どんぐりぼっちの冬ごもり
昔々、動物の国の外れの森に、どんぐりぼっちという小さな女の子のリスがいました。
そのリスは、秋のうちにどんぐりをたくさん集めて、一人で冬ごもりをすることから、周りからどんぐりぼっちと呼ばれていました。
どんぐりぼっちには親がいませんでした。その代わり、仲の良い友達が何人もいました。ハトのポー子とは特に仲が良く、いつも二人で遊んでいました。ただ、ポー子も他の友達ももちろん家族がいます。どんぐりぼっちは冬ごもりはいつも一人きりになってしまうのです。
どんぐりぼっちの住む辺りは、冬の季節が長く、冬を越えるために、たくさんの食料を蓄えなければなりません。しかし、今年は冬も近いのに、なかなか食料が揃わず、動物の国の王様達は困っていました。
「何か良い方法がないものか...大臣」
王様のうさぎであるラビッツは、大臣であるハトのポッポに尋ねました。
「娘のポー子が大量にどんぐりを蓄えているリスの話をしておりました。両親が死んでしまったあの娘です。分けてもらうのはどうでしょうか?」
ポッポ大臣はそう進言しました。
「うーむ、だが彼女は冬ごもりを一人でするというではないか。それに我々の国は百匹の動物が暮らしている。彼女の食料でまかなえる量ではない。」
ラビッツ王は眉間に手を当て考えます。
「そうだ、あの子にどこでどんぐりを拾っているのか聞いてみたらどうでしょう?」
ポッポ大臣の提案に、渋々ラビッツ王はうなずきました。
次の日、どんぐりぼっちにどんぐりがどこに落ちているか聞くために、王様の秘書であるアヒルのガー子がどんぐりぼっちの家を訪ねました。
「やぁ、どんぐりぼっち。今年の冬ごもりの準備はどうだい?」
どんぐりぼっちは
「今年もたくさんどんぐりを拾えたんだ。これで安心して冬が超えられるよ。」
と答えました。なるほど、家の奥にはキラキラと輝くどんぐりがたくさん置いてあるではありませんか。
「ねぇ、どんぐりぼっち、このどんぐりはどこで拾ったか教えてくれないか?」
ガー子の言葉にどんぐりぼっちはむつかしい顔をします。
「うーん、うーん」
しかし、ガー子も引き下がるわけにはいきません。
「なんとか、なんとかお願い!」
そして、どんぐりぼっちは渋々と了解するのでした。
どんぐりぼっちは森の外れにある、大きな谷の近くにとある村があると言います。そこで毎年どんぐりをもらって帰ってくるそうです。
早速ラビッツ王とポッポ大臣はその村に遠征するための部隊を結成しました。
牛のモー太はすでに冬毛を蓄えていて、眠そうな顔をしています。羊のメー子は毛刈りをする前で動きたくないと騒いでいます。馬のヒン吉はもうかなりのお歳なので、頼りない気がします。しかし、この国でたくさんの食料を持ち帰るには彼らの力が必要です。ラビッツ王は
「私もついて行くから、一緒に来てほしい」
と三匹を説得して、どうにか遠征を決行することができました。
遠征の道中、外れの森でどんぐりぼっちと合流すると、どんぐりぼっちはにこりと笑って
「こちらこちら」
と塩の谷を案内します。
「この塩の谷で、少し昼寝をしましょう、ゴロゴロすると気持ちが良いですよ。」
言われたとおりに王様と遠征隊の三匹は昼寝をすることにしました。ゴロゴロゴロゴロ気持ちいい。
塩の谷をすぎると、ブドウの森がありました。
「ここのブドウの池のお水はとても美味しいのでたくさん飲んでください」
言われたとおりに王様と遠征隊の三匹はガブガブお水を飲みました。なぜか、とてもフワフワする気持ちになります。フワフワフワフワ気持ちいい。
森を抜けると村が見えてきます。
「ここで待っていてください」
どんぐりぼっちが村にかけだしていきます。四匹はとても気持ちの良いお天気なので、そのままそこで寝てしまいました。
「今日はジビエか!とても楽しみだ!」
「馬は殺すな、足が速い!羊も殺すな、毛がとても暖かい!」
なんだか物騒な声がして、ラビッツ王は目が覚めます。
起きてすぐに動けないことに気づきます。手足が縛られていたのです。
そして驚くべきことに声の主は動物の天敵、人間だったのです。
どんぐりぼっちは人間の肩の上に乗り、ニコニコしています。
火を囲んだ二人の人間はどんぐりぼっちを優しくなでて
「ほら、どんぐりをやろう」
とどんぐりぼっちにどんぐりをあげています。
そうか、こうしてどんぐりを集めていたのか...
