54、リリーナ・オッサカー
侯爵夫妻はとっても人の好さそうな温厚な方達だった。「いつも愚息が迷惑をかけて申し訳ありません」と言われてしまったわ。いえいえ。
侯爵夫妻への挨拶を終えて、お兄様とファーストダンスを踊った。ご令嬢達の視線がびしばし突き刺さってきたけれど、ハンカチ噛んで悔しがる勢いのジェンスの視線が何より鬱陶しかったのでそちらは気にならなかった。
お兄様と踊った後はもちろんジェンスと踊る。婚約者なので二曲続けて踊り、その後は会場の隅に移動して一休みした。令嬢達に囲まれていたお兄様も抜け出してきて私の隣に陣取る。
あ、お兄様に負けないぐらい囲まれてるの誰だろう?と思ってたら、フレデリカ様だわ。さすが。
「やあ、レイシール嬢」
アルベルト来たー。
「初めての夜会はどうだい?」
「緊張してますわ」
「そうかい? 堂々として見えるけれど」
そりゃ、公爵令嬢ですから隙は見せられませんって。今だって、イケメン三人が集結しているせいか、視線の圧がすごいんだから。
まあ、お兄様にもアルベルトにも婚約者がいないから、視線を集めるのは当然だろうけども。
他の攻略対象達はどうしてるのかなーと見回すと、ルイスは相変わらず青森くんことデイビットと一緒に佇んでいる。本当に仲いいなー。
ガウェインとナディアスはそれぞれ知らない女の子を連れている。婚約者はいないはずだったと思うんだけど。
「ああ。ナディアスの従姉妹のフリア・ナーガサッキ嬢と、ガウェインの従兄弟のリリーナ・オッサカー嬢だよ」
私の視線を追ったアルベルトが教えてくれた。
「フリア嬢はもう学園を卒業している。婚約者が平民なので、今日はナディアスがエスコートしているようだな。リリーナ嬢は二年生だよ」
ほうほう。
確かにフリア嬢は地味な容姿だがしっとりとした落ち着きがある。リリーナ嬢はちょっと姿勢が悪くて、あんまりこういう場が得意じゃなさそうだ。
あれ? ガウェインの従兄弟でオッサカーってことは、もしやオッサカー伯爵の娘さん? うわー、レオナルドのお姉さんを身投げに追い込んだ伯爵が父親かあ。そりゃ、気の毒だ。
私は思わず同情の目でリリーナを見てしまった。すると、俯いていたリリーナが不意に顔を上げて目が合った。
リリーナは私の顔をじっと凝視したかと思うと、顔を歪めてこちらを睨みつけてきた。
う、なんだか怖い顔。不躾に見てごめんなさい。
リリーナはガウェインの腕にひっつくと、私から顔を背けて窓の方へ歩いていった。