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44、悪意のはためき





 血相を変えたマリヤとテッドが私の元へ駆け込んできたのは昼休みが始まってすぐのことだった。


 いつもお兄様とジェンスが迎えに来てくれて一緒に食堂に向かうので、私は教室で二人が来るのを待っていたのだが、その前にマリヤとテッドに教室から連れ出されてしまった。


「大変なんですっ!!」


 そう言って腕を引かれて連れて行かれたのは、学園の大掲示板の前だ。何か催しがある時などにお報せが貼り出される掲示板の前に、人だかりが出来ていた。


「何かあったの?」


 人だかりで見えないので、私は二人に尋ねた。マリヤは真っ青な顔でぶるぶる震えているし、テッドも深刻な表情をしている。


「掲示板に……レイシール様への誹謗中傷が……」


 極めて言い辛そうに、テッドがそう口にした。


 掲示板に誹謗中傷? ニチカの仕業か? レイシールは悪役令嬢とでも書いてるのかしら。あの子、ボキャブラリー少なそうだからなあ。


 よく見ると、掲示板の前にはティアナとルイスがいて、生徒達を叱りつけて蹴散らそうとしている。でも、みんな言うことを聞かないみたいね。私も監督生としてこの混乱を収めないと。これ以上、人が集まってきたらティアナとルイスが潰されちゃう。


「みなさん」


 私は止めようとするマリヤとテッドを振り切って、人だかりに呼びかけた。


「失礼。通していただけるかしら」


 ざわめいていた生徒達がしん、として両脇によける。私は真ん中に出来た道をモーゼのようにずんずん進み、掲示板の前に立った。


「レイシール……こんなもの気にしちゃダメよ」

「すぐに取り外す」


 ティアナとルイスが気遣ってくれるが、私は掲示板に貼られた文章に目を走らせた。

 そこにはこう書かれていた。


『レイシール・ホーカイドは夜中にジェイソン・イバラッキと密会している。

 その証拠に、レイシールはジェイソンにハンカチを贈っている。

 レイシールは周りの男に惚れ薬を盛って自分の意のままに操ろうとしていて、婚約者のジェンスロッド・サイタマーはその被害者。』


 その文が書かれた紙の横に、私が昨夜ジェイソンの傷口を縛ったハンカチが、ピンで縫い止められていた。


 少しの血で汚れたハンカチは、Jの字と雪の結晶の刺繍を見せて揺れていた。




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― 新着の感想 ―
[一言] 惚れ薬を処分しないし先生に報告もしないからこうなるんじゃん
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