表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

46/100

46、いなくなりません。






「ニチカさん……私の婚約者はジェンスロッド・サイタマー。頭文字は「J」です」


 とりあえず、ニチカの誤解だけは解いておこう。私がアルベルトに興味がないとわかれば今後は突っかかってこなくなるかもしれないし。


「その婚約者、たぶんそのうちとうし……いなくなるわよ!」


 今、凍死って言おうとしたな、おい。不吉なこと言うんじゃないよ、こんな公衆の面前で。


 なるほど。たぶん、ニチカはジェンスの死の時期がずれてると思ってるんだな。何故かまだ生きているけど、こいつは凍死するキャラ、という目でジェンスを見ているのだろう。

 そして、ジェンスがいなくなれば、私はアルベルトの婚約者となると思いこんでいるのだ。ゲームではそうだったから。


 冗談じゃない。


「いなくなりません。私の婚約者はジェンスロッド・サイタマーです」


 私がいる限り、ジェンスを凍死させたりしない。いなくなりません。埼玉は永久に不滅です!


 力強く言うと、ニチカがちょっと怯んだ。

 私はニチカを少し睨みつけて、これ以上の不用意な発言をしないように目と態度で教え込もうとした。

 だが、その時、


「きゃっ」


 人だかりの一部が崩れて、前の方にいた女の子達が倒れ込んできた。私はその子達に押されて、床に倒れそうになった。


「レイシール!」


 ティアナが慌てて支えてくれる。二、三人の女の子が床に膝をついて、私を見上げて顔を青くした。


「も、申し訳ございません!」

「後ろから押されて……っ」

「ホーカイド様に危害を加えるつもりは……」


 ルイスが眉をしかめながら、人だかりの前に立って距離を取らせる。


「あっ……ホーカイド様、何か、落とされたようです」


 立ち上がった女の子の一人が、床を指さした。


 そこに、私のハンカチが落ちていた。Lの字と雪の結晶を刺繍したハンカチ。そして、ハンカチから転がり出した愛の妙薬も。


 この場に集まった生徒達の目に、私のポケットから落ちたそれらが触れる。


 掲示板に貼り付けられたものとお揃いのハンカチは、今説明した通り本当はジェンスに贈るつもりだったからいいとして、愛の妙薬が私のポケットから出てきたことに、人だかりが息を飲む。


 うわあ。ややこしいことになりそうだなぁ。


 えてして群衆というものは真実よりも刺激的なエピソードの方に飛びつくものだ。周りの男達を虜にしようとして公爵令嬢が薬を盛っていたという方が、真実よりも断然おもしろいだろう。


 もちろん、説明すれば皆ちゃんと理解してくれるだろう。だが、真実を理解するのと、おもしろおかしく噂を楽しむのとは、まったくの別物、別腹なのだ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] まあ薬を預かった時点でこうなるのは見えていたけど、元の話の展開を知っていてヤバいものと認識しているにも拘らず、然るべき所に預けずに自分で持ち歩く迂闊さはどうしようもないな、と思いました。
[一言] とっとと処分しなかったからこうなるの分かってたよ
[一言] 出てきた薬も、ちゃんと渡した人もわかっているんだから、その令嬢に裏を取ればOKじゃないかな? まさかその令嬢も、陥れたい一派でシラを切るとかかな?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