤崎さんって伊藤先輩と付き合ってるんじゃないの?」

 念のために聞いてみた。

「ああ、あれデマだったわ。やっぱり藤崎はフリーだって。田中もそれを知って喜んでコクったんだろうな、馬鹿な奴だぜ全く」

 田中という生徒がますます自分に重なる。もし俺が藤崎さんに告白して撃沈したら、同じように彼らの笑いのネタにされてしまうだろうか?


 話も一段落し、俺たちは無言になる。金山は机に肘をつき、ぼーっと窓の外、空を見上げていた。

「練習、大丈夫かな……」

 彼がポツリと呟く。「いつ降ってもおかしくねえな」

 俺も彼の視線をたどる。空は薄暗く曇っていた。

「そうだな」

 季節は静かに梅雨を迎えようとしていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