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15、要注意人物ジェンスロッド・サイタマー






 今日も朝から雪かきに精を出していると、ジェンスが現れて私を見て驚いていた。


「何をしているんだ?」

「雪かきですよ」


 玄関前の雪をスコップでさくさく左右によける。


「公爵令嬢がなんでそんなことを……」

「雪国に生きるものの務めです!」


 私がキリッと決め顔で言うと、ジェンスは感極まったような表情を浮かべた。

 そして、ぎゅーっと抱きついてくる。

 寒いなら、家に入ればいいのに。


「ジェンス、冷えるから家の中に……」

「レイシール、この極寒の地での厳しい暮らしにも負けずに優しく明るく育ったんだな。俺は誤解していた……お前は清らかで愛らしい天使そのものだ!」


 お、おう。

 さんざん「醜い」と扱き下ろして婚約解消に来たんじゃなかったっけ?お前。

 凍死から生還した途端になんで「醜い令嬢」が「清らかで愛らしい天使」に変化するんだ?

 視神経が凍ったのか?


「レイシール。愛しいレイシー。俺はお前を幸せにすると誓うよ」


 言うなり、腰を抱く腕にぐっと力が込められて体を引き寄せられる。何を言う間もなく、唇を塞がれていた。


「んぐ」


 嘘でしょ!?ちょっと手が早すぎるんだけど、こいつ!ジェンスロッド・サイタマー!

 レイシールはまだ十四歳だぞコラァ!!逮捕だ逮捕!!


「や……」


 思い切り罵倒してやろうと思ったのに、私の口からこぼれたのは弱々しい声だった。びっくりしたからね!不意を打たれたから!


「悪い、驚かせたな。……ああ、そんな潤んだ目で見ないでくれ。ただでさえ美しい瞳が余計にきらきらと……」


 言葉の途中で、勢いよく横に吹っ飛んだジェンスが雪山に突き刺さった。


「侯爵家風情が調子に乗りやがって……っ」


 これから人を殺しにいく連続殺人鬼みたいな形相のお兄様が蹴りを食らわせた体勢のままで立っていた。


「ヒョードル様!やっちゃってください!」

「証拠隠滅はお任せください!!」

「帰りに雪崩に巻き込まれたことにしましょう!」

「雪に埋めれば春までみつかりません!」


 アンナを先頭に侍女達が力一杯お兄様を応援している。


「我が妹レイシールを汚した罪、地獄で後悔するがいい!!」


 殴りかかってくるお兄様を間一髪で避けて、ジェンスが雪の上に転がる。


「ちょ、ちょっと待て!話せばわかる!」

「問答無用!!」


 お兄様の殺気にジェンスが慌てて逃げ出すが、雪の上ではお兄様の方が断然有利だ。あっさりととっ捕まって羽交い締めにされる。


「お嬢様の敵!」

「天誅!」

「皆、力を合わせるのよ!」


 侍女達が至近距離からジェンスに雪玉をぶつけまくる。

 まあ、雪玉ならいいか、と思って見ていたけれど、よく見るとアンナがバケツを持ってきて水で雪玉を固めていた。

 ……石が入っている訳じゃないから、いいか。


 アヴェーの洗礼を受けたジェンスはその後くしゃみを連発して夜になると熱を出した。

 止めなかった罪悪感で看病をすると、でれでれと手を握ってきたりして反省の色がない。


 こんなに節操のない奴じゃあ、ニチカに即ころっといっちゃうんじゃないだろうか。

 攻略対象ではないけれど、既にゲームとは違う展開になっているのだから今後何が起きるか予想できない。


 一応、今のところは婚約者だけれど、いざとなったらすぐに遠ざかれるようにしておこう。


 私はそう決意した。






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― 新着の感想 ―
[一言] アヴェじゃなくてアウェイじゃないかな? おもしく書いてるならすみません
[良い点] 面白すぎて楽しみです!北海道くらい寒いところの悪役令嬢!新しいー! 甘酒とか暖かくて美味しそうな食物ちょくちょく出てきてなんかお腹空いてきました。北国の美味しそうなものもっと沢山出してくだ…
[一言] 反省の色がないって、この状況で反省する男はいないと思うよ、レイシールw そもそも婚約者で、ベッドのある部屋で2人きりの時に抱きついて抱きつかれても抵抗しなかったという時点で、両思いなのだと思…
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