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16、俺の名はアルベルト・トキオート。






 俺の名はアルベルト・トキオート。


 東の公爵家の嫡男だ。


 中央都の学園に通っており、同じ学年には昔から我が家に仕えているサイタマー侯爵家の嫡男ジェンスロッドがいる。


 冬休みに入るなり、その親友ジェンスロッドが憤懣やるかたないといった調子で訪ねてきた。

 なんと、北の公爵家の令嬢と婚約させられたという。


 俺はすっかり同情してしまった。北の人間は暗く心が貧しく醜いという特徴があるのだ。もちろん、例外はあるだろうが、北で食い詰めた人間が東や南にやってきて悪さしたりもするので印象が悪いのだ。


「絶対に断ってやる!」


 そう意気込んで北に向かうと言う親友を力づけて送り出した。


 無事に婚約を解消できるといいな、と思いながら待っていたのだが、ジェンスロッドはなかなか戻ってこなかった。

 ようやっと戻ってきた時には、何故か行く前とは完全に人が変わっていた。


「それで、レイシールは本物の天使だったんだよ!」


 北の地でどうやらいろいろあったらしく、ジェンスロッドは毛嫌いしていたはずの令嬢をうっとりした顔でべた褒めしていた。


「可愛くて優しくて、公爵令嬢なのに使用人に混じって働いてるんだぜ。信じられるか?見た目だけじゃなくて中身も愛らしくてたまらん!寝台に乗っかってきて「腕を広げてください」っておねだりされて、ぎゅーって抱きしめてたら侍女に邪魔されてさあ!あー、あのままさらってしまいたかった!」


 そりゃ、婚約者とはいえ顔を合わせて間もない男女が寝台の上で抱きしめあっていたら、侍女は慌てて引き剥がすだろうよ。

 というか、レイシール・ホーカイドはまだ十四歳じゃなかったか?

 ヤバいな、こいつ。


「あまりに可愛くて天使すぎて、二度と腕から放したくなかったね!それなのに、ヒョードルの野郎と侍女達が俺とレイシーを引き離して俺をめった打ちにしやがってさあ!レイシーがあまりに可愛すぎるからキスしただけなのに!いや、すっごくやわらかくて永遠に忘れられないキスだったけどな!レイシーが真っ赤になって恥ずかしがって聞こえないくらい小さな声で「やだ」って言うのがすげぇ可愛くて!」


 憲兵さん、こいつです!!

 やべぇ、親友がやべぇ。


「世話になった礼に何か贈ろうと思うんだが、レイシーの瞳と同じ色の宝石をはめ込んだブローチがいいかな?それとも、俺の目の色の宝石がいいかな?レイシーの瞳と同じ綺麗な紫を贈りたいという気持ちもあるんだけど、俺と目と同じ色の宝石を身につけてもらいたいって気持ちも捨てきれなくて」

「紫にしとけ」


 やべぇから。

 レイシール嬢もこんな男の目の色を身につけていたくないだろう。むしろ、早く忘れたいんじゃないか?かわいそうに。年上の男に迫られてさぞ怖かっただろう。


「それで、この服はレイシーが俺のために編んでくれたんだよ!見ろ!暖かそうだろ!心まで暖めてくれるんだぜ!もう二度と脱ぎたくない!永遠に着ていたい!はあ……レイシー……」


 本格的にやべぇ。


 ヒョードル・ホーカイドは何組だったかな?

 学園に戻ったら真っ先にお詫びに向かおう。大切な妹御にうちの身内の者がたいへんに失礼をした。


 俺達が最高学年になった年にレイシール・ホーカイドは入学してくるんだよな。一年は同じ学校に通うのか。この危険人物が迷惑をかけないように見張っておかなければ。


 でれでれと相好を崩すジェンスロッドを複雑な気分で眺めて、俺は悲壮な決意を固めた。






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