第一話 元人類最強と魔族最強
私の名前はリディエル
昨日、魔族に襲われて死を覚悟していたら、魔王様に一目惚れをされたみたいです。
そして今、その魔王様が何故か隣で一緒に寝ていました。
「あ、起きた? おはようリディエル」
「え…!?何で隣で寝てるんですか!?」
「朝会いにきたら寝てたんだもん、だから起きるの待ってたの」
魔王様は私にそう言って微笑んでくる。
いや、そもそも何で私の名前を知ってるの!?私はまだ教えてないはずなのに…!
「何で私の名前を…?」
「リディエルが飾ってあるトロフィーに書いてあったよ、リディエルは強いんだね」
私は昔、定期的に行われる冒険者同士で戦う大会に出場し、そして優勝した。
その大会に優勝してから人類最強なんて呼ばれるようになったんだっけ……
けど今は人類最強でも何でもない、私はただの引きこもりだ。
それに魔王に強いなんて言われても何も嬉しくない、何も出来ない私に強いなんて言葉は似合わないし……
「あ、僕の名前って教えてないよね? 僕の名前はジェド。43代目の魔王で、種族は吸血鬼。ほら、見てよこの牙」
ジェドはそう言って大きく口を開き牙を見せつけてくる。
確かに牙はあるけど……正直左目が気になって仕方がない…!
ジェドは牙を見せつけてくるけど、私はそれ以上に左目が気になっていた。
私自身の手で木の枝を突き刺した左目は、今でこそ何も無かったようになっているが、それも私にとっては不安だった。
「その…魔王様…?左目のこ…」
「ジェドでいいよ」
「いや…でもそれは…!」
「ジェドと呼べ!」
ジェドは怒った表情を私に見せてくる。私を恐怖で支配しようとしてるみたいに。
「ジェド…?左目は…大丈夫なんですか…?」
「……まあいいや、左目は別に問題ないよ、これは魔眼だしね」
ジェドは少し不機嫌そうだけど、左目について教えてくれた。
魔眼……それは魔族にしかない魔族特有の目で、魔眼によって効果は変わるが、基本的に種族ごとで魔眼の効果は決まっている。
ジェドの場合は吸血鬼で、吸血鬼の魔眼の効果は【魅了】で、魅了し自身への抵抗を失わせ、そのまま血を吸い尽くす。
吸血鬼の魔眼の効果は脅威で、一度効果を受けてしまえば、何でも言う事を聞いてしまう。
効果から逃れる方法はただ吸血鬼が効果を解除するか、吸血鬼が死ぬしか戻る事はない。
「吸血鬼っ……!?」
私は魔眼の脅威を知っている。だからこそ、ジェドの話を聞いて少し距離を取る。
「僕から離れるな」
ジェドの黒く染まった左目が一瞬赤く光ると、私はジェドの言葉を聞いた瞬間体が動かなくなる。それどころかジェドの方に向かっていく。
「…!? 何で…!」
私の意思に反して体が勝手に動く。それは私が魔眼の効果を受けている事を意味した。
何をされるのか怖い、私は今何を命令されても逆らう事は出来ない。
「ごめんね…? でも、リディエルには僕に慣れて貰わないと、僕は未来の夫なんだから…!」
私はジェドに近づき、ジェドとの距離はないに等しかった。
「座って…?」
私は言われるがままに床に座る。
ジェドの微笑む顔がただ怖い。ジェドは私に微笑み、口を開けて私の首筋に顔を近づける。
吸血鬼は自分の血を相手に与える事によって眷属にする事ができ、眷属にされると【魅了】とは違い私の意識は完全になくなり、ただ言う事を聞くことしか出来なくなる。
「やめて…!」
私がそう言っても、ジェドはやめる素振りは見せず、遂に私の首筋に牙を入れる。
あぁ…こんなあっさり私の人生は終わるのか……せめてもう少し、いい人生を過ごしたかった……血が吸われていく感覚がする……きっとこの後、血を注がれ、私の意識は消えてしまう……
「ごちそうさま…」
「え…?」
ジェドはただ、私の血を吸うだけで、血を注ぐ事はなかった。
「眷属にするんじゃ…?」
「そんなことしたらそれもうリディエルじゃなくなっちゃうじゃん。そんな事しないよ、ただ血を吸いたかっただけ」
「あ、もう動けるから、好きにしてていいよ」
「……!!」
私はジェドに言われ、魔眼の効果がかかっていない事に気がつく。
だけど、私は動く事はできない。何がジェドを怒らせてしまうか分からないから。
「……? リディエル…? もう動いても大丈夫だよ?」
「何がジェドを怒らせるか分かりませんから…!」
「…リディエルって人付き合い苦手でしょ、分かりやすい」
ジェドは私を見て笑顔になる。
うるさいな…!人付き合いは苦手だったけど魔王と喋ることなんてないんだからどうすればいいのか分かるわけないじゃん…!