ラビッツ王はとても、悲しい気持ちになりました。
仲間を騙してたくさんドングリをもらっていたなんて!
思い返してみると、どんぐりぼっちと仲良く遊んでいた猪の猪吉や、鴨のアー子、鶏のコッ子など、冬の前にいなくなってしまった仲間たちが大勢いました。
「どんぐりぼっち!ヒドイじゃないか!今までもこうして人間に仲間を差し出してどんぐりをもらっていたのか!?なんとか言え!どんぐりぼっち!」
ラビッツ王は叫びます。
「うるさい!うるさい!どんぐりぼっちっていうな!私にも多分名前があったんだ!だけど親がいないから小さい頃から一人で生きてきたんだ!誰一人、私を助けてくれる大人はいなかった!」
どんぐりぼっちは言い返します。
「それは違う!君にはたくさんの仲間がいるじゃないか。君の両親は他界したときに君に名前を付けて、わたしに託してある。それをポッポ大臣から君に伝えたはずだ。なぜその名前を知らんのだ?それに、君の仲間たちはみんな君のことを心配して、毎日君のことを見守っていたんだぞ!」
どんぐりぼっちは驚いた顔をしています。
なぜ自分の名前を知らないのか。...ラビッツ王はポッポ大臣に確かにどんぐりぼっちの名前を託しました。それなのになぜ...
それよりもこのままでは、人間に食べられてしまう...ラビッツ王はなんとかして逃げだそうと考えていました。
その時です。急にビュービューすごい風が吹いてきて、火が消し飛びました。
「なんだなんだ!?」
人間は慌て始めます。人間は火を手に入れてからというもの、動物たちを威嚇し、殺すようになりました。昔は仲が良かった動物たちも、みんな今では人間を恐れています。
びかっ!という光と轟音がし、近くの岩山が崩れる音がしました。人間は慌てふためくと、自分たちの建てた小屋に避難してしまいました。
ラビッツ王と、まだ寝ている三匹の縄をどんぐりぼっちがほどきます。
「...なぜだ?なぜ助けるんだ?憎いのではないのか?」
「ほんとうはみんなと一緒に冬を越したかった。私はこの近くのどんぐりを拾って冬を越してきました。ここにはたくさんのどんぐりがあるのです。確かにあなたの言うとおり、いつも仲間が付き添ってくれました。あるとき人間がこの場所に来て、どんぐりをたくさん持っていってしまいました。その時に友達の猪吉が一緒にいたのですが、人間に連れて行かれてしまいました。人間は私に友達を連れてきたらどんぐりをやろうと言ってきたのです。私は拒否しましたが、次はお前の動物の国を襲いにに行くと脅されました。説得のために人間と交渉していたのですが、一緒についてきてくれる仲間がいつもいて、その度に人間に捕まってしまうのです。私は真実を言えず、困っていました。友達のポー子にそのことを相談するとお父さんと相談すると言っていました。あなた方が来たのはこの件を解決するためだと思っていました。人間を油断させるために途中の塩の谷やブドウの森に寄ったのです。人間に聞かれてはいけないよ、王様には全部伝えているから、知らない振りで人間と会うんだ、とポッポ大臣に言われました。」
「なんと!?」
ラビッツ王は信頼していたポッポ大臣に裏切られていたのです。
「おーい!どんぐりぼっち、こんなもんでええか??」
「毎回楽しいわ、人間を驚かすの」
「それよりも王様自らいらっしゃるとは...」
そんな声がして、ラビッツ王は辺りを見回します。
「ありがとう!猪吉、アー子、コッ子!」
彼らは北風、雷、雨雲に生まれ変わって、どんぐりぼっちが困ったときに助けてくれる仲間になっていました。
「お前達...こんな姿になってまで...私の言うことを守って彼女を見守ってくれていたのだね...ありがとう」
「王様、そんなことありません。この子はほんとうに良い子です。私達はこの子のために動いただけです。それよりも私はポッポ大臣が許せんのです。」
北風になった猪吉はポッポ大臣を退治しようと怒っています。
「私も許せません!」
「私もよ!」
ビュービューゴロゴロザーザー
やまない嵐に家が吹き飛び人間が出てきました。
「もう勘弁してくれ!頼む!これからは仲良くするから!」
人間は動物たちに頭を下げます。
「おら達は、ハトの野郎に教えてもらってこの土地に来たんだ。ハトはうまくねぇから、おら達とは仲がええんだ。」
やはり、ポッポ大臣が裏で糸を引いていたのです。
ビュービューゴロゴロザーザー!ピシャーン!
