『こんな夜中に』
〇『こんな夜中に』
姫野せんぱい:起きてる?
姫野せんぱい:夜遅くに悪いね
姫野せんぱい:ちょっと頼みごとがあるんだ
わたし:起きてます! 大丈夫です!
姫野せんぱい:そうか
姫野せんぱい:勉強中だったかな
わたし:いえ! スマホをいじっていただけです!
姫野せんぱい:ならよかった
わたし:期末テストをやったばかりなので
わたし:しばらく勉強はいいかなって……
わたし:まだ一年生ですから……
姫野せんぱい:そうか
姫野せんぱい:受験に限ったことじゃないけど
姫野せんぱい:何事も早めに準備した方がいい
わたし:わかりました! 勉強になります!
姫野せんぱい:とはいえ
姫野せんぱい:私が言える事ではないんだけどね
わたし:はい!
わたし:はい?
姫野せんぱい:桃子はラインでも元気だね
姫野せんぱい:おかげで話がしやすい
姫野せんぱい:とても助かる
わたし:恐縮です!
姫野せんぱい:本題なんだけど
わたし:はい!
姫野せんぱい:日高先生を知っているかい?
わたし:美術の日高先生ですか?
姫野せんぱい:そう
姫野せんぱい:美術部顧問の
姫野せんぱい:桃子は美術選択だった?
わたし:いえ! 音楽選択です!
わたし:絵は苦手でなんです……
姫野せんぱい:そうか
わたし:でも音楽が得意ってわけでもなくて
わたし:自分の絵と自分の歌の下手度を比較すると
わたし:より自尊心を保てるほうが歌だった
わたし:という理由です!
姫野せんぱい:そうか
姫野せんぱい:桃子
わたし:はい!
姫野せんぱい:あまり自分を卑下するものじゃないよ
姫野せんぱい:私は桃子が頑張っているのを知っているから
姫野せんぱい:そんなに周りの目を気にしなくてもいい
わたし:はい……
姫野せんぱい:今度一緒にカラオケに行こう
姫野せんぱい:桃子の歌を聞きたいな
わたし:はい! 前向きに検討します!
姫野せんぱい:話に戻るが
姫野せんぱい:先生が夏から産休に入ることは?
わたし:知っています!
わたし:廊下であいさつしたときとか
わたし:ずいぶん大きくなっているのに気が付いたので
わたし:秋学期はもういないのかなって思っていたんですけど
姫野せんぱい:けど?
わたし:このあいだ美術部の友達が教えてくれました
わたし:テストが終わったら産休に入るので
わたし:しばらく会えなくなるって
姫野せんぱい:美術部に友人がいるのか?
わたし:はい!
わたし:高校に入ってから一番の友達です!
姫野せんぱい:なるほど
姫野せんぱい:それは好都合だ
わたし:あ、
姫野せんぱい:?
わたし:一番というのは順位としての一番とかじゃなくて
わたし:とても大好き、という意味でして
わたし:交友関係に一人ずつ順位付けしているわけではなく
姫野せんぱい:わかっているよ
わたし:そうですか
姫野せんぱい:桃子はそんな軽薄な人間じゃない
姫野せんぱい:君は自分が思っているよりずっと思慮深い
わたし:そうでしょうか
姫野せんぱい:生徒会会長のお墨付きだ
姫野せんぱい:次期、生徒会長だな
わたし:応援してます!
姫野せんぱい:ありがとう
わたし:あの
わたし:好都合、というのはどういう意味ですか
姫野せんぱい:ああ
姫野せんぱい:ずいぶん時間がかかってしまったな
姫野せんぱい:大事な睡眠時間を奪ってしまった
わたし:いえ! 実に有意義な時間です!
姫野せんぱい:ふふ
姫野せんぱい:ありがとう
わたし:はい!
姫野せんぱい:桃子に頼みがあるんだ
わたし:はい!
姫野せんぱい:産休に入る日高先生に花束を渡して欲しい
わたし:花束ですか! 素敵ですね!
姫野せんぱい:ああ
姫野せんぱい:しばらく会えなくなるからね
わたし:日高先生絶対喜びますよ!
姫野せんぱい:そうなるといいね
わたし:たぶん、喜ぶと思います
わたし:たぶん、というのはわたし個人の主観という意味で
わたし:確約はできませんが、その確率は非常に高いだろうと
姫野せんぱい:そうだね
わたし:すみません……
姫野せんぱい:桃子は面白いな
わたし:そうでしょうか……
姫野せんぱい:そう思うよ
わたし:わたしは
わたし:優柔不断です
わたし:物事を断言できません
わたし:自分の考えていることが
わたし:正しいことだと思えないんです
わたし:すごく嫌です
姫野せんぱい:桃子の悩みは美しいね
わたし:え
わたし:どういう意味でしょうか……
姫野せんぱい:さあ
姫野せんぱい:どういう意味だろうね
わたし:意地悪しないでください
姫野せんぱい:美術部が日高先生のお別れ会を開くので
姫野せんぱい:その日に先生が学校に来るそうだ
わたし:はい
姫野せんぱい:9月はじめの日曜日だったかな
姫野せんぱい:そのときに花束を渡して欲しい
姫野せんぱい:美術部に所属しているのなら
姫野せんぱい:桃子の友人もその日に来るはずだ
わたし:はい
姫野せんぱい:知り合いがいるなら心強いだろう
わたし:はい
姫野せんぱい:桃子の予定が合えばいいんだけど
わたし:大丈夫です
わたし:夏休みは何にもありません
姫野せんぱい:ならよかった
姫野せんぱい:こんな時間にすまなかったな
姫野せんぱい:ありがとう
わたし:いえ
姫野せんぱい:もちろん花束にかかる費用は私が持つ
姫野せんぱい:お金については心配しなくていい
わたし:はい
姫野せんぱい:桃子
わたし:はい
姫野せんぱい:自信は経験を重ねて身につけるものだ
姫野せんぱい:知らない場所に行ってみるのも悪くないよ
わたし:はい
わたし:はい!
姫野せんぱい:それじゃ
姫野せんぱい:おやすみ
わたし:おやすみなさい!
わたし:です!