第二話 魔王と部下は出会う
久しぶりの依頼から数日後、私は今、ジェドと一緒に依頼を受けている。
私が何故一度だけ受けるはずだった依頼をもう一度受けているのかというと……
「ねえリディエル、もう一度依頼を受けてみない…?」
ジェドは私にそう言ってくるけど、私はお金だけはあるし、適当に過ごしていたかった。
「受けません…! 一度だけって約束だったじゃないですか!」
私がジェドにそう言っても、ジェドは諦めない。
「そう言わずにさぁ……! それに僕、お金稼がないといけないんだよ。だから、ね?」
「なんで稼がないといけないんですか?」
ジェドがお金を稼がなければいけない。私はその理由が分からなかった。魔王だからお金は持ってるんじゃないの…?
「ここって色々なもの売ってるじゃん? けどここのお金を持ってないから買えないんだよね…」
「何を買いたいの? 買えるものなら買ってあげるけど…」
正直依頼は受けたくない。外に出るのはちょっとしんどいし、ただ引きこもっていたかったから、買えるものならなんでも買おうと思っていた。
「家欲しいんだよね……」
「家!?」
いや、家ですか!?めっちゃお金必要なんですけど!というかなんで急に!?
「いや、なんで…?」
「リディエルの家って森の奥だからちょっと不便じゃない? だから街の方で家を買ってそっちで一緒に暮らさないかなって……」
え!?私も一緒に住むの!?いや、不便だけども!別に私はそれでいいんだよ…!気にしなくていいんだよ…!
「私は別にこのままでも……」
「そっか……じゃあ、僕一人で行ってくるよ!」
え、それはそれで困る気がする。ジェドを一人になんてしたら竜の鱗を大量に持ってきたりしかねない…!
「それはダメ! あ、えっと…私も行くから!」
「リディエル…! 僕の事を想ってくれたんだね…!」
そういうつもりじゃないけど…!なんかもうそれでいいや…!
という事があり、こうして依頼を受けている。
依頼内容はダンジョンの調査。
ダンジョンは基本的に五層で構成されているのだが定期的に構造が変わるため、調査依頼が出されている。
そしてその調査依頼を引き受けたと言うわけだ。
「これでこの層は終わりっぽいね」
「スライムと…ゴブリンだけか、出会ったのは」
どの層でどのモンスターが出るのか、どの構造をしているのかちゃんと記録をしておかなければいけない上に、危険なので基本的に受ける人は少ない。
「この調子なら家も簡単に買えるかも…!」
「ジェド! ちゃんと警戒して!」
ただその分報酬も多いので五層全てを調査すればなんとか家は買えるくらいには貰えるため、ジェドと私はダンジョン全てを調査しようとしているのだ。
「あ! リディエル!? こっち宝箱あるよ!」
「え!? 本当!?」
ダンジョンにのみ生成される宝箱、その中身は防具や武器の素材に使える鉱石がほとんどで、稀に宝石が入っているが、そもそも宝箱自体が滅多に生成されないので基本手に入らない。
宝箱を開けると、中にはミスリル鉱石が入っていた
「鉱石は高く売れるよ…!」
「そうなんだ…僕の方じゃその辺にありそうな石にしか見えないけど…」
魔族の住む場所はミスリル鉱石がその辺にあるの…!?普通に羨ましいんだけど…!
「なんか思ってたよりも簡単だね…スライムとかゴブリンしか出てこないし…ダンジョンってこんなものなの?」
「いや……ここまで来たら他のモンスターも出るはずなんだけど……」
私達はすでに最下層である五層目にいるのだが、何故かスライムやゴブリンしかいない。
本来であれば三層からはゴブリンではなくオークが出てくるはずなのだが、オークがいる気配すらなかった。
「終わっちゃった………」
何事もなくただ進んでいると、道はここで終わっていた。
「あれ…?私どこか見落としたのかな…?」
「僕の力で確認したけど特に道はなかったよ」
ジェドとそんな話をしている時だった。
「まぁ…面倒なやつはいたけど」
ジェドがそういうと、突然後ろから謎の衝撃が飛んでくる。
衝撃がする方を向くと、さっきまで隣にいたはずのジェドと、謎の魔族が戦っていた。
「どうしたジェイド……!不意打ちをしておいてこのザマか…!」
「ま、魔王様!? 何故ここに!? そして何故人を庇うのです!?」
気づけなかった…! いくら戦闘をしてこなかったとはいえここまで至近距離にいた魔族に気づけないなんて……!しかもこの前家の前で私を襲ってきた奴と同じ奴だ…!