「リディエルは冒険者なんだよね?」
「まぁ……一応だけど」
「だったら戦ってるとこ見たいな! 連れてってよ!」
食事をしている時、ジェドが急に私の戦ってるところを見たいと言ってきた。
ジェドは知らないんだ…私が冒険者として生きる事ができない事を……
「それは無理だよ…私、戦うのが怖いんだから…」
「…? どういうこと?」
「私は一度魔族の襲撃を防げなかったの、それで色々言われちゃって……それから剣を持つ事が怖くなっちゃって…」
「ふーん……そっか」
ジェドは納得した様子ではないけど、何も言ってこない。
これで諦めてくれたと私はそう思っていたのに、ジェドは諦めてくれなかった。
「けど、僕に対しては剣を取ろうとしたじゃん、それにさ、僕の左目突き刺したし」
「それは…! じゃないと死ぬと思ったから…!」
「僕あの時凄く痛かったんだけどなぁ…? リディエルはお詫びもしてくれないの……?」
ジェドは私の良心に訴えかけてくる。
ジェドは悲しそうな顔で私をずっと見つめてくる。
これは演技…!演技って分かってるけど………
「分かったよ…! 一回だけなら…!」
「やった! ありがとね、リディエル」
結局了承してしまった……まあ、簡単な依頼で済ませればきっと大丈夫だよね……
私達は今、ギルドへと向かっている。
通りがかる人たちの視線は私か、それともジェドを見ているのか分からない。
だけれど間違いなく陰口を言われているのだけは分かった。
「なんで平気で歩けるのかしら…」
「隣にいるの魔族じゃないか…? やっぱりあの時のやつも……」
どれだけ時間が経ってもやっぱり辛い。
皆の私を見る目は最初は憧れの目だったのに、今は軽蔑の目で見られる事がほとんどだ。
私はなんとかギルドに到着し、中へと入る。
すると、一人のギルド職員が私の存在に気づく。
「…!? リディエルさん!?どうしたんですか!? 私、心配だったんですから!」
「依頼を受けにきたの、出来れば簡単なやつで…」
「分かりました! すぐに探してきます!」
彼女の名前はローリエ。
ギルドの職員で、過去に彼女が魔族に襲われていたところを私が助けた事もある。
最近では珍しく私を尊敬してくれている人の一人でもある………そういえばジェドの姿見えないんだけど…?
私がジェドの姿を探していると、すぐに見つけれた、ローリエと喧嘩してたから…………
「これをリディエルに受けさせるって言ってるの…!」
「ダメです! それ難しいやつじゃないですか! リディエルさんは簡単なやつって言ってるんです!」
「リディエルなら出来るに決まってる!」
「そもそもあなた誰ですか! 何やら魔族みたいですけど! 私の方がリディエルさんの事分かってるんですから黙ってて下さい!」
「言ってくれるじゃないか……! 僕の力見せてやるよ…!」
なんか普通にやばい雰囲気になってる…!早く止めに行かないと!
「ちょっと二人!? 何してんの!」
「リディエルさん! 誰ですかこの人…? じゃない魔族!」
「僕はジェド!43代目の魔王! そしてリディエルの夫さ!」
「お……夫!? リディエルさん…? 嘘ですよね…?」
「勝手に言ってるだけだよ…」
ローリエ……絶対夫よりも魔王に驚くべきだと思うんだけど……というか魔族なのに普通に話してるな……
「ローリエ…? ジェド魔王だけど気にならないの…?」
「平和条約が結ばれてから一日くらいしか経ってないのに魔族がここに住もうと色々申請しに来ますからね! もう慣れました!」
魔族が住民登録するために来るから魔王は気にならないって仕事大変すぎるなぁ……
「それよりも! ジェドさんが持ってる依頼書! それドラゴンの討伐じゃないですか!」
「え?」
「リディエルは僕の妻なんだ! このくらい出来るに決まってる!」
いや無理ですけど…!?ドラゴン討伐って国中の冒険者集めて挑むやつですけど……!?
「リディエル! 出来るよね!?」
「いや……無理に決まってるじゃん!」
結局スライム討伐になりました。
「リディエルがスライムを倒すだけなんて……」
「スライムだって害になるんだからちゃんと倒しとかないと行けないんだよ?」
ジェドは私がスライムを倒している隣で、スライムを指で弾き飛ばして殺している。怖すぎる。
「っていうか魔王がスライム倒していいの…?」
「スライムとかは魔族じゃなくてモンスターだからね、基本的に知性のないモンスターは僕達魔族にとっても害になるんだよ」
ジェドはスライムを跡形もなく殺しながらそう言う。
討伐した証明に核を持って帰らないといけないのに核ごと殺すから正直困る。
「ジェド…? 核は持って帰らないといけないから核は残してくれる?」
「あ、そっか…ごめん」
「ジェド……もうこの辺スライムいないよ、また探さなきゃ…」
「ごめんなさい…」
結局1時間程で終わるはずだった依頼は2時間かかりました。
デコピンで消し炭になるスライム……
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