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20/100

20、選ぶなら、バミューダートライアングル






「まずは去年まではどのようにしていたのか調べましょう」


 アルベルトに許可を得て(ケッ)、私はティアナとルイスを連れて過去の活動記録を探すために書庫にやってきた。

 アルベルトは「なんでも訊いてくれ」と言っていたが、極力お前とは関わりたくありませんことよ。無論、他の攻略対象とも関わりたくないのだが、ルイスは同じ学年なので関わらざるを得ない。


「ホーカイド様は何かお考えがおありですの?」


 ゲーム内ではヒロインと同じ監督生なのにほとんど会話すらなかったティアナだが、めちゃくちゃ美少女やんけー。こんな可愛い子ちゃんと一緒なら少しはやる気が出ますなぁ、ぐへへ。


「それが、恥ずかしながら我が家では詩を愛するような心豊かな者がおらず……私も詩には詳しくありませんの。よろしければカーナガワ様にいろいろご教授願いたいわ」


 助平ごころを隠して令嬢ぶる私。


「そんな……わたくしなどが、ホーカイド様に」

「ああ。私のことはどうぞレイシールとお呼びください。私もティアナと呼ばせていただいてもよろしいかしら?」

「も、もちろんですわ。……レイシール様」

「様はいりません。いえ、敬語もいらないわ、ティアナ」

「ええ?しかし……」


 ティアナといちゃいちゃするのは楽しいが、ルイスをのけ者にするわけにもいかない。


「ミヤッギ様のこともルイス様とお呼びしてもよろしいかしら?」

「……ルイス、で構わない」

「では、ルイス、ティアナ。三人で力を合わせて朗読会を成功させましょう」


 私は「めんどくせぇ」という気持ちを抑えて、過去の記録をひもといた。


 数年分の記録を遡ってみたが、やっていることは毎年変わりないようだ。

 朗読者を選んで、全校生徒の前で詩を披露する。内容はそれだけだ。

 まあ、入学したばかりの一年生に企画を任せるのだから、無難に成功させれば充分なのだろうが。

 しかし、全校生徒の前で詩を披露するって、それはちゃんと全部の生徒に聞こえているのだろうか。

 マイクなんて便利なものはないのだ。よっぽど声を張り上げないと聞こえないだろう。

 それに、詩に興味のない人だっているだろうし、そういう人はじっと聞いてるのが辛いよなぁ。

 もっと全員が参加して楽しめるものならいいのに。


「適当でいいだろ。どうせ、真面目に参加する奴なんかいないよ」


 ルイスが身も蓋もないことを言う。

 とりあえず、本日のところは過去の記録を漁っただけでお開きとなった。

 うーん。確かに、そんなに時間もないし、ルイスの言うように皆それほど朗読会を楽しみにしているわけじゃないんだろうけれど、でも、やるからには少しはいいものにしたいよね。

 何かいい方法が……


「ちょっとっ!」

「はい?」


 あらやだ。考え事をしていたせいでうっかり反応してしまった。気づかぬ振りでスルーすればよかったわ。


 後悔するが後の祭りだ。私は仕方がなく、仁王立ちしてこちらを睨むニチカ・チューオウに向き直った。


「何かご用でしょうか?」

「なんでアンタが監督生に選ばれてるのよ!?」


 そんなこと言われても。

 むしろなんでお前は選ばれなかったんだよ。頑張れよヒロインなんだから。


「なんで、と言われましても……」

「どうせなんか汚い手を使ったんでしょう!?アルベルトの傍にいるために!」


 冗談じゃねぇ。アルベルトの傍なんて、私的に世界のどうでもよすぎるスポット100選だ。アルベルトの傍に行くぐらいならバミューダートライアングルに突撃する方がマシである。

 だいたい、監督生の中には一応、私の婚約者の埼玉くんがいるんだけど?


「……ニチカ・チューオウ様でしたわね。アルベルト・トキオート公爵令息様とは入学式が初対面のようにお見受けいたしましたけれど、お名前を呼び捨てる許可はいただきましたのかしら?」


 面倒くせぇけど、一応は令嬢っぽい対応をしておこう。


「はあ?そんなのこれから仲良くなってアルベルトは私に恋するんだからいいのよ!」


 やべぇ。このヒロイン、関わっちゃいけないタイプだ。


「……そうなのですか。では、私はこれで」

「ちょっと待ちなさいよっ!」


 そそくさと去ろうとしたのに、ニチカに前に回り込まれてしまった。んぎゅう。めんどくさい。


「監督生辞退しなさいよ!」

「はあ?」


 さすがに眉をひそめてしまった。

 いや、たとえ私が辞退したとして、次に選ばれるのがお前とは限らんだろうよ。


「アンタより私の方がふさわしいんだから!」

「はあ……」


 どーしたもんかな?っと思っていると、背後から第三者の声がかかった。


「俺たちが監督生に選ばれたことが不満なら、教師に訴えろよ」


 私は「うげっ」と内心で呻き、ニチカはぱーっと顔を輝かせた。


「ルイスくん!」


 ヒロインと攻略対象と私。やだー、アウェーじゃん。


「ルイスくん!朗読会の準備大変だよね?私、お手伝いしたくて!」


 ニチカは私に絡んでいたのを忘れたようにルイスに駆け寄り、胸の前で手を組んで上目遣いに見上げる。ぶりぶりっと効果音が付きそうだ。


「必要ない。そもそも、お前に名前を呼ぶことを許していない」

「あっ、私のことはニチカって呼んで!」

「断る」


 ルイスはそっけなく言うと、さっさと廊下を歩み去ってしまった。


「あっ、待ってよー!ルイスくん!」


 ニチカもそれを追いかけて行ってしまった。


 放置される私。いいけど。


 しかし、あのヒロイン、アルベルト狙いじゃなかったのか?ルイスを落とす気満々に見えたけど。

 まさか、逆ハー狙ってる訳じゃないよな?


 逆ハーが許されるのはゲームとラノベの中だけだぞ。





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― 新着の感想 ―
[一言]  逆ハーが許されるのはゲームとラノベの中だけだぞ。  この文がこの世界を現実として受け入れてる主人公とあくまでゲーム感覚であるヒロインの違いを示してますね。
[気になる点] >逆ハーが許されるのはゲームとラノベの中だけだぞ。 いや、ここゲーム世界ですよね? それとも違うのでしょうか? [一言] 初めまして。
[良い点] 心の声がとてもいいですね…! ナイスツッコミの嵐でなかなかに辛辣というかいい感じです。 女子とキャッキャウフフしてたほうがまぁ楽しいよね…。 [一言] ギフケンのゴロの良さに開眼しました。…
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