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3、レイシール、侍女を唆す






「おはよう、レイシール」

「おはようございます」


 父ドミニク、母エカチェリーナ、二つ年上の兄ヒョードル。

 食卓につく家族を確認し、私はそっと息を吐いた。父母はレイシールにあまり興味がないという設定の通り、二人とも挨拶はするけど目が合わない。ゲームのノベライズ版では処刑される時も会いに来なかったし、娘を救おうともしなかった人達だもんな。


 私は現在十歳だ。アルベルトと婚約したのは十五歳の時だと確か設定資料集に書いてあった。あと五年の間に、婚約しなくてすむ方法を考えなくてはならない。


 私は頭を悩ませながら黒い硬いパンをかじった。パンとスープだけの質素な朝食だ。


 公爵家と言っても、他の三家と比べると我が公爵家は貧乏だ。なぜなら、寒冷地では主食の小麦がほとんど穫れないからだ。


 うん。まずはなんと言っても衣食住をなんとかせねばならない。暖かい服、寒さに耐える体を維持するための食事、寒々しい部屋を何とかする方法。

 難題だなぁ。

 でもさ、ゲームの中のレイシールが常に青白い顔で不健康そうだったのは、冷えのせいじゃないかと思うのよね。明るい黄色に近い金髪に紫の瞳、透き通るように白い肌、というと凄い美女を想像するけど、レイシールは顔色が悪すぎるせいで婚約者のアルベルトからは「醜い」と毛嫌いされていた。


 朝食を終えて部屋に戻ると、メイドが紅茶を淹れてくれる。御礼を言うとものすごくびっくりされてしまった。まあ、私は我が儘令嬢だからこれまでずっと酷い扱いしかしてきてないからね。反省。

 そういえば、この子の名前も知らないわ。


「貴女、名前はなんていうの?」

「ひっ?申し訳ありません!えっと、あ、アンナです……」


 アンナは真っ青な顔で震え出した。十歳の子供に怯えすぎじゃないかと思うが、私の気分一つで首が飛んでしまうのだから無理ないか。見たとこ、彼女もまだ十五、六歳くらいだし。


「ねえ、アンナ。編み針と毛糸って手に入るかしら?」

「え……?な、何をなさるのですか?」

「暖かい服を作りたいなーって……」


 前世では手芸が趣味だった。簡単なセーターやカーディガンくらいなら作れる。

 そう思って言ったのだが、アンナはさらに真っ青になってしまった。


「お嬢様がそのようなことをなさる必要はございません!」


 力強く言い切られる。あ、そうか。貴族の令嬢って刺繍ぐらいしかしないのよね。働くのはもってのほかだし。


 でも、どうせ暇だし。外は雪だから外に出られないし、やることが無さ過ぎる。今までのレイシールは勉強時間以外は一人でお茶を飲んでいるか使用人をいじめているかドレスやアクセサリーをお父様におねだりしているかぐらいしかしていない。ろくでもないな。


「いいじゃない。お父様には内緒で、ね?」


 せっかくなので我が儘を発揮してみる。アンナは渋っていたが、結局私に逆らえずに編み針と毛糸を一玉持ってきてくれた。

 一玉じゃ何も編めないんだけどなー。

 防寒具を作りたかったんだけど、しょうがないのでさくさくと小さな巾着を作ってみた。アラン模様でまっすぐに編んで、袋の形にして最後に紐を通す。


「完成!」

「えっ!?」


 アンナがめちゃくちゃ驚いていた。


「な、なんですかこの素敵な模様。毛糸でこんなこと出来るんですか……?」


 アラン模様は確かアイルランドの伝統だっけ?いつ頃からあるものなんだろう。とりあえず、この世界にはこういう模様はないようだ。

 私は出来上がった巾着に自分のお小遣いをちゃりちゃり入れて、アンナに渡した。


「こういう素敵な模様の服を作りたいの。買えるだけ毛糸を買ってきてちょうだい」

「で、でも、お嬢様がそんな針子のようなこと……」

「おつかいしてきてくれたら、お礼にこの袋を上げるわよ」


 アンナはちらちらと巾着を見ては逡巡していたが、やがてこっくりと頷いた。




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