私を襲ってきた魔族は、全身は骨だけだが、その全身からはとてつもないオーラが放たれている。
その魔族は、スケルトンキングと呼ばれる魔族で、過去に街を三つ滅ぼしたとも言われている魔族だった。
しかし、私が状況を飲み込んでいる間に、既に戦いは終わっていた。
ジェドがスケルトンキングを土下座させ、その頭を踏んでいる。
「大変申し訳ありませんでした!! 魔王様!! まさか魔王様の伴侶とは…!」
「リディエルの美貌を見ても気づけなかったのか…? 貴様は見る目がないようだな…!」
まあ実際その魔族目ないし…!骨しか残ってないし!
「大変美貌ではありましたが…! 私は骨しかない故魔王様とは好みの女性が違ったのです…!」
スケルトンキングって好みの女性とかあるの!?っていうかそもそも性別の概念残ってるの…?
「はぁ……貴様は僕と名前が似ているくせに、考えは全然似ないな」
ジェドは苛立っているようで、更にスケルトンキングを強く踏みつける。
「魔王様!! これ以上強く踏まれるとヒビが!!骨が割れる!!」
「一回割っておいた方がいいんじゃないか…? 何…もとより骨しかないんだ…! 一個くらい割れても困らんだろう…!」
「頭が割れたら死んでしまいます!! どうかご許しをぉぉぉ!!」
「ジェド!! 流石にやめてあげて!!」
「はぁ!? でもこいつは…」
「私は無事だったんだから! ね!?」
「リディエルがそう言うんならいいけどさ…! 次同じ事してみろ…頭の骨を粉すら残さず消してやるよ…」
ジェドはそうスケルトンキングに言うと、ようやく踏んでいた足を退ける。
「しかし何故魔王様とリディエル様がここに……?」
「貴様がリディエルの名前を言うのは気に食わないけど、まあいいや。少し欲しいものができてね、金を手に入れるためにこのダンジョンの調査をしていたんだ」
「あの…オークとかが出現しなかったのはもしかして…」
「はい、私が原因でしょう。ダンジョンで潜伏をし、冒険者がやってきた所を殺そうと思っていたのですがその際にオーク等が襲ってきたので跡形も残らず消してやりました! 魔王様!」
「そっか…人を殺そうとしたと言ったが……それは平和条約を結んだ僕に逆らうと言うことかな…?」
「そういう訳では! むしろ私は魔王様の味方です! もとより人類との戦いで我々魔族も消耗していました。なんとか耐えてはいたものの…いずれ大きな損害が我々を襲っていたでしょう…」
「しかしながら…魔王様の英断をよく思わぬ者も現れたのです。エレーナとディールを筆頭に人類との戦争を望む対立派と、私とリーラ含めた平和派で対立が起きてしまい…平和派は魔界から離れ人類と暮らす事を選択したのですが…」
「お前は暮らす場所が見つからなかったと……」
「はい……更に、過去に私が起こした侵略事件のこともあり人類と住む事が出来なかったのです。」
「なら僕のとこに住め、お前の今の状況は僕が引き起こしてしまった事だしな」
え!?こんな怖い見た目の人と一緒に住むの嫌なんだけど!なんか寝てる時に首取られそうで寝れなくなるんだけど!
「しかしリディエル様はよろしいのですか…?」
「リディエルは森の方の家で暮らせばいいよ。転移魔法でいつでも会えるし、僕達は新しく家を買ってそっちで暮らせばいいから、気にしないで」
一人で暮らせるのはいいんだけど……ジェドを見張っておかないと何するか分からないしなぁ……
それに対立してるなんて言葉も聞こえてきたし、一人でいるのも怖いんだよね……
「私も一緒に住む…! 一人でいるのちょっと怖いし…スケルトンさんが私を襲わないと約束したらだけど……!」
「ジェイド! リディエルは僕だけのものだからな!」
「魔王様の伴侶を襲うほど私は馬鹿ではありませんからご安心を…!」
なんかもうジェドの伴侶として話が通ってしまっている……!後で誤解を解いておかないと……!
無事にダンジョンの調査を終えた私達は、街に家を買い、新たにスケルトンキングのジェイドさんを加えて三人?一人と二魔?で暮らす事になったけど、大丈夫なんだろうか……?
ジェドは苛立つとジェイドの頭をよく踏んでいます。
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