「ひぇ!」
人間がおびえています。
「まぁこんなもんでええやろ。」
北風の猪吉は人間を懲らしめられたことに満足し、人間に語ります。
「人間達よ、ポッポ大臣を懲らしめるために協力しなさい!でないとお前達の命がないものと思え!」
「わ、わかりました!何でもします!」
ラビッツ王の戻らない動物の国ではポッポ大臣が演説をしていました。
「ラビッツ王は自らこの国のために動き、人間に襲われて命を落としました。首謀者はどんぐりぼっちという、森に住むリスです!この首謀者を捕まえます!今後は私がこの国のために命をかけて戦いたいと思います!」
あのリスさえ殺してしまえば私の秘密を知るものはいない。
「晴れて私も王女ということだわね」
ポー子は高笑いします。
ポッポ大臣はポー子のためにどんぐりぼっちを利用し、国を乗っ取ろうとしていたのでした。
ポッポ大臣の演説中突然、大雨が降ってきました。
動物たちは突然の大雨に驚き、木陰に隠れます。ポッポ大臣は飛んでお城に逃げ込もうとすると、突風が吹いて、地面にたたきつけられてしまいました。
すると、雷が落ちてきて、ポッポ大臣の周りが火に囲まれます。
そこに、人間と、死んだと思っていたのラビッツ王、モー太、メー子、ヒン吉が現れました。
「ポッポ大臣!よくも騙したな!」
おどろいたポッポ大臣は上手く動くことができません。
「ち、違います!王様!全てどんぐりぼっちが....」
「やい!私はどんぐりぼっちじゃない!」
どんぐりぼっちが威勢の良い声で叫びます。
「ゆ、許してくれ!全て、全て人間が悪いんだ!」
「おら達のせいにするのか!」
「まぁ、まぁ、それより、ポッポ大臣、どんぐりぼっちと言ったがね、ほんとうの名前は君に伝えたはずだよ、さてさて、教えてあげてくれないか?」
王様はポッポ大臣に問いかけます。
「君の名前、君の名前は...うーん、うーん...そうだ、リス子!リス子だ!」
ポッポ大臣が嘘をついてるように見えて、どんぐりぼっちは怒ります。
「ちがうちがう!そんな名前じゃない!私はリス子なんて名前じゃない!早く教えなさい!」
「あなたの名前はピースよ、どんぐりぼっち」
現れたのはポッポ大臣の娘のポー子でした。
「あなたは平和を司る森の番人になることを願ってピースと名付けられたそうよ、幸せな名前ね。私もそんなステキな名前がほしかった。あなたを利用して、私はこの国の王女になって、あなたのほんとうの名前と同じピースと名乗るつもりだったのよ。これは本当よ。だけど、もう終わり。何もかも終わりよ!」
ポー子は大声で泣いています。
「ポー子....あなたにその名前はあげるわ。」
どんぐりぼっちはくしゃっと笑ってポー子を見つめています。
「その代わり、私に名前をくれるかしら?どんぐりぼっちじゃ悲しいもの。」
こうして、平和のハト、ピースと、どんぐり大好きのリス、ハッピーは、二人で仲良く冬を越え、どんぐりぼっちじゃなくなったハッピーは、人間や動物と一緒に楽しく暮らしたのでした。
めでたしめでたし